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今を私らしく生きるための哲学。

愛する人との別れ、戦争、親からの曲がった愛情、死。私たちの人生は理不尽であふれている。それでも、なんとか幸せになる方法を模索し、明日も生を選ぶための理由を探す。

世の中に、苦しみながら生きている人と、楽しく生きている人、どちらが多いかなんて見当もつかない。

しかし、誰しもが生きる中で一度は困難にぶつかり悩むという点において、大抵の人が苦しみながら生きていると言い切っても、大げさではないだろう。

生きるための哲学とは何か

今回紹介する本「生きるための哲学」では、目の前に絶望し、生きることを諦めかけた哲学者たちが、出会いや偶然、本能という名の運命に導かれ、答えのない問いにどんな答えを出したのかが記されている。

タイトルになっている生きるための哲学とは、筆者に言わせれば「どうせ氏に向かい存在であるわれわれが、苦しみながらも生きようとすることになんの意味があるのかという問い」に対する答えのようなもの。

完全な答えではないにせよ、「生きづらさを超えて、少なくとも一人の人間を救った生きた哲学」だ。

こんなにテクノロジーが発達している今、なぜ哲学なのか。その理由を著者は前書きでこう述べる。

悩みと無縁に生きてきたような人でさえ、人生のある時期には、自分の心の問いに対する答えを探し求めようと、七転八倒するときがある。…そうしたとき、人は科学や理屈では答えが出ない問題、つまり答えのない問いに向き合っている。数学の問題であれば、「解なし」というのが正解であったりするが、人生の問題では、それではすまされない。…前に進もうと思えば、自分なりの選択と決断をするしかない。

つまり、答えがないとわかっていつつも、なんとか意味を見出そうとする人間らしさの結晶が、哲学だということだ。

生きづらさを生む問題たち

この本では、さまざまな答えのない問題を扱う。

親との折り合いが悪い。
自己否定や罪悪感に悩まされる。
自分らしく生きられない。
他人の期待に縛られてしまう。
生きる意味がわからない。

特に最後の問いは本書全体のテーマであり、読み進める中で、哲学者や文豪が目の前の理不尽な現実を受け入れ、答えを出していく様を見ることになる。

またほとんどの問題が、不安定な親子関係に根付いているというのも印象的だ。

その理由の一つは、親から植え付けられた価値観や理想像というのは、大人になってもしつこく付きまとい、切り離すことが難しいからだそう。

しかしそれは親に限らず、社会で生きていこうと思えば「こうでなければいけない」「なぜそんなこともできないんだ」という失望の声と無関係ではいられない。

そんなとき、自分に染み付いた価値観を一度リセットし、どうやって新たな人生を始めるか。それに答えるためのヒントが、この本を読めばきっと見つかる。

幸せになるために、生きるための哲学を探す

「自分らしく生きられない人に」の章では、こうでなければならないという呪縛からぬけ、自分が心から望んだことをすれば、結果にかかわらず幸せになるという。

自分が心から望んだことを成し遂げることは、はるかに大きな満足を与えてくれる。たとえ、その試みが成し遂げられず、途方に終わったとしても、自分が心から好きで、やろうとしたことであれば、納得がいく。…同じことをしたとしても、それが当人の選択したものである場合には、得られる喜びや満足が格段に大きくなることが、様々なデータによって裏付けされている。

西洋哲学から仏教や禅といった東洋哲学、そして心理学や、筆者が精神科医として出会った患者の事例まで、「生きるための哲学」は分野の垣根をこえる。哲学を中心にしつつも、科学的発見や小説のような物語要素も含むので、哲学と聞いて気が引けてしまう人でもとっつきやすいだろう。

しかし、一つ注意したいのが、この本には、人生に関する問いの答えは書いていないということだ。

人生をかけて正面から答えのない問いにぶつかった先人が、どう苦しみ自分なりの答えを見つけたのかは書いてある。

それらがそのまま自分の問題に応用できるかもしれないし、全く違うアプローチが必要かもしれない。一つ確実なのは、答えがない問いに対しては、自分の力で答えを見つけるしかないということ。

死ぬ気で生き抜いた人の一生を覗き、ぜひ明日も生きていくための自分の哲学を見つけてほしい。


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