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いつもご愛読ありがとうございます。 スキやコメントなどいただき、とても嬉しいです。 ゆるく書いていこうと思っていますので、ゆるくお付き合いください。少しでもみなさんの心に引っかかることができれば、幸いです。

マガジン

  • まとまらない思考の走り書き。または思考の記録。

    思いつくままに書き連ねています。

  • 無口な店主と酒場の客

    小さな酒場を営むキヨと、そこに集う客たちの、何気ない物語たちです。 悩みの多い人生、小さな酒場で愚痴ったり弱音を吐いたり、そんなひと時も悪くないですよね。

  • 魔法使いの道中

    『無口な店主と酒場の客』シリーズと同じ世界にて。 旅人魔法使いの放浪記。

  • 語り場ダイナー

    映画の感想を、会話文を用いて書き連ねています。

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屍姫と桜の葬儀

「どうぞ祖父をよろしくお願いします」 まだ二十歳にもならないような青年は、泣くのを堪えて頭を下げた。私はそれに、はいとか、わかりましたとか答えて、落ち着かずにペコペコやった。とにかく、早く立ち去って欲しかった。 青年は、何度も何度も頭を下げて、やっとの思いで帰路につく決心がついたらしい。それじゃあまた明後日に、と念を押してトボトボ遠ざかっていく。私はそれをたいして見送らず、とっとと玄関のドアを閉めてしまった。 ハァ、とついため息がこぼれる。しかし、呆然と立ち尽くしているわけに

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      まちなか

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        風景写真

        • 白鯨少女

          雨上がりの、澄んだ青空が広がる昼下がり。 鍵の掛からなくなった扉を潜り、屋上へ忍び込んだ。もう数え切れないほどに破ってきた校則だが、今のところ教師には見咎められていない。 案外、見ていないものだ。 コンクリートに寝そべり、目を閉じる。 鳥の声がして、風の音がして、木々が騒めく音がして。それ以外、この屋上には何も無い。 それが、今の私には驚くほど心地よかった。束の間、何かを考える必要がない。 仕事。 大学。 部活。 友人。 教室。 宇宙服のように覆い被さってくるそれら全て、この

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        屍姫と桜の葬儀

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          9本
        • 無口な店主と酒場の客
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          8本

        記事

          老人と旅人

          往年の旅人は僕に言った "まだ君はとても若い、先は長い" 腰を下ろした白髪が風に揺れた 疾うに旅を終わらせた彼は今、海を見る 駆け、巡り、渡った遠い空を、地を思う 重たい荷物を背負いこんだ僕の肩を叩く そしてまた、低く掠れた声で強く語った "歳上を敬え、しかし決して圧されるな" "老人に敬服し己を見損ねてはいけない" "立ち止まり、後ろを振り向き己を確かめよ" 灰色の差し込む瞳は瘡蓋と傷跡に満ちていた 何を見て、聞き、話してきたか 彼はそれを教えてはくれなかった 瞳で伝え

          老人と旅人

          別名:おまけのシール

          気付けば長い付き合いで、 手札は一枚ぽっきりだった。 "書く" 誰にだって経験のある、 誰にだってできてしまうこと。 そのたった一枚を時には傷付けながら、 ポケットにしまってここまで歩いてきた。 ぼろぼろの"書く"だけ。 ギターを弾いても、 絵を描いても、 おもちゃを手作りしても、 スポーツをしても、 写真を撮っても、 料理をしても、 しっくり来なくて置いてけぼりにした。 そうやって手元に残った、 "書く" それだけがどうやら自分というらしい。 汚れて破れて、霞んだ文字の小さ

          別名:おまけのシール

          大粒の雨が降り注ぐと知って 傘など持たずに家を飛び出した 髪も服もびしょびしょに張り付いて それがたまらなく楽しかった あの頃の心はまだどこか残ってる? 生憎の天気、とか 天気が悪い、とか 早くやめばいいのに、とか 残念、だとか いつからそんな言葉に置き換わったんだろう 雨はいつだって雨で 何も変わらないはずなのに 大人になったら昔と違うものを押し付けてたはじまりを告げる恵みの音楽だったのに 今は終わりを語る不快な雑音のように 悲しさをまとわせてたのは僕の方だった 濡れ

          セピアと桜

          自分の自宅兼職場に大きな桜が植わっているのは周知の事実だ。それを嫌がる人もいれば、風情があると好む人もいる。 葬儀屋に桜。 自分としては、この上なく噛み合った組み合わせだと思う。桜ほど静かに死を見つめ、見送る花はないのだから。 あからさまに死を嘆く様でもなく、かといって似合わぬ花でもない。ただ、死と掛け合わせた時に、妙にしっくりと静かに嵌る花だ。 子どもの時分は、花のひとつにここまで情を向けた試しはなかった。ただ、毎年同じ季節に何処かで咲いては枯れるもの。それだけのことで、興

          セピアと桜

          無題

          もし時間に意味が無いのなら 過去と繋いだ左手も 未来と握り合った右手さえも 私は振り払って二度と振り返らない いつかの日の置き土産だった明日も いつかの日の前払いだった昨日も ぜんぶ今日に変えて抱えて息をするの そうして山積みになった今日を繰り返し 繰り返した先が人生というのでしょう

          貴方に救われました、と。

          君のままでいいんだよ、とか ありのままでいればいい、とか 聞こえのいい言葉は消化が良いもんだ 一瞬だけ効果のある薬みたいで 溶けて消えたら何事も無かったようになる 羨ましい 妬ましい 変わりたい 変われない 踏み出したい 踏み出せない 追い掛けたい 逃げ出したい 飛び出したい 隠れていたい そうやって押し問答は続いてく 自分のことなんて愛せないから 優しい言葉が皮膚を逆撫でして震わせる "今のままでいい"なら悩んじゃいないだろ 自分のままでいたくない ありのままなんて受

          貴方に救われました、と。

          氷の街と子ども

          つい数日前までは、完璧に整備された普通の道路を駆け回っていた。今じゃ、数億年くらい前の出来事っぽく感じるが、実際たかが数日。 目を閉じなくても、ちゃんと憶えてる。 学校を仮病で早退した日なんかは、路地裏に入り込んで猫の後を追い掛けた。たまぁに、駄菓子屋の婆ちゃんの目を盗んで飴をちょろまかしたりもしたかも。バレなきゃ、なんだってアリだ。 ──しかしじゃあ、今は? そう、様相が変わった。丸っきり、丸ごと、百八十度、天と地ほど。 原因は? 川上にある、無駄に巨大で仰々しい工場が警報

          氷の街と子ども

          ネェネェ、

          ちょいとそこの、ここへ止まりヨ 召喚、消閑、ひとり芝居のガランドウ 貴重なお時間お預けご覧 芝居の数は八百万 どんなお役もお任せなさいナ 上手く演じて差し上げマスぜ 男でも女でもないアタクシですから 姫も王子も其れ以外のもお手のもの こないだ演じたなァ、大きな黒蛇 地べたを這いずり舌をチロチロ 堕ちた林檎を丸かじりサネ 愉快痛快、ほんのり痛い イヤイヤ、楽しゅうござりましたヨ 芝居の醍醐味ゃ、自分を失うコトでして 魂お借りしてる間は己なんぞとはお別れサ 愛しい他人様に身

          ネェネェ、

          手向け花

          親友が死んだ。 それはそれは憎たらしいほど青い空が地上を見下ろす、三月の晴れた日のことだった。 連絡をしてきたのは奴の母親。途中から泣き始めてよく聞き取れなかったが、「葬儀は明後日」と言っているらしいことはわかった。 親友の葬式。……出たいとは思うが、身内の葬式でもないのに急遽仕事を休むこともできそうにない。どう言葉にしたかは忘れたが、空いている日に花を手向けに行くと伝えた。 電話を切ると、静かな喧騒が耳についた。窓の外から聞こえる風や、自転車や車の出す音に、人の話し声。春と

          手向け花

          あいいれぬ月

          愛していたから。 理由は、ただそれだけでした。 鬼は毎朝、毎晩、毎日、白い頬へ口付けを落とすのです。目を閉じたままの女は応えてはくれないけれど、鬼は気にしません。 何故って、女は死んでしまったのですから。鬼が、殺してしまったのですから。 "愛していたから"。ごく簡単な理由で、女は鬼に命を閉じられてしまいました。けれども、女は美しい寝顔で眠り続けています。鬼は、死してなおも気高い顔立ちの女を、深く愛しました。 愛が何かなど、鬼にはわからないのに。 「綺麗だね、綺麗だね」 鬼は何

          あいいれぬ月

          誕生日、迎えました。

          誕生日を迎えた。 自分の年齢を思い知って、子どもじゃないことを痛感して、あー、こんな年にったんだと一人感慨にふける。この年齢の重みに見合う成長をしているのか、自分は。 相も変わらず、長生きしたいとかは思わない。なんなら、七十代とかになる前に終わりを迎えるくらいの心積もりで。でも、長生きを嫌がる理由は何だか大きく変わった気がする。 昔は斜に構えて、荒れていて、ひねくれていて、『生きててもつまんないし、いつ死んだって変わりゃしないんだ』が理由だった。今思うと、本当に若くて知った風

          誕生日、迎えました。

          空夜の煙

          煙草の煙が立ち上るベランダ 見下ろせば家路に着く人たちが行き交って キラキラ、キラキラ、目が痛い あの人は何処へ行くのだろう この人の帰る場所は誰なんだろう 勝手に考えては物語を背負わせた 離婚寸前の会社員 三児を育てる若夫婦 恋人募集中の大学生 ……あれはきっと、付き合う間際の高校生 空夜に煙草の煙が揺らぐ 酒の肴は月華が照らす街の人たち 火が消えるまで、あと数分

          空夜の煙