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昼夜逆転することは問題なのか?

■ カンファレンスは問いかけの場


介護サービスでは、利用者の状態の共有と今後の支援の検討などのため、カンファレンスが行われる。

利用者たる高齢者は、身体機能が日々変化するし状態だって落ちていく。
その時の利用者の状態に合わせたサービスを提供するため話し合いをする。

この場ではベテラン職員も新人職員も役職者も、誰もが同じ立場で意見を出すことが望ましい。ベテランが必ず正しいというわけではないし、新人だって意外な考えを出すこともあるからだ。

また、同じサービスをしていても個々に捉え方は違う。そこで思いもよらぬ発見もあるため、1人の利用者を色々な視点や角度から見るのは重要だ。

私は介護事業の運営として現場の管理職みたいな立場でもあるが、カンファレンスでは基本的に現場職員が発言することを優先する。それは黙って話を聞いているという意味ではなく、意図や疑問を問いかける。

それは介護現場では当たり前になっていることでも、私からすれば「なんで?」と思うことがたくさんあるからだ。

私からの問いかけに対して「こいつ分かってねーな」「そんなの現場では当たり前のことだよ」という反応をされることもあるが気にしない。


■ 「昼夜逆転の問題は何か?」という問いかけ


例えば、あるときのカンファレンスで「利用者の〇〇さんですが、最近の様子から昼夜逆転しているようです」という発言が、施設職員から出た。

それに対して他の職員も「ああ、そうだよね」と職員同士で頷きあったり、「夜間帯はちゃんと寝れているの?」と夜勤者に聞いたりする。

それに対して日中の活動量を増やすとか、お腹の調子が悪いのではとか、睡眠を阻害していることがあるのではとか、何か不安ごとでもあるのか・・・といった議論がなされる。

そこで私は「昼夜逆転することの何が問題なのですか?」と問いかけた。

すると、その場にいた数人のスタッフから露骨に「何言ってんだ、こいつ」みたいな顔をされた。そしてあきれ顔で「日中帯にウトウトと居眠りするんですよ」とか「生活サイクルが狂うじゃないですか」と言われた。

それでも私は「日中帯にウトウトすることの何が悪いのですか?」「〇〇さんにとって生活サイクルが狂うことで何か支障があるのですか?」と問いかけた。

このように問いかけると「いや、日中帯に起きているのは普通のことじゃないですか」と不満そうに言われる。

しかし、その場にいた何名は「何でと言われると、何でだろう?」と戸惑いの表情を浮かべた。そこで私の問いかけは終了とした。


■ 昼夜逆転したって別に良いのでは


人間はそれなりに日課というものがある。
朝起きて、歯を磨いて顔を洗って着替えて、朝食を食べて新聞を読んで仕事に出かけて・・・みたいな感じだ。

誰もが個々にそれなりの生活サイクルを維持して生きているが、生きていれば短期的・中期的に平時の生活サイクルが崩れることはある。それどころか、崩れた生活サイクルが平時の生活サイクルになることもある。

このように考えると、上記のように利用者が一時的に昼夜逆転しているということは別に問題ないのではないのではないか?

正直言って、高齢者が日中帯にウトウトしたり、夜に眠れないという日があったとしても「別にいいんじゃないの?」と思ってしまう。

何日も寝ていないというならば問題であるが、夜間帯に眠れない分、日中帯にウトウトと居眠りしているならば、睡眠という観点においては容認されることではないだろうか。

そもそも介護職員だって、仕事やプライベートなどの事情から生活サイクルが崩れて日中帯にウトウトしたり、あるいは夜に何となく眠れない日が続くということはあるはずだ。

自分たちはそのような状態を受け入れているのに、いざそれが利用者たる高齢者を相手にしたとき「昼夜逆転している、問題ではないか」「生活サイクルを正そう」というのは勝手ではないか。

それはまるで、不摂生をして肥満体の人から「運動と栄養管理を頑張りましょうね」と言われているようなものだ。


■ ”規則正しい生活”は大切だが、すべてではない


もちろん、朝起きて、日中活動し、適切にご飯を食べて、夜は寝る・・・という生活が適切というのは間違いない。

それはいわゆる”規則正しい生活” と呼ばれるものだ。
おそらく、昼夜逆転を介護者が問題視する背景として「人間は規則正しい生活を送るべきである」という認識があると思う。

そこから「介護者としてはそれを成立する手助けをしなければいけない」という使命感が湧くのではないか。

規則正しい生活というのは大切だ。特に睡眠は脳や肉体、精神面にも大きな影響をもたらす重要な行為である。

しかし、生きるというのは何も規則正しい生活が全てではない。特に昨今では多様性が容認されている時代である。生活スタイルだってどんどん多様化していくことだろう。

そもそも介護の仕事においてだって、夜勤という仕事があるし、利用者の状態が急変した場合などはルーティンワークよりもその対応に当たることが優先となる。この緊急対応だって深夜のときもあれば朝方になることもある。
それによって一時的に体内リズムが崩れることは珍しくない。

別にこれは介護の仕事に限った話ではない。緊急事態やトラブルなんてものはどの業界でもありうる。つまり、睡眠をはじめ生活リズムが一時的に崩れること、昼夜逆転めいた状態になるなんてあるあるだ。

そこを利用者(高齢者)だけ「規則正しい生活にせねば!」とするのは違和感を抱く。


■ たまには一緒に起きていてもいいじゃん


結局、昼夜逆転ぎみの利用者に対してはどのように対応すればいいのか? と言われるかもしれない。

それに対してはまず、昼夜逆転になっていることを大袈裟に捉えないことだ。何かしらの基礎疾患や精神面に留意点があれば別だが、寝れないことが中長期にならない限りは一時的な状態として様子見することだって大切だ。

また、日中帯にウトウトすることだって、もしかしたら単純に高齢でお体が疲れているだけということだってある。それを無理に「日中帯は活動してもらおう!」と考えると、逆にその方の負担になる可能性もあるので慎重に検討していただきたい。

あとは、介護施設で言えば、夜間帯に寝れないという利用者と一緒にしばらく時間を過ごしてみてはどうだろう?
これは自身の業務との兼ね合いもあるため可能な範囲で良いのだが、個人的な経験として、しばらく共用スペースで一緒にテレビを観たり、ホットミルクを飲んだりしてるうちに利用者から「もう寝るわ、おやすみ」と言われることもある。

無理にベッドに横になってもらうよりも、リラックス空間を共にするほうが睡眠という観点においてはうまく事が運ぶと思う。


――― 色々と批判を受けるかもしれないが、「夜は眠るのが当たり前」「無理にでも寝なければ」とすると逆効果であることは誰もが分かっていることだろう。

そのうえで「誰だって眠れない時期がある」くらいに考れば、利用者(高齢者)を無理に寝させようとすることに躍起にならずに済むのではないか?


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。



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