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「未来の想い出」の想い出〜藤子・F・不二雄の描くループ世界その1〜

今までプレゼントしたり貸出したりして、その都度買い求めている一冊の単行本がある。

藤子・F・不二雄の「未来の想い出」である。(貸出の場合は要するに借りパクされたままってわけだけど)

内容は使い古された(と作中で著者も明言している)”もし人生がやり直せたら?”がテーマの中長編である。

(あらすじ)まんが家・納戸理人は、過去にヒット作を出すも、今はベテランの域に達し、今では情熱も失い、惰性で漫画を描いていた。
ある日、突然死から目を覚ますと、まんが家のタマゴとして上京してきたあの日に戻っていた。

記憶を持ったまま過去にさかのぼりやり直すといえば、最近では「僕だけがいない街」「魔法少女まどかマギカ」が記憶に新しい。

こういった仕組みの物語は「ループもの」と呼ばれ、SFファンの中でも人気の高いジャンルの一つである。

藤子・F・不二雄は、他にも代表的な「ループもの」作品を世に出している。

その中でも、特に僕が好きなのは、この「 未来の想い出」「ノスタル爺」そして「山寺グラフィティ」の三作品だ。

後にも述べることがあると思うが、藤子・F・不二雄は非常に「漫画の巧い作家」だと今でも思う。
(ここでいう「漫画の巧い」は、「絵が巧い」とは別の意味を多く含んでいる。)

もちろん藤子・F・不二雄は、絵も巧いのだが、それ以上にコマ割とセリフまわし、ページ構成が抜群に巧いと思うのだ。

一見、大胆なコマ割や派手な演出も少なく、現代風ではない。
しかし、少ないページ数で厚みを損なわず、映画的なカメラワークできっちりと物語を読ませると言う点では、今でも十分に上位に位置する作家だといって差し支えないだろう。

さて、本作である。

なんと、わずか160ページのボリュームしかない。

一読してもらえばご理解いただけると思うが、藤子・F・不二雄の「卓越した引き算力」を再認識いただけるだろう。

この作品は、初めて体験するやり直し人生を、主人公とともに体感しながら、ハッピーエンドを目指す王道展開が魅力の一つだ。

その一方で、他の「SF短編集」作品が持つ怖さや皮肉などのスパイスは、極力抑えられている。

ここにこそ、本作品のテーマが隠されている。

「抜けきれない日々の怠惰な繰り返しから、抜け出る方法は必ずどこかに存在する」

と「未来の想い出」は主張しているのだ。

日々の怠惰な繰り返しから脱出するきっかけは、いつも自分の中にある。


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