「「白い人・黄色い人/遠藤周作」読書記録はしりがき 2」


【関連:夜と霧
人は追い詰められたとき、極地に立たされた時に本当のその人らしさが残酷なまでに露呈する。本性が現れてくる。
それぞれにさまざまな事情を抱え、その中には苦しさや辛さもある。その存在を否定することはできないし、個人的なものを天秤にかけるように比べることはできない。
もし私があの子だったら、あの時代に生まれていたら、…
そんなことを考えてしまうことがあるけれど、きっと私は、(もしかしたら”私たち”は、)どんな状況に置かれたとしても、苦しみや辛さを抱くだろう。見出してしまうのだと思う。
その人それぞれに地獄があると思うんですよ。私には私の地獄があるし、あなたにはあなたの人生の地獄がある。

一つクリアしても、次の幸福がほしくなる。翻って、現状の不足や欠如に目がいき、「苦しみ」や「辛さ」を見出す。
我ながら、愚かだなと思う。

戦争を題材にした本を読んでいると、今身を置いている環境がいかに満たされ恵まれているかに、もはや苦しいほどに気づかせられ、心が揺さぶられる。
今私の中にある苦しさも、辛さも、否定はしないし、気持ちの主としてなかったことには決してしないけど、これで苦しと、辛いと感じていられるという幸福感を感じてしまう。

今は他人の、そして自分の本質を目の当たりにせずとも生きていられる。
自分の悪とか狡さとか、そういうものを抑えられている。
もはや抑えているという自覚すら持たずに、さも「無い」かのように生きていられているんだ。
自分の理性の力もあるだろう、でもきっと環境のおかげというのもかなり大きいのではないか。

追い詰められた、極限の環境に身を置くと、「死」を目の当たりにすると、本性が出てくる。

以前読んだ「夜と霧」の中で「優しい人から順に死んでいった」というような言葉があったような気がする。
「死」から逃げるには「理性」ではなく「本能」を優先すべきなのだろうか。そこまでして生きる意味はあるのだろうか。
でも、きっと「そこまでして生きる意味があるのか」という問いすら浮かぶ余裕がないのだと思う。

自分には一体どんな邪悪さが潜んでいるんだろう。
それらが立ち上がることなく生き切りたいと思うし、そうぜずにいられている今の環境に感謝しなくてはいけない。そしてこの環境を守っていかなくてはいけない。
自分中にある邪悪な本質を抑えることができる心の余裕を持てる社会。
【関連:世界は贈与でできている 社会が維持されているのは当たり前ではない】

・77「仏蘭西人に生まれながらも、仏蘭西を裏切り、といって、独逸人にもなりないノケ者の影が、その蒼白なやせた顔をえぐり取っていた。私は屡々、キャバンヌが相手だけでなく、自分を撲っているのだなと考えた。他人からだけではない。自分でも自分を呪わねばならぬ運命が、確かにこの男を歪めていた。
どっちつかず。揺らぎ。両義的。グレー。
その中で選択しないといけないという苦しみ。どちらかを切り捨て、見殺しにし、裏切り、どちらか一方を選ぶ決断をしなければならないというのはどんなに苦しいことだろう。
グレーのままで濁すように生きられているということも本当はとても恵まれているということ。
戦争下では「生死」を伴うそのような決断が強いられていたとうこと。

・77「私は、彼等と交際しているうちに、拷問者というものは、一般に考えられているような単純な野蛮人、暴力者ではないとはっきりと分かった。
ある夕暮れ、私は、中尉が待つの実町の邸に棄てられてあるピアノを奏いているのを見たことがある。
先ほどの拷問の時に、腐魚のように濁って見えた彼の眼は、その時イキイキと輝いていた。夕陽がその額と銀髪とを薔薇色にさえ、染めていた。
「音楽をお好きですか」と私はたずねた。「俺か」と突然、彼は顔をゆがめて答えた。「モーツァルトがすきだなあ。俺は召集されぬ時、毎晩、妻と子供と合奏してものだ。モーツァルトは素晴らしい。

どんな人も多面的である。
一面しか気づけないのは愚かだし、他の面をなかったことにするように一面が強調される戦争の恐ろしさ。
人間の暗く黒い面を立ち上がらせるのが戦争なのかもしれない。
【関連:アムリタ 人の持つ混沌さ】

・【関連:すべての見えない光 戦争という大きなくくりの中にも一つ一つの個人があって、性格が、刻まれる歴史が、生活があったということ。】

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・【関連:夜と霧・中原淳一さんのエッセイ・「知識は誰にもお奪われることのない唯一の財産である(ユダヤ教の教え)・「どんな立派な学歴があろうと、知識の詰まった本を持っていようと、自分の中に根付いていないと意味がない(出典不明 なにかのエッセイ?)」「履歴書に乗らないあなた(出典不明 なにかのエッセイ?)」」・放課後のキーノート解説(なにも持っていなくても魅力的でいられるか)・モンテーニュの皮膚の言葉 思い出や記憶、頭の中にある者たちは決して他者から奪いとることはできない 最後に残るものとは】
78「疑おうと思えば、通行人さえ疑わねばならぬ日である。しかし、中尉や秘密警察や抗独運動者がいかに私の主変を詳細洩れなく調べ上げても、彼等は私の過去の思い出を、私の育てたもの、イボンヌと老婆の光景、アデンの少年との事件を知ることはできまい。

・「関連:塩狩峠 信仰はどれほどに人の人格、あり方に影響を及ぼすのか」

・英雄勘定や犠牲精神について
個人差があるのか?なぜ差が生まれるのか?なぜ「他人」の為にあれるのか?偽善?なぜそこまでできる?
また宗教についての疑問が湧いてくる。
【関連:森岡正博さんの作品】

・「白い人」衝撃的な作品。私が漠然と抱えていた問いが表現されていると感じる。このような作品を描ける遠藤周作さんはなにものなのか…

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