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第22夜 「酒博士」坂口謹一郎の名言 63歳記者がお酒コラムを書きながら考えたこと
〈世界の歴史をみても、古い文明は必ずうるわしい酒を持つ〉。応用微生物学の権威で、「酒博士」と呼ばれた坂口謹一郎・東京大学名誉教授の名言だ。坂口博士の有名な著書『日本の酒』の第1話冒頭に置かれている。
「うるわしい」という形容詞に、お酒への愛とリスペクトを感じる。歌集『醗酵(はっこう)』を出し、宮中新春の行事「歌会始の儀」に召人(めしうど)として招かれた人らしい表現だと思う。
この後には、「す
第21夜「ふかくこの生を愛すべし」會津八一と俳優・松村雄基さんのシャンソン
新潟市出身の歌人、書家會津八一(あいづ・やいち)の誕生日は、8月1日。生まれたのは1881年だから、よくよく8と1に縁があるのだろう。新潟市會津八一記念館では、生誕記念日に合わせて、「八一祭」というイベントを新潟市で開いている。
ここ数年、八一祭に出演しているのが俳優、書家の松村雄基さんだ(ことしはスケジュールの都合で10月になるとのこと)。新潟大准教授で書家の角田(つのだ)勝久さんとコンビを
第20夜 わが愛しの相棒 ウイスキー・キャットと茶トラ猫福助
「ウイスキー・キャット」をご存じだろうか。主に英国・スコットランド地方のウイスキー蒸留所にいる猫の総称だ。害獣のネズミから、ウイスキーの原料となる大麦を守ることを役目にしている。ペットとは大きく異なる、「働く猫」なのだ。最も有名なのは、グレンタレット蒸留所にいた雌猫「タウザー」だろう。生涯で2万8899匹のネズミを捕り、ギネスブックに記録された。一方、タウザーの娘は、ネズミ捕りの腕はからきしだっ
もっとみる第19夜 南魚沼市の万盛庵再び 「大衆食堂の詩人」遠藤哲夫さんしのぶ女子会
新潟県南魚沼市の坂戸山ふもとにある大衆食堂、万盛庵(まんせいあん)本店で、久しぶりに飲んだ。昨年6月、がんのために78歳で亡くなった南魚沼市出身のフリーライター、遠藤哲夫さん(通称・エンテツ)の妻、佐千江さん(62)からお誘いを受けたのだ。
万盛庵は、「大衆食堂の詩人」と呼ばれた遠藤さんが、帰省するたびに寄って泥酔したという店。同郷の大先輩である遠藤さんと「いつか、ここで飲みましょう」と約束し
第18夜 コレクターのまち柏崎 屋敷妙子さんの絵と「さまよい安寿」
寝室の壁に横浜市在住の画家、屋敷妙子さんのアクリル画を飾っている。白い服を着た少女2人が、帯らしきものを引きずっていく構図だ。見えるのは下半身だけ。背景には、深い青色と植物の影が広がる。帯はぽってりと赤く染まり、重さを増していくかのようだ。奇麗だけれど、ちょっと怖い絵だと思う。
新潟県柏崎市のギャラリー、游文舎(ゆうぶんしゃ)で購入した。2021年に屋敷さんの個展が開かれた時のこと。この絵が展
第17夜 生まれてきたことの奇跡 弥彦神社のおでんこんにゃく
しょうゆ味がよく染みた三角形のおでんこんにゃく。新潟県・弥彦村にある「越後一宮」弥彦神社の門前で売られている名物だ。
最近は、もちもちした皮が特徴の「パンダ焼き」や枝豆入りの「イカメンチ」などが弥彦グルメとして注目されているが、肌寒い時は熱々のこんにゃくが一番。売店の小さないすに座り、お酒と一緒にいただくのがいい。
ほろ酔いの目でぼんやり鳥居を眺めていると、不思議な気分になってくる。一歩間違
第16夜 河井継之助の桜飯と越後長岡藩 司馬遼太郎さん『峠』を読む
司馬遼太郎さんの長編小説『峠』を読むまで、桜飯(さくらめし)というのはタコの炊き込みご飯のことだと思っていた。『峠』に出て来る桜飯は、大根の味噌(みそ)漬けを細かく刻んで炊いたものだ。
主人公である越後長岡藩(新潟県長岡市)の家老、河井継之助(かわい・つぎのすけ 1827~68)の好物だったと聞けば、興味が湧く。北越戊辰(ぼしん)戦争に際し、河井は長岡藩の武装中立策を推進したが、新政府軍はこれ
第15夜 楊逸さんと新潟のハルビン餐庁 環日本海ブームから30年
中国生まれの芥川賞作家、楊逸(ヤン・イー)さんにお目にかかったことがある。「新潟県の新聞社に勤務しています」。そう自己紹介すると、楊さんの大きな目がぱっと輝いた。「新潟には、遊びに行ったことがあります。ハルビン料理のお店がありますよね」
ロシアに近い黒竜江省ハルビン市は、楊さんの出身地だ。日本に留学後、中国語教師などを経て、2008年に『時が滲(にじ)む朝』で芥川賞を受賞した。日本海に面する地
第14夜 出張時の「リーズナブルでうまいお店」探訪術
日が暮れていく。出張先の見知らぬ街で、どのようにしていい店(自分にとっての)を見つけ、うまい酒にありつくか。飲んべえにとっては旅を締めくくる上で、重要なミッションだ。
私が住む新潟市は酒どころである上、海山の食材が豊富。居酒屋のレベルはかなり高いと思う。観光地ではないので、勘定も大抵は地元客の懐に合った金額で済む。だが新潟県外、中でも著名な観光地のある自治体や、店がひしめく大都市部ではそうもい
第13夜 多和田葉子「地球に…」3部作と新潟・塩沢の雪中歌舞伎
江戸時代の文人、鈴木牧之(すずき・ぼくし)が出版し、ベストセラーとなった『北越雪譜(ほくえつせっぷ)』。その舞台である豪雪地、新潟県南魚沼市塩沢で「雪中歌舞伎」を見てきた。春を前にしたこの時季に、住民グループ「塩沢歌舞伎保存会」が中心となり、上演する地芝居だ。
今回の旅は、道連れがいた。舞踊家の堀川久子さん、書家の華雪(かせつ)さん、歌人の恩田英明さん、地域文化を表す写真や映像を発掘してきた新
第12夜 坂口安吾の好物「おけさ飯」を作ってみた 新潟・料亭のだし茶漬けと裏ごし卵
2月17日は、新潟市出身の作家、坂口安吾(1906~55)の命日「安吾忌」に当たる。安吾にまつわる食べ物で気になるのは、好物だったという「おけさ飯」(友人の檀一雄によれば安吾丼)だろう。実家の坂口家に伝わる料理で、簡単に言うと、ゆで卵を具に使うだし茶漬けである。ポイントは、白身と黄身を別々に裏ごしすること。この卵を、炊きたてのご飯にホロホロと乗せ、海苔(のり)やワサビを添えて、薄いだし汁をかけて
もっとみる第11夜 1997年の日本シリーズ 涙の焼きそばとヤクルト「つば九郎米弁当」
プロ野球セ・リーグの東京ヤクルトスワローズと、ものづくりのまち、新潟県燕市が交流していることは、ご存じだろうか。
ツバメ(スワロー)の市名が縁となり、燕市では2011年からヤクルトファンを招いた田植えイベントなどを行ってきた。球界屈指の人気マスコット、つば九郎がフリーエージェント宣言をした時には、オファーを出したほどだ。
ヤクルトスワローズを巡っては、ちょっとした思い出がある。生まれて初めて
第10夜 新潟の料亭・鍋茶屋「伝説の料理人」と田中角栄元首相
インタビューをまとめた本を読んで、「この書き手は耳がいいなあ」と、感心させられることがある。相手の語り口、息遣いを的確に写し取り、人となりを生き生きと描き出す。新潟市の老舗書店、萬松堂(ばんしょうどう)の代表取締役だった西村喜邦さんによる聞き書き『愛次郎包丁談義』(新潟日報事業社、1987年)は、そんな一冊だ。
〈年ですか? ほんだ、いくつになっろ。ま、いいでねェすか。/へへへ、大正元年生まれ
第9夜 塩沢・牧之通りのラーメン 赤塚漫画「シェーッ!」の縁
なじみだったラーメン店が閉店してしまった。新潟県南魚沼市のJR塩沢駅から徒歩5分ほど。宿場町の風情を残す旧三国街道「牧之(ぼくし)通り」にあった「さかいや」である。通りの名前は、雪国塩沢の暮らしを描いた江戸時代のベストセラー『北越雪譜(せっぷ)』の著者、鈴木牧之にちなむ。子どものころ、父の仕事の関係で旧塩沢町に住んでいたので、私にとっては古里と呼べる場所だ。
さかいやは、上村薫さん(73)と「