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けがれた者達の歌 夏陰

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夏の季節に書いた 夏の詩と物語の在り処
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嗅覚味覚過敏症     #詩

嗅覚味覚過敏症    #詩

僕の処に

華の薫りの風が吹き抜ける

病み上がりな僕の

傷付いた喉の粘膜は

僅かな刺激に弱く

華の薫りが

濃密で激甘な刺激となって

僕を酔わせるんだ

夜につかまれて

夜につかまれて

見知らぬ間に

浸食されていく

徐々に変わる感覚

気付いた時には

常に全身を

冷たい何かにつかまれた感覚なんだ

不意に動けば

鋭い刃の様な傷が

身体に付く

陽が上がる前に

夜に連れ去られてしまう

僕は夜につかまれてるんだ

僕の美意識に

僕の美意識に

僕には僕だけの

美意識の世界感が在って

其れを

まだ掴めず

上手く描けていないんだ

僕が描く

美意識の世界に

君を沈める事が出来たなら…

なんて

思う事があるんだ

闇夜に生きる

闇夜に生きる

闇夜に生きる

僕達まで

哀しく 涙する様になったら

世界はもっと

悲しくなっちゃうだろう?

だから

人間を揶揄って

嗤ってるいるんだ

盗人

盗人

君の表情だけでは

本音なんて分からず

手を伸ばし

探ろうとする

君の首の動脈を

此の爪で掬い取り

血の動きを辿れば分かるのか

君の中で

筋交う神経の動きを

辿れば分かるのか

君の心臓を

直に手で握って

鼓動の動きを辿れば分かるのか

僕は感じ取れるものを

君から盗むんだ

四百夜話の死神

四百夜話の死神

此処は

多種多様な沢山の本が有る

中には恐怖を得たい者が

興味を持つ様な本も

『四百夜話』と言う本だ

其のシリーズの

何話目か分からぬが

死神が

人間の首を

狩りたくなる内容も有る

恐怖に夢中になって

読み終わった時には

首に死神の鎌の刃が当てられ

もう遅いのだ

メフィストの夜

メフィストの夜

夜空に

羽音が耳障りなくらい

無数の蝙蝠が舞う

行く先に

蝙蝠の群れた中から

血生臭い臭いが

独特の血の臭いに

人の血の臭いだと解る

死骸に近寄れば蝙蝠が離れ

死骸を私にやると

言わんばかりだ

蝙蝠達は

頭が美味かったのか

人の身体と

白い頭蓋骨が転がっている

鴉

曇り空の中

雨でも降りそうな中を

旋回して

弱そうな者を探すんだ

僕は空から

黒い羽根を拾わせる様に落とす

黒い羽根を拾った者に聞かせる

僕の鳴き声

人の耳に残る様に

鴉仲間に届く様に

其の黒い羽根が揺れる程に

僕は鳴いて響かせ

弱そうな心に

不安を植付けるんだ

踏み切り

踏み切り

景色がオレンジ色に染まる

逢魔が時

踏み切りの音が鳴り響く

線路越しの

彼方らと此方らで

違う感じがする違和感

不思議に思っていると

電車が通り過ぎる様な音と

強い風が吹いて来た

今、僕の目の前を

視えない電車が

視えない世界に

走り去ったみたいなんだ

残花

残花

咽るような甘い花の香り

美しく咲き誇る花に

群れる蝶達の羽を

僕は毟り取った

手に遺る

蝶の遺り香は

人を惑わす香りに似て非なる

猛毒の蜜

強風が

花弁を撒き散らし

猛毒の蜜の香りを

空まで連れて逝く

花々と蝶の惨死の中

僕は

残花を愛でるだけ

沼乙女

沼乙女

沼と知らず足を踏み入れ

沼に居た乙女が

「沼の泥は臭いか?」と眼光鋭く問う

「泥は拭うてもタールの様に

お前の肌に染み付き

広がるだけだ

お前は沼から逃げられず

底無しの泥土の闇へ

身を腐らせ

逝くしか無いのだ」

と言い

乙女は

人間の青褪めた顔を見て

可笑しくて嗤うだけ

監死

監死

君の艶かしい

白い足を

錆びた鎖で繋ぎ止め

繋げた鎖が重いのか

日が経つと

鎖の跡が傷になり

炎症を起こす

足の腐敗が始まろうとも

放す気は無い

僕の不快な欲望だ

足の爛れた皮膚に

僕の指を埋める

痛みで歪む君の顔を

僕は見る

痛みで上げる君の声を

僕は聞くんだ

階段登れば

階段登れば

チリンチリンと

微かな音を鳴らす

音に誘われる

救われたいと思う

人間の弱さ

此処に

鳥居が複数あるから

神が居ると思うておるのか?

チリンチリンと

鈴の音を鳴らす

登れば鈴の音の正体が

人を喰らう化け物と知るだけだ

チリンチリンと

鈴の音を鳴らす

人の脆さを暴く為に

大鉈の鬼

大鉈の鬼

僕の武器に

切れ味の良さなんか無い

切れ味が鈍く

痛みは酷い筈

跡にも残りやすいんだ

刃の手入れなんてしないから

傷口から腐りやすいよ

僕が持つ大鉈は

切る事よりも

身も骨もグチャグチャに

砕け散らし

踏み潰すだけだ