タンザナ

プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #5 【恐怖の化身】5

「太陽のプリンセス? 随分と大仰な通り名ね。それは自分でつけたの?」

「ウィガーリーより東に位置するマクスヤーデン。人呼んで太陽王国。わたくしはその国の麗しきプリンセス。故に、ですわ」

「ふふっ、おかしな方ね。普通の人は、自分のことを『麗しきプリンセス』などと呼ばないものよ」

「ヴァンパイア風情が何をおっしゃるやら……」

 タンザナと正面から睨み合い、舌戦を繰り広げながら、イキシアは思考を

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #5 【恐怖の化身】 4

「セヤーッ!」

 カーネリアはほとんど怒声じみた叫びと共に斬撃波を放った。刃から飛び出した細く短い光の筋が、空間を切り裂くようにしてタンザナへと襲い掛かる。

「ふんっ!」

 だがタンザナはこれを避けようとせず、逆にその豊満な胸を張るようにして正面から受け止めた。カーネリアの斬撃波が、彼女の身体に当たるとともに雲散霧消する。

「この程度の攻撃で――」

「ハーッ!」

 だがタンザナが勝ち誇

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #5 【恐怖の化身】 3

その巨大な脚は踏みしめる度に大地を揺らし、暴力的な尾は振り回される度に風を鳴らす。そして一度口を開けば、灼熱の炎が天を焦がす。ドラゴンとはそのような生き物だと言い伝えられている。

「ギギャーッッ!!」

 その恐怖の化身、ドラゴンの叫びが、チャーミング・フィールド中にこだまし、アンバーの鼓膜を震わせる。ドラゴンの傍らでは、薄紫色の髪をした見目麗しいヴァンパイアが妖しく笑う。人々に原初的な恐怖をも

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #5 【恐怖の化身】 2

「セヤーッ!」

 カーネリアが掛け声と共にロンダートの動きに入り、そのまま連続バック転でタンザナとの距離を詰めていく。やや間をおいて、剣を謹聴させる音がメノウのいる辺りから聞こえてきた。確かにそのはずであった。

「セイッ!」

 だが、タンザナが斬撃を受け止めたのはメノウが先だった。

「やあっ!」

 タンザナはそのままメノウを弾き飛ばし、カーネリアの繰り出すローリングソバットの射線上へと導

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #5 【恐怖の化身】 1

アンバーが目を開くと、そこは見渡す限りの荒野であった。所々に台座じみた岩が立ち並び、風が吹けば砂が舞う。そんな荒廃が無限に続くかのような虚無の空間はしかし、彼女には馴れ親しんだ場所だった。

「貴女のチャーミング・フィールドですわね」

 突如聞こえてきた声に振り向くと、そこには優雅な茶髪の女性が立っていた。女性は腕を組みながら、不満げに言葉を続ける。

「相変わらず殺風景な眺めですこと。まあ、わ

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #4 【月夜に嘲う】 6

食卓に並べられた料理の数々が、次々とタンザナの口に吸い込まれていく。その光景は、食事というよりも純粋な摂食に近かった。野生の肉食動物は、獲物を捕獲した時に胃袋に入る限界まで肉を詰め込む。そうすることで、次の獲物を捉えるまでの日々を耐え忍ぶのだ。アンバーはさほど勉強熱心な生徒というわけではなかったが、今のタンザナの姿は彼女にその知識を呼び起こさせるのに十分な程、豪快かつ野性的であった。

「……美味

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #4 【月夜に嘲う】 5

リビングに備えられたソファに腰掛け、腕と足を組みながら、イキシアは静かに時が来るのを待っていた。隣のダイニングに併設されたキッチンからは、時折油の弾ける音と調理器具が重なる音が聞こえる。立ち込めてくる香りが鼻をくすぐり、食欲を刺激してくるが、イキシアは眉ひとつ動かさず、リズムを取るように指とつま先を僅かに動かすだけだ。

 テーブルを挟んで向かいに座るカーネリアは、微動だにせず押し黙っている。その

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #4 【月夜に嘲う】 3

その夜、ガーネットは見張りの任についていた。月明かりに照らされつつ、夜風を体に受けながら城壁の外へと目を光らせ、外部からの侵入者、あるいは凶暴な魔物を見張るわけだが、実際はそのような類のものが現れることは滅多にない。今の彼女の敵は、主に自分の内側から襲ってくる眠気ぐらいだろう。

(……退屈だな)

 手持無沙汰になったガーネットは、腰に差した2本の剣をうちの1本を鞘から抜いた。この聖剣は彼女の家

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #4 【月夜に嘲う】 2

「……まだかなあ………」

 工房の軒先でシャッターに寄りかかりながら、アンバーはタンザナの帰りを待っていた。空には満月を明日に控えた月が輝き、時折吹く夜風が髪を弄ぶ。まだまだ夜は冷える季節だ。アンバーはふと、家のドアを開け、リビングの様子を確認した。ソファーの上で横になるカーネリアの体から、掛け布団がずり落ちている。アンバーがリビングに戻ってそれを拾っていると、階段の上から声が聞こえてきた。

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プリンセス・クルセイド 第2部「ザ・ナイト・オブ・ヴァンパイア」 #4 【月夜に嘲う】 1

ジュージューと音を立てる鉄板の上の肉を、タンザナが優雅に切り分け、次々と口に運んでいく。そうしてあっという間にステーキ1枚をたいらげた彼女の脇には、すでに山となった鉄板が積まれている。

「……凄まじいペースですね」

 それを隣で見ていたメノウは、その迫力に圧倒されたいた。

「そうですか? まあ、なにせお腹が空いていましたからね」

 だが当のタンザナはそんなメノウの反応など意にも介さず、また

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