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□第二言語教育の「常識」 — 基礎日本語教育を考える

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2021年7月〜  日本語教育で流布している「常識」に反論し、むしろ良識的に合理的で論理的に考えると日本語の教育企画やこのようになるはず、ということを論じます。あわせて、後半では… もっと読む
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「第二言語教育の「常識」 — 基礎日本語教育を考える」の概略

 ご存じのようにわたしは表現活動の日本語教育を提唱しており、それは、考究された言語観、言語習得観、第二言語習得の原理などに支えられていると思っています。表現活動の日本語教育はそのような理論にしっかりと支えられているわけですが、もう一つそれを支えている土台があります。それは、実は、常識です。どういうことかというと、「これまでの日本語教育は常識的で穏当な合理的な考え方や判断の下に行われていなかったのではないか」、「業界でのみ、あるいは業界の中の人たちの間でのみ通用する常識で教育を

2022年6月号羅針盤 第二言語教育の「常識」 ─ 基礎日本語教育を考える(10)

 この連載もいよいよ最終回となりました。イントロダクションを1回書いて、その後9編の記事を書きました。今回は最終回ということで「従来の日本語教育から表現活動の日本語教育への移行」というテーマで書きます。  前口上では、以下のように書きました。  つまり、ややこしい理論や理論から演繹した原理ではなく、第二言語教育あるいは日本語教育というものを普通に、ごく常識的に考えてみましょうという趣旨でした。そして、以下のような目次を提示しました。  ざっとレビューしつつ、若干のコメン

2022年4月号羅針盤 第二言語教育の「常識」 ─ 基礎日本語教育を考える(9)

 前回は、「プランの役割、リソースの役割、学習者の役割、教授者の役割」というテーマで話しました。それで、習得支援あるいは教育の構想に関する議論の中心部は終わりです。そして、今回は、教育の重要な要素である評価について話します。以下のような目次です。 6.評価をめぐって 6-1 さまざまな種類の評価 6-2 言語教育における本来の評価 6-1 さまざまな種類の評価  ここでは、教育を担当する立場にある者の評価についてのみ話したいと思います。 (1) 成績評価  はじめに、重

第二言語教育の「常識」 ─ 基礎日本語教育を考える(8)

 前回は、基礎日本語教育を企画するというテーマで話をしました。今回は、以下です。 5.プランの役割、リソースの役割、学習者の役割、教授者の役割 5-1 プランの役割 5-2 リソースの役割 5-3 学習者の役割 5-4 教授者の役割  こうしたテーマの話は、実は、前回お話しした「ユニットを企画するにあたっての3つの視点」と大いに関連していますし、5-1は、5-2から5-4と直接に関連しています。 5-1 プランの役割  プラン=企画の役割は、以下の4つです。 (1)

第二言語教育の「常識」 ─ 基礎日本語教育を考える(7)

 前回は、4-1の、フィージビリティ、ヒューマニズム、プラティカビリティという、コース全体を企画するにあたっての3つの視点の話をしました。 4.基礎日本語教育を企画する ─ インストラクショナル・デザインにあたって 4-1 コース全体を企画するにあたっての3つの視点    ─ フィージビリティ、ヒューマニズム、プラクティカビリティ 4-2 ユニットを企画するにあたっての3つの視点    ─ 言語事項の知識と言葉遣いの蓄え、言語活動従事、言語促進活動  今回は、4-2です。

第二言語教育の「常識」 ─ 基礎日本語教育を考える(6)

 第4回の音声指導について、そして第5回の書記日本語の指導の話を挟んで、今回はインストラクショナル・デザインの話に戻ります。今回は、 4.基礎日本語教育を企画する ─ インストラクショナル・デザインの前に 4-1 コース全体を企画するにあたっての3つの視点    ─ フィージビリティ、ヒューマニズム、プラクティカビリティ 4-2 ユニットを企画するにあたっての3つの視点    ─ 言語事項の知識と言葉遣いの蓄え、言語活動従事、言語促進活動 の中の4-1について論じます。

第二言語教育の「常識」 ─ 基礎日本語教育を考える(5)

 前回は音声指導をめぐる話をしました。そして、最後のパラグラフで書いたように、こんなふうに音声指導をしましょうという提案ではなく、むしろ日本語学習初期に日本語の音声の特徴を認識させ日本語の発音のコツを指導しておけば、本来的に重要である言葉遣いを軸とした言語技量の形成に注力し集中することができるという話でした。重要なのは、日本語の上達に結びつく言語技量の形成のための活動をたっぷりと行うことです。  今回は、書記日本語の指導について話をします。次の2テーマです。 3-3 書記日

第二言語教育の「常識」 ─ 基礎日本語教育を考える(4)

 前回は、言語活動従事という見方を提示し、それに関連して、言語技能ではなく、言語活動に従事する言語技量という形で発達していく日本語の能力を捉えることを提案しました。そして、日本語の上達を支援するというのは、言語知識の拡充と言語技量の増強を同じ並行的に行う状況を設定して、その中での具体的な支援と促進の行為を行うことだと述べました。そして、表現活動中心の教育でこそそうした日本語上達支援を有効に展開できると主張しました。  今回と次回は、少し「一休み」のような感じで、音声の指導と書

第二言語教育の「常識」 ─ 基礎日本語教育を考える(3)

今回の目次は、以下の通りです。 2.第二言語教育に与えられた課題は何か 2-1 言語の上達 2-2 言語活動従事 2-3 言語技量 2-4 言語知識の拡充と言語技量の増強 2.第二言語教育に与えられた課題は何か 2-1 言語の上達  前回の1-2の中程で、「日本語教育の目的は、学習者における日本語の上達を支援し促進することです。ですから、日本語プログラムは、学習者における日本語上達の経路を反映したものであることが重要です」と書きました。この見方では、実は、日本語上達の経路を

第二言語教育の「常識」 ─ 基礎日本語教育を考える(2)

 今回の目次は以下の通りです。 1.教育企画とインストラクショナル・デザイン 1-1 インストラクショナル・デザインとは何か 1-2 教育企画とインストラクショナル・デザインで重要なこと 1-3 プロフェッショナルの仕事 1-1 インストラクショナル・デザインとは何か  一人の人が何かのプロジェクトをしようとする場合には、その展望も青写真も計画もその人の中にあって具体的な状況に適宜に対応して軌道修正しながらそれを進めてもよい。しかし、そうした場合でも、そのプロジェクトが繰り

第二言語教育の「常識」 ─ 基礎日本語教育を考える(1)

 前回掲載した目次の連続エッセイの前口上として、「はじめに」として、「なぜ、『日本語教師』は文型・文法事項の指導に固執するのか」というテーマで書きます。まず、固執の背景と思われる事項を箇条書きにします。 1.学習課題を「学」的に捉えている感じ  教育の企画と実践の構想において、主要な学習課題を捉えることは重要です。「基礎段階の主要な学習課題は文型・文法事項であり、その事項はこのリストで、基本的な学習順序はこのような順である」というふうに捉えて、宣言すると、それは(日本語)学