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一日の始まりは0歩から。小さな友達、万歩計。一緒に歩もう一万歩!


 通販で買った万歩計。掌に乗るお豆さん。
 ボタンを押せば、0歩になる。ポケットに入れれば、朝の準備終了。
 さあ、一緒に歩こう万歩計。今日も一日、よろしくね。
 部屋の中で行きつ戻りつ。
 どこを歩いたって、一歩は一歩。
 洗面所の前でも足踏みさ。ご飯を食べる時は、貧乏ゆすりなんてやらないよ。そんな、せこい一歩は一歩じゃない。フェアに行こうぜ今日だけは。
 でも、ポケットの中で、揺れている。
 万歩計君のライバルは、スマホのアプリ。
 でも、大丈夫。
 いつもいつも、スマホをズボンに入れるのは無理だもん。スマホアプリは、せいぜい家の外で、計るくらい。
 記録を試してみると、ライバル同士、互いのデータは似ていたよ。一割くらいの差は、差じゃないさ。足して二で割りゃ、いいかもね。
 さあ、出勤。
 事務所について、ポケットから出してみよう。
 一日の始まりは、通勤歩数。
 あれれ、1000歩に満たず。電車で通勤便利も考えもの。でも、途中の駅で降りたら、遅刻になる。
 朝は無理せず、おだやかに。
 じゃ、帰りに一駅、二駅、歩こうか。
 やってみたら、結局コンビニのハシゴ。行く先々のコンビニで、誘惑に負けて、買いまくり。
 歩数はそこそこ、両手の荷物は重いのなんの。これじゃ、一万歩じゃなくて、筋トレだ。
 軽くなったのは、財布だけ。
 行く先々で、雑誌を買い、ジュースを買い、アメリカンドッグを買って、ついでにお菓子に、お握りと。
 コンビ二好きは、途中の駅で降りない方がいいかもね。
 さて、お話を、朝のお仕事にもどそうか。
 まずは、事務所をあちこち歩きまわって、歩数を伸ばす。エレベーターには、絶対乗らない。苦しくたって、階段の上り下りは、ライフワーク。気合を入れよ。太腿に。
 でも、手ぶらだろうが、重い荷物を担ごうが、一歩は一歩。
 ならば、ダンボールの箱みたいな重い物は避けたいね。たった一歩で、肩腱板断裂は、コストがかかり過ぎ。治りにくいよ、頼みの綱はロキソニン。
 お昼の御飯も、歩こうね。
 遠くの店に行ってみよう。裏通りの店は、どうかしら。昼は歩数の稼ぎ時。立ち止まっては、万歩計を覗いてみては、よしと頷き遠回り。運動会だ、ようい、ドン、なんてね。
 仕事が終わっての帰り道。今日はまっすぐ帰ろう。コンビニなんか、寄るもんか。誘惑に打ち勝つのが、一万歩。
 でも、ちょっと、一杯、居酒屋だ。頑張った自分に、ご褒美を。
 一杯が二杯になって・・・・・べろべろに。
 帰りは、あっちによろよろ、こっちによろよろ、道をまっすぐ歩けない。
 やっと家に帰って、ドアの前。ポケットから鍵を出すより、万歩計を出しちゃった。
 歩数は伸びて、新記録。不健康な新記録。
 家に入っては、まず太田胃散。明日のために、飲みまくり。
 風呂に入ろう、ズボンを脱いで、いつものとおり、洗濯機。
 翌朝は、休みの土曜日、天気晴れ。
 ズボンを洗濯、外に干したよ。
 ちっと、二日酔いを覚まそう。散歩だぞ。あれれ、万歩計は、どこ行った。家出したのか、見あたらず。
 あたりを捜して、まいったなあ。
 その時、天才的な閃きが。
 ベランダの物干しざおに揺れる昨日のズボン。きれいな湿ったズボンのポケットに、思いっきり手を突っ込んだ。
 あったあ。
 干したズボンの中から出てきたよ。掌に乗る、小さな小さな万歩計。死んだら僕のせいだよと、恐る恐る覗き込む。
 おおっ、新記録更新。
 恐々、ボタンを押すと、おおっ、万歩計が0になる。
 生きてるぞ。水に強いね、万歩計。君なら、水泳部に入れるぞ。
 まてよ、海水パンツじゃ、歩数は無理か。50メートルプールで、スタートで1歩、ターンで一歩、ゴールで一歩。100メートルを3歩で行くのが万歩計。一万歩はどのくらい、もう泳ぐ妄想はやめようね。 
 とにかく、洗濯しても、生き残ってくれたよ万歩計。ごめんよ、今度は気を付けるからね。
 こうして、今日も、朝の一歩が始まった。ポケットに万歩計を入れて、外に出た。
  


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