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【批評の神様】小林秀雄が好きになるセットリストはコレだ!?

《作家を知るなら骨の髄まで。》
気にいった作家、好きな作家がいたら、
全集を読もう、
そんな話を昔はよく聞きましたが、
最近は、全集を出しても
全部ファンが付いてきてくれるか?
ビジネスとして、出版社側は
怖いし、難しい時代なので、
出版社が紙の全集を出すことは
なかなか減りました。
その代わり、電子書籍版、
デジタル版の全集は、リスクはないので
じゃんじゃん出ていますね。
全集好きには、
ある意味、電子書籍さまさま。

ところで、読破欲として、
その作家か好きだから、イコール、
全集を読みたい、という心理では
ないですよね。

好きなことも必要だけど、
いまだ全貌を自分は知らず、
いつか全貌を知り尽くしたい
まだまだ謎がいっぱいある、
そんな心理が、
全集読破には必要ですよね。

私なら、誰の全集に手を出そうかな?

たぶん、
古臭いですが、
昭和時代「批評の神様」と言われた
小林秀雄なら、
全集を読みたいと思うんです。
あまりに巨大な知の達人。

学生時代には、
「小林秀雄を読む会」という
カタブツ?なサークルに
入っていたくらい好きでしたが、
すでにその頃(30年前)でも、
小林秀雄が好きだというと、
大抵は、ダサいというか、
古臭いというか、
文学談義をしたとしても、
遠い昔の人の話、という印象でした。

なぜ、そんなお爺さんに
私は恋(笑)をしてしまったのか?

文章の調子がクセが凄い。
こんなにクセが凄い文体を
もっているのは、三島由紀夫と
小林秀雄くらいなものです。

小林秀雄を読むと、
その文体に酔っぱらって、
酒やドラッグをした心地になる。
酔えるんです。
アルコール成分が強い。
そうですね、50%?
泡盛くらいはありますね。

しかも、彼は
モーツァルトを論じても
ゴッホを論じても、
兼好法師を論じても、
万葉集を論じても、
とにかく、実人生という舞台に
引きずり下ろしてくれる。
だから、人生の問題を皮膚感覚で 
論じることになるんです。
アタマでっかちな批評にはならない。

まあ、最初に古いとか古臭いとか
言いましたが、
本当はいつまでも、いつまでも
読まれて欲しいから、 
若い人や中年の方にも
読んで欲しいんですが。

では、どれから入るのが理想か?
でもその前に、教科書や受験問題で、
先に小林秀雄に出会い、
苦戦させられ、嫌いか苦手になった方も
たくさんいるでしょう。

でも、今日はそれはいったん
忘れて頂いて(汗)。

小林秀雄は、
戦前、マルクス主義文学者が
たくさんいた当時について、
真っ向から非難する評論で、
賞に選ばれ、デビューしました。

みんながマルクス、マルクスと
かぶれていた時代に、
経済はともかく、
文学とマルクス主義は
分けなくてはならないはずだ、
そんな風にして、
マルクス主義文学者に
冷や水をぶっかけました。

どうも、小林秀雄はかなりの
へそ曲がりらしい。

『近代絵画』では、
これまた、戦後、印象絵画が
やけにもてはやされた時、
ゴッホやセザンヌの本質的な姿を
描いてみせました。
印象絵画がお茶の間の飾りに
ならないように、と。

さて、前置きが長くなりました。

小林秀雄を読むなら、
こんなセットリストで
お読みになると、どうでしょう?
私なりに、小林秀雄を好きになる
近づき方を考えてみました。

①『考えるヒント③』文春文庫。

大学受験によく使われてきた
「考えるヒント」シリーズでは
小林秀雄の講演集の第3巻が
実はいちばん読みやすい。
だってもともと、スピーチ向けに
書かれたものですから。
この本には、12の講演集が
収録されています。
名高い「私の人生観」や、
「ドストエフスキー75年祭に
おける講演」や「ゴッホの病気」
「生と死」「表現について」
「文学と自分」「悲劇について」
など、惹かれるタイトルがずらり。
どれをつまみ食いしてもよし。
オススメです。

②『近代絵画』新潮文庫。

ここでは、小林秀雄は
フランス印象絵画の画家について
一人一人、評論しています。
セザンヌ、ゴッホ、モネ、
ゴーギャン、ピカソなどを
端的に、一般向けに評論した本です。
美術知識は必要ありません。
小林秀雄らしい。
ちなみに、ゴッホが一番好きな
小林さんですが、
なぜかセザンヌに一番ページを
割いています。
自由気ままに、筆に随うままに
描いていくのも、また小林流。

③『無常ということ』新潮文庫。

徒然草や西行、平家物語や
源実朝、能の当麻など、
古典を題材に、
でも中身は現代人批評になって
自由気ままに書いている。
この「無常ということ」が
アルコール成分では、
いちばん高いかも?

④『人生について』中公文庫。

「私の人生観」を中心に
さまざまな作品から、
人生観、人生論を垣間見せる
エッセイや評論を集めた、
いかにも中公文庫らしい編み方。
これが一番とっつき易いです。

⑤『Xへの手紙・私小説論』
新潮文庫

小林秀雄がのぼり坂を猛烈に
駆けていく時代の評論集。
相変わらず、昔から小林秀雄は
へそ曲がりだったんだなあ、 
常に流行りものに対して
警鐘を鳴らしていく。

この時代は、マルクス主義と同様、
私小説も流行っていました。
そのなかでも、本質を欠いた
私小説まがいについて疑いながら、
話はフランスのルソーにまで及ぶから、
このお爺さんの話は面白い。

以上、5つの作品なら、
小林秀雄が苦手にならず。
好きになってもらえるのではないかしら
そう思いながら、考えてみました。

良かったら、
気が向いたら、
ちょっと手に取り、
走り読みしてみて下さい。

小林秀雄のアルコール成分は
なかなか高いですから。

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