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記事一覧
プールサイド(短編小説)
初夏の深夜、散った春の花々とかつての冬に落ちた枯葉の積もった五十メートルプールのサイドに僕は立っている。梅雨明けの掃除を待つプールは虫たちの棲家になっていて腐った匂いがする。一ヶ月もすれば子供たちが虫を取り、二ヶ月もすればその観察も忘れて嬌声と飛沫が上がる。街灯もクラクションも酷く遠く感じる。
僕は去年の夏の始まりから一ヶ月も生きられなかった夏祭りの金魚の死体を、この頃気温が上がったせいか水槽を密
ロールキャベツとホットワイン(短編小説)
何処かの方角が少し明るい、そしてそれは仕事を終えたのだから西のはずだ、と僕が気付いたのは、雨戸を開けたままのアパートの薄暗がりの中にいたからだった。
君が帰ってくるまでにかなり時間がある、君は最近はやっと見つけた医療系の職場でカルテが電子管理になる変更があるのでその業務に当たらなくてはならないと残業が続いている。
地方ではまだカルテを手書きだったのか、と僕は少し驚いたけれど、それを言うにも、君
郊外にて(短編小説)
一週間前に首都圏に降った雪は残雪になり、やがて溶け、後に春先の予感が残ると思われた。
確かに日中は労働者用のダウンは少し暑い、山田はネッグウォーマーを朝に玄関先で少し迷った後に脱いだ自分の季節の感覚を正しいと思った。
首都圏から少し離れた、ベッドタウンとも言えない郊外の工場の警備員アルバイト、それは何時もの派遣会社の仕事ではなく、知り合いに頼まれた穴埋めの仕事だった。
穴埋めの仕事であること
コインランドリーと葡萄(短篇小説)
夏が終わり、秋も始まらない、その九月七日の午後に、西陽が部屋に入り込み、冷房をまだつけていて窓を開けていないのに、カーテンが少し揺れる、気がする。
君は朝起きた時、季節の変わり目の雨を見ながら、僕に、「洗濯物が溜まっているのよ」とだけ言った。僕は「コインランドリーに行ってくるよ。銭湯の隣の」と言った。君は「そのまま入ってくるの?」と言った。僕は少し迷って、
「それは贅沢すぎるな」
と言った。