【垂仁天皇編】エピソード70　阿呆ではない

第十一代天皇、垂仁天皇すいにんてんのうの御世みよ。

ここは、纏向珠城宮まきむくのたまき・のみや。

垂仁天皇こと、活目入彦五十狭茅尊いくめいりひこいさち・のみこと（以下、イク）は、二人の人物を呼び出していた。

すなわち、薊瓊入媛あざみにいりひめ（以下、あざみ）と、池速別いけはやわけ（以下、イケイケ）である。

そして「新撰姓氏録しんせんしょうじろく」に書かれていることを理由に「イケイケ」を、ある邑むらに封ほうじると宣言するのであった。　

あざみ「なんで、書かれているのですか？」　

イク「実じつはね。『イケイケ』の子孫に阿保氏あほ・しがいるんだけど・・・。」　

あざみ「アホ？　皇子みこは阿呆あほうではありませぬ！」　

イク「ち・・・違うよ。阿保あほだよ。阿呆あほうじゃないよ。」　

イケイケ「とと様！　阿保あほって何？」　

イク「伊賀国いが・のくにに、阿保邑あほ・のむらが有ってね。皇子が、そこに封ほうじられたことが、阿保氏発祥あほ・し・はっしょうの起源きげんとされているんだよ。」　

あざみ「でも、幼おさない皇子を封じなくとも良いではありませぬか。もうちょっと大きくなってからでも・・・。」　

イク「うん。僕も、そう思うんだけど『新撰姓氏録しんせんしょうじろく』に、幼い頃に封じられたと書かれてるんだよね。だから、仕方ないんだ。」　

イケイケ「とと様。我われは、何歳なんさいでも行きまする。」　

あざみ「えっ？　イケイケ？　まことに、それで良いのですか？」　

イケイケ「はい。かか様。我われは行ってみたい！」　

イク「ありがとう。イケイケ・・・。ちなみに、阿保邑あほ・のむらっていうのは、二千年後にせんねんごの三重県みえけん伊賀市いがしの阿保あお周辺と言われているよ。」　

あざみ「阿保あお？　読み方が違うのですね。」　

イク「さすがに『アホ』とは読めないってことになったんじゃないかな・・・(;^_^A」　

こうして「イケイケ」は阿保邑あほ・のむらに封じられたのであった。

そして、しばらくの時が流れ、紀元前5年、皇紀こうき656年（垂仁天皇25）となった。

その年の2月8日のこと・・・。

「イク」は、五人の大夫たいふに対して、詔みことのりを発表した。

イク「大陸風たいりくふうに言うと、先帝せんてい陛下へいかってことになるわけだけど、父上（崇神天皇すじんてんのうのこと）は、立派な御方おかただったよね？」　

カーケ「ちょっと間抜まぬけなところもあったんだぜ。」　

イク「うっ。で・・・でも、身みを慎つつしみ、道理を明らかにし、聡明そうめい豁達かったつであらせられた。」　

武日たけひ「聡明そうめいとは、賢かしこいという意味やじ。」　

オーカ「豁達かったつとは、心が広いという意味にあらしゃいます。」　

イク「そ・・・それで、父上は、すごく謙虚けんきょで、心を尽くし、自分を卑下ひげなさっていたよね？」　

くにお「時折ときおり、傲慢ごうまんな時もありましたがな・・・。」　

イク「うっ。で・・・でも、万機ばんきの権衡けんこうを辛苦しんくの中で経営されて、天津神あまつかみと国津神くにつかみを敬うやまわれておられたよね？」　

ちね「せやったなぁ。苦労されてたなぁ。」　

オーカ「ちなみに、万機ばんきは『いろんなこと』という意味で、権衡けんこうは『つりあい』という意味にあらしゃいます。」　

イク「と・・・とにかく、先代は、自みずからを責せめ、一日一日を慎つつしんでおられた。そのおかげで、民おおみたからは富み、満ち足りて、天下は泰平だったよね？」　

くにお「いろいろ有りましたが、良き思い出にござる。」　

イク「と・・・とにかく、僕の御世みよにおいても、天津神あまつかみと国津神くにつかみを祀まつることを、どうして怠おこたることが出来できるだろう。いや、出来できない。以上！」　

ちね「いやぁ・・・。長かったなぁ。」　

イク「汝なれたちが、横槍よこやりを入れるからでしょ！」　

武日たけひ「それで・・・ついにやるんか？」　

イク「うん。来月、ついに交代しちゃうよ。」　

カーケ「何の交代なのかね？」　

イク「伯父上おじうえ？　知ってるでしょ？　天照大神あまてらすおおみかみこと『アマ』様の御杖代みつえしろを交代させるって。」　

交代とは、どういうことであろうか？　

次回につづく