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銀行の取締役に求められる戦略立案能力

前回は素材・化学メーカーのスキルマトリックスについて内容を概観しました。

今回は銀行のスキルマトリックスを取り上げます。この業種で今年の株主総会招集通知でスキルマトリックスを公表しているのは三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)、りそなホールディングス、三井住友トラスト・ホールディングス、みずほフィナンシャルグループの4行です。

大きな特徴の1つとして社外取締役のスキルのみ公表していることがあります。スキルマトリックスが社内昇格取締役の含んだ取締役会全体のスキルのバランスを示すものですので、まだ大きな改善余地があるといえます。MUFG以外の3行は初めてスキルマトリックスの開示を始めたということもありますので、今後に期待したいところです。

スキル内容を見てみると、4行で共通しているのは「企業経営経験」「法律」、3行に共通しているものとして「財務・会計」「金融業界経験」が挙げられています。いずれも銀行の取締役を務めるには必要不可欠なものです。一方で、銀行毎の特徴はあまり見られないとも言えます。

銀行業が戦後長らく護送船団方式と呼ばれるように、規制当局による監視下の下、産業発展のための銀行間で協調して資金面のサポートをしてきたことを考えると、この特徴のなさは仕方がない側面もあります。

米国の銀行でスキルマトリックスを公表しているウェルズ・ファーゴと比べると、内容面でも改善の余地が大きいといえます。上記以外でウェルズ・ファーゴが取締役に求めているスキルには以下のようなものがあります。
・サイバーセキュリティ・情報セキュリティ・テクノロジー
・人材開発
・戦略立案・ビジネス開発
・デジタル・マーケティング
・コーポレートガバナンス、経営陣のサクセッション・プランニング
・ESG、地域との関係
・政府・政策・規制
・グローバル

日本では低金利政策により伝統的な融資による利鞘が大きく望めない一方で、様々な技術進歩により銀行の業務も、顧客に提供するサービスの利便性が今後の収益性の鍵となりそうです。その推進を効率的に、効果的に行えているか判断・監督する人材が取締役会に求められています。

また融資先が気候変動により受ける影響を銀行が把握していることが世界的に求められています。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が融資先に求める開示情報の枠組を示しましたが、その開示情報を判断する人材が銀行側にも必要不可欠になります。これらの対応についても判断・監督する人材が取締役会に求められており、「ESG」もしくは「環境」もスキルマトリックスに追加される必要があると考えています。

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