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【小説】現実が『トイ・ストーリー』だったら(890字ショートショート)

 『トイ・ストーリー』みたいに、人間が見ていないところでおもちゃが動いた、とクラスメイトの俊太が言っていた。

 陽介は真偽を確かめようとしたが、怖くもあった。もし本当に動いていたら、自分はどれだけ驚いてしまうだろうか。

 夜、いつもは家族と一緒の部屋で寝ているが、今日は子ども部屋に布団をひっぱってきた。
 寝ているふりをしてしばらく薄く目を開けていたが、やがて眠くなってきた。
 今日は小学校に入って初めてプールの授業があったから、体が疲れていたのだ。

 ほどなくして陽介は眠ってしまった。
 眠っているあいだ、何か振動が背中に伝わってきたような気がするが、気のせいだろうか。

 朝、布団を出たときに気がついた。
 恐竜のおもちゃが勝手に移動している。
 壁際の棚の上に並べていたはずなのに、陽介の枕のすぐ近くにいた。

 これは『トイ・ストーリー』だ。

 実際に動くところを見ていたら怖くなっていたかもしれないが、完全に眠っていて見ていないので、陽介は興奮していた。
 俊太が言っていたことは本当だったのだ。

 しかし、リビングに行くとママがネタバラシを始めた。
 夜中、陽介の部屋の押入れに、パパの仕事着をこっそり取りにきたそうだ。
 そのとき、体をぶつけて棚から何か落としてしまったが、電気をつけられなかったので、何か分からず元の場所に戻せなかったという。
 あの振動はママが歩いたせいだったらしい。
「ごめんね」
 ママは謝ってきたが、そんなのはどうでもよこった。『トイ・ストーリー』じゃなかったことに、陽介はすごくガッカリしていた。

 学校に行くと、俊太がこれまたとんでもないネタバラシを始めた。
 俊太が自分の部屋で『トイ・ストーリー』だと思っていたのは、出かけている間に勝手に部屋に入った弟がおもちゃを移動させていただけだったらしい。
「つまんないよな」
 俊太の言葉に、陽介は大きくうなずいた。
 これもすごく残念だ。

 陽介は夢を壊されたようなどんよりとした気持ちで一日を過ごした。
 でも、まだ諦めきれていないのも事実だった。

 現実にも『トイ・ストーリー』はあるはずだ。

 陽介は今日も子ども部屋で眠るのだった。

《終》

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