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会社の成長を支えるナンバー2の育て方 vol.89 ナンバー2の役割⑪諫言役の機能

諫言してくれるナンバー2はいますか?

ナンバー2の役割解説も11回目を迎えました。今回は諫言役(かんげんやく)についてお伝えしようかと思います。

諫言を辞書で引くと、

「目上の人の過失などを指摘して忠告すること。」とあります。批判や非難との違いは、対象となる人と建設的な意味合いがあるかどうかという点にあります。

諫言にはどんな印象を持つでしょうか。「できることなら耳障りの良くないことは聞きたくないもの」、それが人情かと思います。

そして、優れたリーダーとは独断専行型で絶対的な自信を持ち、他人の意見や忠告に耳を貸さずに自分の主張や考えを通すことが強いリーダーシップだと思っている人も少なくありません。

ただ、社長も人間です。誤った判断をしてしまうことも、気づかぬうちに慢心し、傲慢になったり、尊大になることもあるでしょう。

そうならないためにも、時々は社長の行き過ぎた言動や判断にブレーキをかけてくれる存在が身近にいると、身を正し、誤った判断を減らすことにつながります。

とはいえ、社長は会社の最高権力者ですから、雇われている側からも言いたいことはあっても、それを面と向かって社長に物申すなどなかなかできませんし、仮に諫言したとしても社長が聞き入れるだけの度量がなければ良い薬にもなりません。

「雇われの分際で社長に対して何を生意気なことを」と大激怒され、理不尽な処分を受けても困りますから、諫言は諫言をする側も聞く側にも相応の覚悟が必要なのです。

私も会社員時代にナンバー2として仕事をしていた時に、最も気をつけていたのがこの諫言であるといっても過言ではありません。上司を不快にせずに、言うべきことは言う。ある意味、勇気も必要ですし、気遣いもしながら実践していました。

【過去記事はこちらから】
ナンバー2の役割①補佐役の機能
ナンバー2の役割②フォロワーの機能
ナンバー2の役割③実行役の機能
ナンバー2の役割④通訳役の機能
ナンバー2の役割⑤改革役の機能
ナンバー2の役割⑥調整役の機能
ナンバー2の役割⑦統括役の機能
ナンバー2の役割⑧代理役の機能
ナンバー2の役割⑨嫌われ役の機能 
ナンバー2の役割⑩諜報役の機能

中国古典に登場する諫言にまつわる話

古来、中国古典にもこの諫言についての多くの考察がありますが、それだけ難しく、悩ましい課題であることがわかります。ここでは諫言にまつわる話をいくつかご紹介したいと思います。

木は縄に従えば則ち正しく、后は諫めに従えば則ち聖なり
(どんな樹木でも墨縄に従って製材すれば真っすぐな材木がとれる。それと同じように、どんな君主でも臣下の諫言に耳を傾ければ立派な君主になることができる。)

「貞観政要 求諫篇」

組織のトップといえども道を踏み外すことがあるが、部下の諫言に耳を傾けることができれば立派なトップになれると説いています。

諫に五あり。一に曰く、正諫。二に曰く、降諫。三に曰く、忠諫。四に曰く、戇諫(とうかん)。五に曰く、諷諫(ふうかん)。

正諫・・正面から正論を伝える
降諫・・へりくだって相手の顔を立てながら伝える
忠諫・・真心を込めてひたむきに伝える
戇諫(とうかん)・・怒鳴られても愚直に粘り強く伝える
諷諫(ふうかん)・・それとなく遠回しにほのめかす

「論語」

忠告をするにもストレートにずけずけ言うと相手も気分がよくないですから諫言にもやり方があることを説いています。諫言の目的は相手に自身の過ちに気づいてもらうことなので、相手や状況に応じて使い分けることも確かに必要でしょう。当時ならその場で斬り殺されてしまうこともありますから諫言する側も命懸けだったのです。

君子は信ぜられて後に諫む。未だ信じられざれば、則ち以て己を謗るとなす。
(君子は十分に君主の信頼を得てから初めて諫言する。信頼もされていないのに諫言などすれば、あら探しばかりする人間だと誤解されてしまう。)

「論語」

これは部下への戒めの言葉です。先ずは仕事で実績を積み上げ、いつも誠実に振舞い、社長との信頼関係ができてはじめて諫言する資格を得ることができると孔子は言っています。仕事で大した実績も出さないうちから意見を言えば、あら探しの批評家と思われても仕方がありません。

夫れ竜の虫たるや、柔狎して騎るべきなり。然れども其喉下に逆鱗径尺なるものあり。若し人之に嬰ふる者あらば、則ち必ず人を殺す。人主もまた逆鱗あり。説く者よく人主の逆鱗に嬰れること無くんば、則ち幾し。
(竜という生き物は飼い慣らして乗ることができる。しかし、その喉元には一尺の逆鱗(逆さに生えた鱗)がある。もしこれに触れる人間がいると、竜は必ずその人間を殺す。君主にも同じように逆鱗がある。君主に意見を述べる者がこの逆鱗に触れないようにすれば、説得は成功したも同じだ。)

「韓非子 説難篇」

韓非子の「逆鱗に触れる」で有名な一節です。諫言には言い方、やり方はあるものの絶対に触れてはいけない地雷を踏むことだけは避けなければならないと説いています。

ぱっと頭に浮かぶものだけを書き出してみましたが、諫言についての話はこれ以外にも中国古典では多いです。

君主と臣下、トップと部下との間には緊張感があることは今も昔も変わりませんが、優れたトップほど諫言してくれる部下を大事にしているのも変わらない点です。

著名なトップの言葉をさらに紹介すると、徳川家康も「主君に対する諫言は一番槍よりも値打ちがある」と言っています。一番槍は武士にとって最高の名誉とされていましたが、諫言にはそれ以上の価値があるという訳です。

松下幸之助さんも部下でPHP研究所社長だった江口克彦さんに同様のことを語っています。

「きみな、一生懸命、経営をして成果を上げているけど、自分で気づかん問題点もいっぱいあるわ。だから、いろいろ批判する人も出てくるけど、そういう人を大事にせんとあかんよ。部下でも同じことや。」
「周囲は、ええことばかり、きみのご機嫌をとるようなことばかり言うわ。まあ、すすんで、経営者、指導者に、諫言してくれる部下とか、直言してくれる人を大事にせんとな。家康も、主君に対する諫言は、一番槍より値打ちがあると言うてるやろ。あんた、こういうことに気を付けないとあきませんよ、こういうところは直さんとあきませんよというそういうことを言ってくれる人を、意識して大事にするということやね」

諫言してくれるナンバー2を持つことのメリット

■客観性と視点の提供
感情や個人的な関係に左右されず、客観的な意見を聞くことで自分を振り返り、内省する機会を得ることができます。
■判断力の向上
適切な情報、特に社長が把握していない悪い情報や異なる意見を聞くことで、社長はより判断の質が向上し、リスクを最小限に抑えることができます。

諫言してくれるナンバー2を持たないデメリット

■意思決定の偏り
諫言役がいないと、社長は自身の意見や視点に過度に依存し、意思決定が偏りやすくなり、客観的な視点や異なる意見を取り入れる機会が減少します。結果、誤った判断をしたり、従業員から不興を買っている態度、姿勢について改めることができず、求心力の低下を招きます。
情報の不足
諫言役がいない場合には、社長が得る情報が限られてしまうので、不完全な情報で意思決定を行い、事業の失敗や内部崩壊を起こしてしまうことがあります。
■孤立した社長となる
社長は孤独と言いますが、求心力が低下した社長は孤立します。業績が良く、従業員が増えても大きなストレスと不満を抱え、経営者としての喜びを感じない悪循環に陥ります。

イエスマンで固めた社長の末路

諫言役を持たない社長はとかくワンマン社長になりやすく、自分の周りをイエスマンで固めたがります。自分の考えや発言に反対せずに従ってくれる人のほうが気分が良いので、そういう人物ばかりを評価し、昇給・昇進させてしまいます。

裸の王様を担いで、能力や実績と不釣り合いな高評価を受けたイエスマンはますます調子に乗り、権力を笠に着て部下にぞんざいな態度を取るなどして会社を腐らせていきます。

結果、有能な社員ほどさっさと去り、残った社員もやる気をなくして無気力となります。誰も本音で話さなくなり、互いに協力しようとしなくなり、社員のエンゲージメントは低下し、業績にも大きな影響を及ぼすことになります。

帝王学の教科書、『貞観政要』

諫言といえば貞観政要なのですが、以前にも記事にしていますので参考までにリンクを貼っておきます。気になった方はぜひ貞観政要を手に取って読んで頂きたいなと思います。

社長は諫言を受け止めるためにどうすればいいか

諫言を素直に受け止めるためにはどうすればいいかということにも触れておきます。

■人は過ちを犯しやすく、また慢心しやすいものだと考える
諫言は成長や改善の機会であり、ありがたい機会だと理解できれば、内省する時間が増え、課題を発見し、対策を講じることができます。

■言いにくいことを言ってくれたことにむしろ感謝する
諫言する部下が社長に言いにくいことを言うのには理由があります。それはもちろん会社が良くなって欲しい、尊敬され、慕われる社長になって欲しいという思いがあるものです。その気持ちに感謝できる社長なら器が大きい社長だとして信頼や忠誠心も高まります。

■感情をコントロールする
諫言は必ずしも気分の良いものではありません。内容によっては怒りや情けなさなどの感情も湧き上がってくることもあるでしょう。ですが、じっと堪えてみてください。慣れてくると冷静かつ客観的に受け止められるようになります。訓練あるのみです。

■諫言に際しての礼儀作法を守らせる
出来た部下なら感情的になったり、社長の自尊心を著しく傷つけるような物言いはしないでしょうが、諫言に慣れていない不作法者もいます。社長が真摯に諫言を受け止めようと思っていても、言いたい放題では怒りを感じるでしょう。親しき仲にも礼儀ありでもありますから、言葉遣い、態度、主観的な思い込みでの発言は慎むようにと伝えておくことは大事です。

まとめ

諫言役について解説させて頂きましたがどのような感想をお持ちになられたでしょうか。

会社で一番偉くて、誰よりも有能で、常に正しいのは自分であると思っていると部下の意見に耳を傾けられなくなってしまいます。その結果がどうなるかは本当に聡明な経営者であれば想像に難くないでしょう。

私自身は諫言というのは、子供が間違った方向に行きそうな時に厳しく接する親の愛情に似たようなものかと考えています。

子どもが憎くて、嫌いで、厳しいことを言っている訳ではなく、「あなたにはもっと可能性があるし、つまらない人間になって欲しくないだけ」そんな親の気持ちに似ているような気がします。

会社における上司と部下との間にそこまでの気持ちが生じるかは人によるのかもしれませんが、中には真剣に社長のため、会社のためにあえて苦言を呈する部下もきっといるでしょう。

社長に諫言するのは勇気の要ること。その気持ちも汲んで、よくぞ言ってくれたと言える社長の方が何倍もカッコいいのではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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