計算が合わない 牧野信一の『闘戦勝仏』をどう読むか⑩
牧野信一は侍女をして賽太歳を「王様」と呼ばせてみる。村上龍が『半島を出よ』で書いた通り、たとえ合理的な支配でなくとも、一旦支配されてみれば、人はその支配を受け容れるしかないのではなく、むしろその支配が不合理なものであればあるだけ、積極的に支配されようとするものであることを確認するように。しかし村上龍がしたお勉強を牧野信一はしていないだろう。牧野はさして深い考えもなしに、ただ自然に「王様」と書いてみただけかもしれない。
しかし悟空は佯狂の詩人ではない。ここでは賽太歳の残忍