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短編小説(小咄?)です。
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小説「シーラカンスと暮らす女」

小説「シーラカンスと暮らす女」

そのビルの住人は全員が引っ越しを選んでいた。ただひとりの女を除いて。
女は落ち着いた様子で、引っ越しはしないと部屋を訪ねてきた管理会社の男にいった。

ビルの内外には急成長したツタがびっしりと巻き付いていた。数日以内に完全にジャングル化するのは間違いなかった。そうなったら危険な動物も増え、人が住める環境ではなくなる。

管理会社の男は、ビルにとどまる人がいたら「自己の責任でとどまる」という誓約書に

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小説「パンダ芸人のメソッド」

小説「パンダ芸人のメソッド」

「パンダをどう思います?」
そう聞かれたとき、私は答えにつまりました。質問の意味がわかりませんでした。
スティーブン氏は続けてこうききました。
「パンダを信じますか?」
ますます意味がわからなくなりました。

2015年の秋、私はスティーブン氏の自宅を訪ねました。
在日アメリカ人です。職業は翻訳家です。
きっかけはタコ焼き器です。

私は中古のタコ焼き器をネットで購入しました。

日本で暮らす外国

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小説「山猫は眠らせない」

小説「山猫は眠らせない」

寒い夜だった。
男は歳のせいか、最近は早朝に目が覚めることが多かった。でも早起きする必要があるときは目覚まし時計を使うことにしていた。男は通販で買った、届いたばかりの目覚まし時計を5時にセットした。100%目覚まし保証ということだった。

部屋の灯りを消してベッドに入り、目を閉じた。首筋にチクリと痛みと感じた。姿勢を変えるとまたチクリと痛みを感じた。

虫でもいるのだろうかと部屋の灯りをつけると、

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小説「邪悪なる笑み、あるいはむき出しの歯グキ」

小説「邪悪なる笑み、あるいはむき出しの歯グキ」

その赤ちゃんを見て、ぼくは絶句してしまった。まるっきり猿だったからだ。猿みたいな顔ではなく猿そのものだ。平らな鼻、でかい耳。愛嬌なんてどこにもない。しかもでかい。

生まれたての赤ちゃんの顔は大きくわけて2種類あると聞く。ガッツ石松か朝青龍か。たまに鶴瓶師匠か渥美清の場合もあるという。その赤ちゃんはどちらでもなかった。強いて言うならモンキー派か。

ぼくは学生時代の先輩の家に来ていた。赤ちゃんをひ

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小説「パパがゾンビになった日」

小説「パパがゾンビになった日」

わたしが6歳のとき、パパがゾンビになりました。
ゾンビというのは「あー」とか「うー」とかうなって人にかみつく病気です。

お医者さんはママに、心臓がとまってます、食べ物は生のお肉です、といいました。その日からパパはお仕事に行かなくなり、家でぼんやりすごすことになりました。

ゾンビになったパパは子供のようでした。
話しかけてもほんとに「あー」とか「うー」とかうなるだけ。本を読んであげてもやっぱり「

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小説「沈みゆく浮島で手紙を書く男」

小説「沈みゆく浮島で手紙を書く男」

男が浮島で暮らし始めてから3ヶ月が経っていた。
島はゆっくり沈んでいた。
3ヶ月前の半分ぐらいの大きさになっていた。海にはサメが泳いでいて、ときどき服の切れ端が漂っていた。自分もいつかサメに食べられてしまうのだろうなと男は思った。

島には瓶に入った手紙がたくさん流れ着いた。

男は手紙を読むのが好きだった。

趣味や日々の出来事、孤独や怒り、後悔、グチ、楽しかったこと。イラストが描かれていたり、

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