猫おかみ安吾ちゃん

新潟の酒や肴を巡るコラムを書く人=森沢真理・新潟日報社特別論説編集委員。1960年、新…

猫おかみ安吾ちゃん

新潟の酒や肴を巡るコラムを書く人=森沢真理・新潟日報社特別論説編集委員。1960年、新潟県出身。著書に『地方紙と戦争』。好きな肴は黒埼茶豆に鮭の塩引き。写真はわが家の猫おかみ、安吾ちゃん(3歳♀)。新潟市出身の無頼派作家、坂口安吾にちなんでの命名です。

マガジン

  • 還暦記者の新潟ほろ酔いコラム

    地方紙・新潟日報の60代女性記者が新潟のうまい酒と肴を巡る物語をお届けします。晩酌の相方は、わが家の「猫おかみ」。原則第2、第4金曜アップ。

最近の記事

第22夜 「酒博士」坂口謹一郎の名言 63歳記者がお酒コラムを書きながら考えたこと

 〈世界の歴史をみても、古い文明は必ずうるわしい酒を持つ〉。応用微生物学の権威で、「酒博士」と呼ばれた坂口謹一郎・東京大学名誉教授の名言だ。坂口博士の有名な著書『日本の酒』の第1話冒頭に置かれている。  「うるわしい」という形容詞に、お酒への愛とリスペクトを感じる。歌集『醗酵(はっこう)』を出し、宮中新春の行事「歌会始の儀」に召人(めしうど)として招かれた人らしい表現だと思う。  この後には、「すぐれた酒を持つ国民は進んだ文化の持主であるといっていい」という一節が続く。日本酒

    • 第21夜「ふかくこの生を愛すべし」會津八一と俳優・松村雄基さんのシャンソン

       新潟市出身の歌人、書家會津八一(あいづ・やいち)の誕生日は、8月1日。生まれたのは1881年だから、よくよく8と1に縁があるのだろう。新潟市會津八一記念館では、生誕記念日に合わせて、「八一祭」というイベントを新潟市で開いている。  ここ数年、八一祭に出演しているのが俳優、書家の松村雄基さんだ(ことしはスケジュールの都合で10月になるとのこと)。新潟大准教授で書家の角田(つのだ)勝久さんとコンビを組み、トークや朗読などで、来場者を楽しませている。松村さんの書は、第17回東京書

      • 第20夜 わが愛しの相棒 ウイスキー・キャットと茶トラ猫福助

         「ウイスキー・キャット」をご存じだろうか。主に英国・スコットランド地方のウイスキー蒸留所にいる猫の総称だ。害獣のネズミから、ウイスキーの原料となる大麦を守ることを役目にしている。ペットとは大きく異なる、「働く猫」なのだ。最も有名なのは、グレンタレット蒸留所にいた雌猫「タウザー」だろう。生涯で2万8899匹のネズミを捕り、ギネスブックに記録された。一方、タウザーの娘は、ネズミ捕りの腕はからきしだったそうだ。狩りの才能は、遺伝しないのだろうか。  英国ウェールズに生まれ、日本に

        • 「新潟かんほろ」ナイト満員御礼 ご来場ありがとうございました!

           新潟市市出身の戦没画家、金子孝信(1915~42)を語る交流イベント「新潟かんほろ」ナイト(新潟日報社主催)を6月9日夜、新潟市中央区の沼垂ビアパブで開きました。初のオフ会ということで、ドキドキしましたが、30人余りの方々が来てくださいました。ありがとうございます!  孝信は、1930年代の銀座を闊歩(かっぽ)するモダンな女性像で知られています(沼垂ビールとの関わりは、本コラムの第2夜と第3夜で紹介)。蒲原神社の宮司で孝信のおい、金子隆弘さんは93歳とは思えない若々しさで、

        第22夜 「酒博士」坂口謹一郎の名言 63歳記者がお酒コラムを書きながら考えたこと

        マガジン

        • 還暦記者の新潟ほろ酔いコラム
          21本

        記事

          第19夜 南魚沼市の万盛庵再び 「大衆食堂の詩人」遠藤哲夫さんしのぶ女子会

           新潟県南魚沼市の坂戸山ふもとにある大衆食堂、万盛庵(まんせいあん)本店で、久しぶりに飲んだ。昨年6月、がんのために78歳で亡くなった南魚沼市出身のフリーライター、遠藤哲夫さん(通称・エンテツ)の妻、佐千江さん(62)からお誘いを受けたのだ。  万盛庵は、「大衆食堂の詩人」と呼ばれた遠藤さんが、帰省するたびに寄って泥酔したという店。同郷の大先輩である遠藤さんと「いつか、ここで飲みましょう」と約束していたのだが、果たせなかった話は、新潟日報デジタルプラスのコラム「新潟かんほろ」

          第19夜 南魚沼市の万盛庵再び 「大衆食堂の詩人」遠藤哲夫さんしのぶ女子会

          6月9日「新潟かんほろ」ナイト開催!

           6月9日(金)午後6時~8時15分、新潟市中央区の沼垂ビアパブで初のオフ会、「新潟かんほろ」ナイトを開きます。初夏の一夜、港町新潟でクラフトビールとトークと生演奏を楽しむイベントです。トークは、第2夜、第3夜の連載に登場した新潟市出身の戦没画家、金子孝信と沼垂ビールを巡る物語がテーマです。詳しい内容はコチラ。

          6月9日「新潟かんほろ」ナイト開催!

          第18夜 コレクターのまち柏崎 屋敷妙子さんの絵と「さまよい安寿」

           寝室の壁に横浜市在住の画家、屋敷妙子さんのアクリル画を飾っている。白い服を着た少女2人が、帯らしきものを引きずっていく構図だ。見えるのは下半身だけ。背景には、深い青色と植物の影が広がる。帯はぽってりと赤く染まり、重さを増していくかのようだ。奇麗だけれど、ちょっと怖い絵だと思う。  新潟県柏崎市のギャラリー、游文舎(ゆうぶんしゃ)で購入した。2021年に屋敷さんの個展が開かれた時のこと。この絵が展示されているのを見て、「まだ売れていなかったの?」と驚いた。元々は、15年から1

          第18夜 コレクターのまち柏崎 屋敷妙子さんの絵と「さまよい安寿」

          第17夜 生まれてきたことの奇跡 弥彦神社のおでんこんにゃく

           しょうゆ味がよく染みた三角形のおでんこんにゃく。新潟県・弥彦村にある「越後一宮」弥彦神社の門前で売られている名物だ。  最近は、もちもちした皮が特徴の「パンダ焼き」や枝豆入りの「イカメンチ」などが弥彦グルメとして注目されているが、肌寒い時は熱々のこんにゃくが一番。売店の小さないすに座り、お酒と一緒にいただくのがいい。  ほろ酔いの目でぼんやり鳥居を眺めていると、不思議な気分になってくる。一歩間違えば、私はこの世に生まれてこられなかったかもしれない-。弥彦神社は、そうした思い

          第17夜 生まれてきたことの奇跡 弥彦神社のおでんこんにゃく

          第16夜 河井継之助の桜飯と越後長岡藩 司馬遼太郎さん『峠』を読む

           司馬遼太郎さんの長編小説『峠』を読むまで、桜飯(さくらめし)というのはタコの炊き込みご飯のことだと思っていた。『峠』に出て来る桜飯は、大根の味噌(みそ)漬けを細かく刻んで炊いたものだ。  主人公である越後長岡藩(新潟県長岡市)の家老、河井継之助(かわい・つぎのすけ 1827~68)の好物だったと聞けば、興味が湧く。北越戊辰(ぼしん)戦争に際し、河井は長岡藩の武装中立策を推進したが、新政府軍はこれを認めず開戦となった。河井は長岡城の攻防で左足を負傷。落ちていった先の会津藩領内

          第16夜 河井継之助の桜飯と越後長岡藩 司馬遼太郎さん『峠』を読む

          第15夜 楊逸さんと新潟のハルビン餐庁 環日本海ブームから30年

           中国生まれの芥川賞作家、楊逸(ヤン・イー)さんにお目にかかったことがある。「新潟県の新聞社に勤務しています」。そう自己紹介すると、楊さんの大きな目がぱっと輝いた。「新潟には、遊びに行ったことがあります。ハルビン料理のお店がありますよね」  ロシアに近い黒竜江省ハルビン市は、楊さんの出身地だ。日本に留学後、中国語教師などを経て、2008年に『時が滲(にじ)む朝』で芥川賞を受賞した。日本海に面する地方都市、新潟市は故郷と交流が深いと聞き、小旅行をしたのだとか。新潟駅近くの店でハ

          第15夜 楊逸さんと新潟のハルビン餐庁 環日本海ブームから30年

          第14夜 出張時の「リーズナブルでうまいお店」探訪術

           日が暮れていく。出張先の見知らぬ街で、どのようにしていい店(自分にとっての)を見つけ、うまい酒にありつくか。飲んべえにとっては旅を締めくくる上で、重要なミッションだ。  私が住む新潟市は酒どころである上、海山の食材が豊富。居酒屋のレベルはかなり高いと思う。観光地ではないので、勘定も大抵は地元客の懐に合った金額で済む。だが新潟県外、中でも著名な観光地のある自治体や、店がひしめく大都市部ではそうもいかないようだ。「手頃な値段で土地に根差す食と酒を楽しむ」という目的を果たすために

          第14夜 出張時の「リーズナブルでうまいお店」探訪術

          第13夜 多和田葉子「地球に…」3部作と新潟・塩沢の雪中歌舞伎

           江戸時代の文人、鈴木牧之(すずき・ぼくし)が出版し、ベストセラーとなった『北越雪譜(ほくえつせっぷ)』。その舞台である豪雪地、新潟県南魚沼市塩沢で「雪中歌舞伎」を見てきた。春を前にしたこの時季に、住民グループ「塩沢歌舞伎保存会」が中心となり、上演する地芝居だ。  今回の旅は、道連れがいた。舞踊家の堀川久子さん、書家の華雪(かせつ)さん、歌人の恩田英明さん、地域文化を表す写真や映像を発掘してきた新潟大フェローの原田健一さん。着膨れて雪道を歩き、年齢も出身地もさまざまなメンバー

          第13夜 多和田葉子「地球に…」3部作と新潟・塩沢の雪中歌舞伎

          第12夜 坂口安吾の好物「おけさ飯」を作ってみた 新潟・料亭のだし茶漬けと裏ごし卵

           2月17日は、新潟市出身の作家、坂口安吾(1906~55)の命日「安吾忌」に当たる。安吾にまつわる食べ物で気になるのは、好物だったという「おけさ飯」(友人の檀一雄によれば安吾丼)だろう。実家の坂口家に伝わる料理で、簡単に言うと、ゆで卵を具に使うだし茶漬けである。ポイントは、白身と黄身を別々に裏ごしすること。この卵を、炊きたてのご飯にホロホロと乗せ、海苔(のり)やワサビを添えて、薄いだし汁をかけていただく。安吾の妻、三千代さんによるとお酒の後によく出したらしい。  「おけさ」

          第12夜 坂口安吾の好物「おけさ飯」を作ってみた 新潟・料亭のだし茶漬けと裏ごし卵

          第11夜 1997年の日本シリーズ 涙の焼きそばとヤクルト「つば九郎米弁当」

           プロ野球セ・リーグの東京ヤクルトスワローズと、ものづくりのまち、新潟県燕市が交流していることは、ご存じだろうか。  ツバメ(スワロー)の市名が縁となり、燕市では2011年からヤクルトファンを招いた田植えイベントなどを行ってきた。球界屈指の人気マスコット、つば九郎がフリーエージェント宣言をした時には、オファーを出したほどだ。  ヤクルトスワローズを巡っては、ちょっとした思い出がある。生まれて初めて観戦したプロ野球の試合が、野村克也監督率いるヤクルトが制した1997年の日本シリ

          第11夜 1997年の日本シリーズ 涙の焼きそばとヤクルト「つば九郎米弁当」

          第10夜 新潟の料亭・鍋茶屋「伝説の料理人」と田中角栄元首相

           インタビューをまとめた本を読んで、「この書き手は耳がいいなあ」と、感心させられることがある。相手の語り口、息遣いを的確に写し取り、人となりを生き生きと描き出す。新潟市の老舗書店、萬松堂(ばんしょうどう)の代表取締役だった西村喜邦さんによる聞き書き『愛次郎包丁談義』(新潟日報事業社、1987年)は、そんな一冊だ。  〈年ですか? ほんだ、いくつになっろ。ま、いいでねェすか。/へへへ、大正元年生まれですがね。おととしの暮れ近ままで、なまら三十何年、鍋茶屋(なべぢゃや)にいまして

          第10夜 新潟の料亭・鍋茶屋「伝説の料理人」と田中角栄元首相

          第9夜 塩沢・牧之通りのラーメン 赤塚漫画「シェーッ!」の縁

           なじみだったラーメン店が閉店してしまった。新潟県南魚沼市のJR塩沢駅から徒歩5分ほど。宿場町の風情を残す旧三国街道「牧之(ぼくし)通り」にあった「さかいや」である。通りの名前は、雪国塩沢の暮らしを描いた江戸時代のベストセラー『北越雪譜(せっぷ)』の著者、鈴木牧之にちなむ。子どものころ、父の仕事の関係で旧塩沢町に住んでいたので、私にとっては古里と呼べる場所だ。  さかいやは、上村薫さん(73)と「年上女房」の昭子さん(75)が夫婦で営んできた。人気だったのは、白髪ネギたっぷり

          第9夜 塩沢・牧之通りのラーメン 赤塚漫画「シェーッ!」の縁