今村直樹

CM・PVなど映像コンテンツの企画演出をはじめ、「クリエイターがクライアントを選ぶ」オ…

今村直樹

CM・PVなど映像コンテンツの企画演出をはじめ、「クリエイターがクライアントを選ぶ」オフコマーシャルにも取り組む ディレクター。2012年〜2020年、東北芸術工科大学デザイン工学部映像学科教授。現在は株式会社いちといちを主宰。imamuranaoki.com

記事一覧

「今朝の秋」もうひとつのドラマ

先ごろ亡くなった脚本家・山田太一さんの追悼番組として『今朝の秋』(1987年NHK・深町幸男演出)が昨年末にオンエアされた。放送当時に録画して何度か見て、ドラマのおも…

今村直樹
4か月前
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「わざわざ」という渦。

30年来、東京と長野県蓼科の2拠点生活だったけれど(と言うより、東京に暮らしつつ週末やまとまった時間ができた時に蓼科に行くが正確)、去年の夏の終わりに、思い切って…

今村直樹
11か月前
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極私的「追悼・龍村仁」

新年早々に訃報が飛び込んできた。龍村仁さん、2023年1月2日死去。82歳、老衰のためとのこと。一般的にそれは、あの「地球交響楽〜ガイヤシンフォニー〜」を監督した人の死…

今村直樹
1年前
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高橋酒造「しろ」CMのこと。

『酒は文化』、高橋酒造5代目社長・高橋光宏氏による半生と企業活動を振り返る著書のタイトルだ。世が世なら、サントリーの「十八番」だったその言葉を掲げるのが、創業110…

今村直樹
2年前
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もっとみんながシアワセになるビールのCMがないものか?

「広告はこんなにバリエーションがあるのに、日本のビールって味が似たり寄ったりだな」つい10数年前まで、そう思っていたような気がする。それはそうだろう、メジャーなブ…

今村直樹
2年前
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ビール広告は、マーケティングの墓場か?

すっかり秋めいてきて、さすがにビールのCMもおとなしくなってきたようだ。もっとも「おとなしくなった」のはオンエア頻度で、たまに見かけるそれは相変わらずけたたましい…

今村直樹
2年前
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小林亜星さんを偲んで「責任を取るクリエイティブ」

数日前、作曲家の小林亜星さんの訃報がメディアやネットを駆け巡った。多くの顔を持つ亜星さんだが、いまも人々の記憶に残る息の長いCMソングの作曲者として有名だ。そのな…

今村直樹
3年前
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SONY BRAVIA 4K「美へのこだわり」篇(2013年)

 ベテランのCMディレクターともなれば、仕事を依頼される時は制作会社のプロデューサーが旧知の仲か、クライアントや担当のクリエイターがぼくを信頼してくれているか、何…

今村直樹
3年前
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畳をめぐる旅の第2章へ。

2/26〜3/2、青山で開催した「しあわせが変わる、明日の畳展」が無事に終了した。少し時間が開いたけれど、根本的なことを振り返っておこうと思う。 そもそも、なぜ、畳プ…

今村直樹
5年前
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T1/4は、畳をもっと地域に根ざしたものに変えていくかもしれない。

 ある時、鏡さん(山形・寒河江の畳店4代目)に何気なしに聞いてみた。「本当に山形ではい草が育たないの?」 「い草は、高温多湿を好むから、山形のような雪国ではとて…

今村直樹
5年前
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未来の畳屋さん

 ぼくが子どもの頃、畳屋さんは社会科の教科書だった。広く開け放した玄関先の仕事場で、職人さんが藁の塊のようなもの(藁床)に、大きな針でグイグイ畳表を縫いつけてい…

今村直樹
5年前
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え!? T-Quarterですか?

T1/4のネーミングは、関橋英作さん。いや、それ以前に、畳屋さんたちと畳のブランド「TATAMI-TO」の名付け親でもある。 関橋さんとぼくは、ほぼ同じタイミングで山形にあ…

今村直樹
5年前
14

T1/4は、いかにして生まれたか?

T1/4と表記して、T-Quarterと読む。TATAMI-TOで開発した1/4サイズの畳だ。 デザインは、手工業デザイナーの大治将典さん。「畳表やい草を使った新商品を開発していただき…

今村直樹
5年前
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「今朝の秋」もうひとつのドラマ

「今朝の秋」もうひとつのドラマ

先ごろ亡くなった脚本家・山田太一さんの追悼番組として『今朝の秋』(1987年NHK・深町幸男演出)が昨年末にオンエアされた。放送当時に録画して何度か見て、ドラマのおもしろさはもちろんだが、舞台になった蓼科の風景の美しさに魅せられた記憶がある。それをもう一度「確認したい」と思った。

なるほど、笠智衆、杉村春子はもちろんのこと、杉浦直樹、樹木希林、名古屋章ら、すでに鬼籍に入った名優たちの演技は、さす

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「わざわざ」という渦。

「わざわざ」という渦。

30年来、東京と長野県蓼科の2拠点生活だったけれど(と言うより、東京に暮らしつつ週末やまとまった時間ができた時に蓼科に行くが正確)、去年の夏の終わりに、思い切って東京の引き払い蓼科に腰を据えた。蓼科から、仕事があれば東京でのミーティングにも地域での撮影にも出かけるけれど、ここにいる限りたっぷり時間もあるし、「丁寧に暮らす」ことを大切にしている。となると、なによりだいじなのは食。野菜・肉・調味料・乾

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極私的「追悼・龍村仁」

極私的「追悼・龍村仁」

新年早々に訃報が飛び込んできた。龍村仁さん、2023年1月2日死去。82歳、老衰のためとのこと。一般的にそれは、あの「地球交響楽〜ガイヤシンフォニー〜」を監督した人の死として受け止められるだろう。ぼくに近い年代の人なら、矢沢永吉率いるキャロルのドキュメンタリー映画を撮った人、それが原因でNHKを解雇された人という受け止め方をするかもしれない。でもぼくにとっては、青春時代の恩人であり、その出会いがな

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高橋酒造「しろ」CMのこと。

高橋酒造「しろ」CMのこと。

『酒は文化』、高橋酒造5代目社長・高橋光宏氏による半生と企業活動を振り返る著書のタイトルだ。世が世なら、サントリーの「十八番」だったその言葉を掲げるのが、創業110年になる熊本の一酒造メーカーというのがおもしろい。佐治敬三氏がそうであったように、高橋社長も大の広告好き。いや、その時々で社長が気になったクリエイターと一緒に広告を作ることがお好きだったのかもしれない。
クリエイティブディレクターの副田

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もっとみんながシアワセになるビールのCMがないものか?

もっとみんながシアワセになるビールのCMがないものか?

「広告はこんなにバリエーションがあるのに、日本のビールって味が似たり寄ったりだな」つい10数年前まで、そう思っていたような気がする。それはそうだろう、メジャーなブランドのビールと言えば、ほぼピルスナー一択なのだから。味が似て、当然なのだ。
例えばニューヨークのビールサーバーがたくさん並んでいるバーなら「アンバーエールかな?いや、今日はペールエールだ!」などとチョイスするのは当たり前だし、ベルギーの

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ビール広告は、マーケティングの墓場か?

ビール広告は、マーケティングの墓場か?

すっかり秋めいてきて、さすがにビールのCMもおとなしくなってきたようだ。もっとも「おとなしくなった」のはオンエア頻度で、たまに見かけるそれは相変わらずけたたましい。派手なタレントを使ったり、聞き覚えのある音楽でインパクトを狙ったり、うまそうな泡の見せ方に工夫を凝らすのは、どのCMも同じだ。その、「どのCMも同じ」傾向に、最近気になって仕方がないことが出てきた。とにかくタレントにやたらと「うまい!」

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小林亜星さんを偲んで「責任を取るクリエイティブ」

小林亜星さんを偲んで「責任を取るクリエイティブ」

数日前、作曲家の小林亜星さんの訃報がメディアやネットを駆け巡った。多くの顔を持つ亜星さんだが、いまも人々の記憶に残る息の長いCMソングの作曲者として有名だ。そのなかの一曲、「積水ハウスの歌」は歌詞やアレンジを変えて「現役」で、そのCMディレクターとして何か書き残しておきたいという思いに駆られている。
オリジナルは1970年の作曲とオンエア。積水ハウス創立10周年のCMソングのようだ。いま聴くと、そ

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SONY BRAVIA 4K「美へのこだわり」篇(2013年)

SONY BRAVIA 4K「美へのこだわり」篇(2013年)

 ベテランのCMディレクターともなれば、仕事を依頼される時は制作会社のプロデューサーが旧知の仲か、クライアントや担当のクリエイターがぼくを信頼してくれているか、何か手がかりがあるものである。でも、この時は違った。知らないプロデューサーだし、クリエティブのスタッフにも思い当たるところがない。冷やかしじゃないのか?「いえ、スケジュールさえ合えば頼みたいそうです」とマネージャー。そのクライアントの仕事は

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畳をめぐる旅の第2章へ。

畳をめぐる旅の第2章へ。

2/26〜3/2、青山で開催した「しあわせが変わる、明日の畳展」が無事に終了した。少し時間が開いたけれど、根本的なことを振り返っておこうと思う。

そもそも、なぜ、畳プロジェクトなのか?
最終日のトークショーでも誰かに質問された。「今村さんが、畳のことをやろうと思った理由はなんですか?」と。2016年5月に、山形は寒河江の鏡畳店を訪ねた時から始まって、6月末にはい草の収穫の様子を見に熊本の八代に行

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T1/4は、畳をもっと地域に根ざしたものに変えていくかもしれない。

T1/4は、畳をもっと地域に根ざしたものに変えていくかもしれない。

 ある時、鏡さん(山形・寒河江の畳店4代目)に何気なしに聞いてみた。「本当に山形ではい草が育たないの?」

「い草は、高温多湿を好むから、山形のような雪国ではとても無理ですよ。」そんな答えが返ってくるのだと思っていたら、「いや、昔は田んぼの畦に自生していたらしいです」とあっさり予想を覆された。

い草の長さは、100〜150センチ。長ければ長いほどいいい草だそうだ。中心部の、色や太さが安定した部分

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未来の畳屋さん

未来の畳屋さん

 ぼくが子どもの頃、畳屋さんは社会科の教科書だった。広く開け放した玄関先の仕事場で、職人さんが藁の塊のようなもの(藁床)に、大きな針でグイグイ畳表を縫いつけていく。子どもたちは学校の行き帰りにその姿を見て、自分の家の畳がどうやって作られるのかを自然と学んだ。お豆腐屋さんや、八百屋さんや、石屋さんのように、大人はああやって稼ぐものなのだとその目で理解した。

 いつ頃からか、子どもたちの前から畳屋さ

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え!? T-Quarterですか?

え!? T-Quarterですか?

T1/4のネーミングは、関橋英作さん。いや、それ以前に、畳屋さんたちと畳のブランド「TATAMI-TO」の名付け親でもある。

関橋さんとぼくは、ほぼ同じタイミングで山形にある東北芸術工科大学の教授に就任したが、そんなこと知る由もなく、学食でバッタリ会って「何しているんですか?」と顔を見合わせた。お互い、長い業界歴のなかで旧知の仲だったが、向こうは広告全体を指揮するクリエイティブ・ディレクター(そ

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T1/4は、いかにして生まれたか?

T1/4は、いかにして生まれたか?

T1/4と表記して、T-Quarterと読む。TATAMI-TOで開発した1/4サイズの畳だ。

デザインは、手工業デザイナーの大治将典さん。「畳表やい草を使った新商品を開発していただきたい」とご相談したのが、確か2017年2月頃。数ヶ月して、「通常の畳を1/4サイズにしたものをデザインしたいが、どう思いますか?」と打診があった。

その時、頭をよぎった感想は、率直に言って、「ずいぶん安直なアイデ

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