マガジンのカバー画像

大人がハマる昆虫研究

27
40になって知ったディープな昆虫の世界。身近な環境も、視点次第で宝の山に。
運営しているクリエイター

記事一覧

双眼実体顕微鏡のフレア解消法

双眼実体顕微鏡のフレア解消法

はじめに最近購入した廉価品の双眼実体顕微鏡で白い背景で虫を観察すると、視野全体に白っぽいフレアが広がり、まったく使い物にならないことが判明した。廉価品とは言っても、メーカー希望小売価格10万円、実勢価格4万数千円である。実に落胆させられたが、ローテクの工夫でフレアをほぼ解消し、劇的にコントラストを上げることができた(トップ画像参照)。材料はタダ同然の簡単な工作でできるので、紹介する。

フレアの発

もっとみる
小蛾類の展翅法

小蛾類の展翅法

はじめに 昨今の昆虫界において蛾類愛好家は意外と多いが、いわゆる小蛾類(ミクロレピ)とよばれる小型種の愛好家は依然として少数派である。小蛾類は、小型ながら、金属光沢や豊かな色彩を持つ美麗種が多い。

小蛾類では、生態も未解明の種が多いため、コレクションの対象としてのみならず研究対象としても魅力的な分類群と思われるが、標本作成と種同定の困難さが敷居を高くしている。小蛾類の展翅法に関しては、過去にいく

もっとみる
ヨシトミダルマガムシ徒然

ヨシトミダルマガムシ徒然

はじめに ヨシトミダルマガムシHydraena yoshitomiiという水生甲虫がいる。ダルマガムシ科に属する、体長1.5 mmほどしかない微小種である。ダルマガムシ科の中でも、赤茶色の体色が特徴のシコクダルマガムシ種群に属する種で、この仲間は、通称、赤いダルマガムシ(赤ダルマ)と呼ばれる。

ダルマガムシ科の虫はいずれも微小で、見つけるには種ごとにコツを要するが、この赤ダルマの仲間は、特に採集

もっとみる
菌食性甲虫つれづれ

菌食性甲虫つれづれ

菌食性甲虫というのがいる。菌食性とは、キノコを専門的に摂食するという意味だが、それらが食べるキノコは、人間が食べるような柔らかいキノコではなく、朽木や立ち枯れについているカワラタケのような硬いキノコであるのが普通である。山中を歩いていると、このような硬質キノコがたくさん付いている立ち枯れなどがよく見つかるが、それらを見て回ると、たくさんの小甲虫が群がっていることがある。

これらの菌食性甲虫は、ど

もっとみる
簡単なヤマビル撃退法

簡単なヤマビル撃退法

虫を始めて間もない2017年初夏のこと。当時、地上徘徊性甲虫のゴミムシ類の採集にハマっていたのだが、身近な耕作地に生息する種は大方把握できたので、湿地性の種を見たくなり、居住している厚木市内にある休耕田の湿地(下写真)に、夜中に行ってみたことがあった。

ライトで地面を照らすと、予想通り、湿地性のゴミムシ類がたくさんいるではないか!憧れていたアオゴミムシやミイデラゴミムシも活発に動き回っていた。採

もっとみる
ヒルガオハモグリガの謎―身近な小蛾類の不思議な生態―

ヒルガオハモグリガの謎―身近な小蛾類の不思議な生態―

ヒルガオハモグリガBedellia somnulentellaという蛾がいる。開張(翅を広げた大きさ)が1 cmほどの小さな蛾である(下写真)。

本種はその名の通り、幼虫がヒルガオ類の葉の内部に潜って、表皮を残して内部の組織を摂食する。いわゆる小蛾類と呼ばれる小型の蛾の幼虫は、このような潜葉性の生態を持つもの(リーフマイナー)が多い。幼虫の潜葉食痕(マイン)は、下写真のような感じ。ヒルガオ類は、

もっとみる
自宅の庭に孤立発生したオオミノガ

自宅の庭に孤立発生したオオミノガ

オオミノガEumeta variegata (Snellen, 1879)という虫がいる。日本産のミノガ科(いわゆるミノムシ類)で最大の種である。幼虫は広食性で、あらゆる植物の葉を摂食する。終齢幼虫が被るミノは、トップ画像に示したような長さ数センチもある立派なもので、いわゆるミノムシのイメージに最も近い種だろう。オオミノガはほとんど人里にしか生息しないため、一昔前、冬に葉を落とした庭木に越冬中の幼

もっとみる
原始的鱗翅類 コバネガ

原始的鱗翅類 コバネガ

鱗翅目(チョウ目)は、昆虫の中でチョウや蛾を含む巨大な分類群であるが、その中で、コバネガ科という原始的な仲間がいる。一般に、チョウや蛾の成虫は、花の蜜や樹液などを吸うためのストロー型の口器を持っているが、コバネガの成虫にはそれがない。また、コバネガの幼虫は、他の鱗翅目の幼虫が目もくれないジャゴケ類を食べることで知られている。成虫の発生時期は短く、時期は種によって異なるが、春先から初夏にかけて、1か

もっとみる
夜、アブラムシの甘露に集まる蛾たち

夜、アブラムシの甘露に集まる蛾たち

トウネズミモチという外来の常緑樹がある。市街地でも生垣や庭木等に使われているが、鳥が種子を分散するようで、川の土手とかで侵略的に自生しているのもよく見る樹木である。初夏、この木の枝の先端の若葉が丸まるように変形し、白っぽい物質が付着して、何やらベタ付く水が葉から滴り落ちているのがよく見られる。

この美しさに欠ける光景は、アブラムシの一種であるトウネズミモチハマキワタムシのしわざである。本種は初夏

もっとみる
サムライアリの思い出

サムライアリの思い出

あれは私が小学校低学年くらいの時のことだ。茨城の実家には父親が作ってくれた砂場があり、よく近所の小さい子も砂場目当てに遊びに来ていた。ある日、隣の家の年下の女の子と砂場で遊んでいると、突然アリの大群がやってきて、砂場の上を通過し始めた。アリの行列と呼べるものではなく、文字通りの大群で、幅1 mくらいに広がっていた。隣の空地の草むらから続いているようである。あっけにとられて見ていると、大群は砂場のす

もっとみる
相模川のクビボソコガシラミズムシ

相模川のクビボソコガシラミズムシ

都市化の進んだ神奈川県では、多分に漏れず、止水性の水生昆虫は危機的な状況にあるが、流水性種に関してはまだ捨てたものではない。そんな中、県央を流れる相模川が誇れる水生昆虫は、クビボソコガシラミズムシ Haliplus japonicus ではないだろうか。水生昆虫としては、全国的にはやや珍しい部類に入ると思われるが、相模川の中流では普通に見られるのである。

私は2018年から水生昆虫の世界にハマっ

もっとみる
昆虫採集時の恐怖体験

昆虫採集時の恐怖体験

歌田 年「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」

2018年の「このミステリーがすごい!大賞」の大賞受賞作らしい。普段ミステリ本を含む小説はめったに読まないのだが、本厚木駅前の有隣堂書店で、「厚木市内の地名が出てくる名作」みたいな厚木市民の心を鷲掴みにするポップが付いていたので、気になって読んでみた。ミステリとしてのストーリーもよくできてるし、意外な方向にテンポよく話が展開して、なかなか面白か

もっとみる
クチキクシヒゲムシ―甲虫の捕食寄生性つれづれ―

クチキクシヒゲムシ―甲虫の捕食寄生性つれづれ―

邂逅 トップ画像の虫を知っている人がいたら、相当な甲虫マニアだろう。あれは、2018年の5月下旬のことだった。4歳(当時)の次男と神奈川県西部の明神ヶ岳を登山中、登山道脇のスギ?の樹幹に、やや大型の甲虫がとまっているのを発見した。一瞬、コフキコガネかと思って素通りしようとしたが、コフキにしては体形が細長いし、発生時期がまだ早い。立ち止まってよく観察すると、頭部にカミキリムシのような大顎があるではな

もっとみる
河口の中洲は宝の山―汽水性ゴミムシを探そう―

河口の中洲は宝の山―汽水性ゴミムシを探そう―

はじめに 汽水性ゴミムシ類という虫がいる。いわゆるゴミムシ類は、オサムシ科に属する地上徘徊性の甲虫で、あらゆる環境に多様な種が生息しているが、その中で、汽水性ゴミムシは、河川の河口近くに生息環境を見出したゴミムシ類である。そのような特異なニッチを利用する生態のため、開発によって生息環境が消失しやすく、都道府県レベルで絶滅危惧種に指定されていることが多い。

2023年4月現在、神奈川県では汽水性ゴ

もっとみる