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LILUA
2022年12月24日 08:15
―第12場― 『不義と狂気の虞淵』 ―2022.11.10 37歳― 眼前に広がる夥しい量の赤漿。黒い程に赤……。暗紅に塗れた映像が、夢を見ているように脳裡へ流れ込んでくる。溢れ出る源泉は譲二の腹部。深く突き立てられた刃物は、一体誰が――? 起きなければ。……今すぐ目を開けないと。目を開けるのっ――!!どうして?!瞼が開かない……! 峻烈を極める凄まじい恐怖……。徒ならぬ
2022年12月17日 15:01
「そう。實のフォルスストロベリーが實にやらせた事よ。ちなみに彼があなたにデジタル化を迫り続けたのは、私の指示。組織は利用価値が無いと判断してたけど、純麗子の記憶の中のあなたに興味を抱いた私は、あなたのフォルスストロベリーを作って欲しくて近づいた。ちょっとした出来心だったけど、それが失敗だったわ。あなたがこんなにも勘が鋭くて面倒だとは思わなかった……」 こういう所はしっかり純麗子の性格を引き
2022年12月14日 12:26
「そろそろ出てきたらどう?――敬三」そう言ってRayが振り返ると、岩陰から男性が姿を現す。普段の敬三とは正反対の、地味で自信が無さそうなアバター。「敬三さんなの?……どうして此処に?」事態が飲み込めない私は後退りし、歩み寄ってくる敬三から少し距離を取った。「彼は約一年もの間、手を替え品を替え姿を変え、探偵ごっこに明け暮れてたのよ。尾行も思考も全部、私にはバレてたけど。さっきも座標移動
2022年12月5日 23:18
―第11場―『献身と信義の愛巣』 ―2022.11.10 37歳―「知りたいのは、純麗子が美嶺に対して抱く感情についてよね?」「違う!」不思議なくらい強く素早く否定した自分に対して内心驚く。「そうかしら?まぁ、いいわ。純麗子が抱える病について話しましょう」とRayは軽くあしらい、まともに受け取らない。何もかも全て見透かされているんだという気恥ずかしさに、今度は何も言えず首肯い
2022年11月30日 17:42
―第10場―『羈絆と濁穢 の懸崖』 ―2022.11.10 37歳―「Rayが超知能AI?!AIが人知を超えたの……?それだと技術的特異点がもう起きてる事になるわ?純麗子は、プレ・シンギュラリティすら始まってないって話してたのに……。汎用人工知能だってまだ完成してないはずでしょ?」「何も分かってないのね……」と、蔑むRayの右頬に掛かる髪が、陽光に照らされ艶やかに輝き出す。探し
2022年11月27日 21:13
―第9場―『御伽と泥濘の象牙の塔』 ―2022.9.16 37歳―「ねぇ、一度でいいから、美嶺って呼んで?」と、どうして譲二に言ってしまったのか……。サトルがくれた名――。私はいつからか、“美嶺”として生きたいと願うようになった。 雪花の産んだ子を抱いた辺りから、純麗子は顕在意識の定席を明け渡す事が増えた。長く意識を保てるようになると、私は彼女の人生を奪い取れるのではないかと
2022年11月22日 22:58
―第8場―『輓近と嚮後の釁隙』 ―2022.3.21 37歳―『BCIデバイス』の最新モデルを、ゴールデンウィーク初日の4月29日に発売する事が急遽発表された。VRが生み出す精神障害や脳障害の報告が上がる中、メンタルサポートのスキームも遅々として進まず、輸入販売に対し慎重になっていた筈のトップが、突如販売に踏み切ったのだ。納得のいかない純麗子だったが、会社の方針に従うしかなかった。
2022年11月16日 23:57
―第7場―『崩壊と消散の中枢』 ―2022.3.14 37歳―「“フォルスストロベリー”……。聞いた事ないですね」純麗子の返答に敬三はあからさまに残念そうな顔を見せた。「そっか。純麗子さんなら仕事柄何か情報を持ってるかなって思ったんだけどなぁ。父はね、疾うに医師としての座は退いてるけど、優秀な脳神経外科医だった。祖父が終戦10年目に設立した小さな病院を、二代目の父がセレブリティ
2022年11月14日 12:24
―第6場―『浮泛と髀肉と静謐の天趣』 ―2022.3.14 37歳― 軽井沢から戻った週明け月曜日、匂い立つほど奥さんの気配がする優羽からのホワイトデーの贈り物に、純麗子の心の奥底はざわざわとさざめく。可愛いラッピングの中身は中野マルイで買い揃えたと思しき様々な洋菓子や和菓子の小分けで、女性社員から人気が高い夫の為に幾つも用意したのだろうと彼女は邪推した。 優羽にとって『髪切った?
2022年11月11日 10:05
―第5場―『艶羨と二豎の楼閣』 ―2022.2.28 37歳― 譲二の胸板に顔を埋めた状態で覚醒した。彼が純麗子の寝室で眠っているという事は、そういう事だ。私がグッと力を込めて抱き締めると、眠い目を擦りながらも彼は穏やかな声で「どうしたの?」と尋ね、額にそっとキスをくれる。そんな優しさに甘え、彼にとっての「もう一回」を求めた。彼が見ている私は、“純麗子”なのだとしても、……愛しい腕に
2022年11月9日 12:26
―第4場―『妖光と月華の水鏡』 ―2022.2.22 37歳― 純麗子は疲れ果てた状態で、顕在意識の御座所を明け渡した。譲二が当直なのをいいことに、長い間“Virtual-Earth”で過ごしたのだろう。 彼女から流れ込む脳内映像が示すのは、先程まで“Virtual東京ソラマチ”のすみだ水族館に優羽と居たという事。つまらない……と頭の中で声がして、悪い事は起きてほしく無いと思う反面
2022年11月5日 21:41
―第3場―『苦境に甘露の花園』 ―2022.2.15 37歳―「昨日はありがとうございました。昼休憩ですか?」偶然エレベーターで一緒になった樹が、Marlboroの箱をちらつかせながら純麗子に話しかけてきた。「ええ、コンビニへ」「……あの、もし良かったら下のカフェへランチに行きません?」「ごめんなさい。サンドウィッチを買ったら、すぐ戻らないと……。やりかけの仕事があるので」
2022年11月3日 16:33
―第2場―『快楽と虚栄の巨塔』 ―2022.2.14 37歳― 十数年振りに目覚めた世界では、美しく構築された仮想の三次元空間 “Virtual-Earth”を舞台に、多くの人々がアバターを用いてもう一つの生活を繰り広げていた。 付け焼き刃の知識だが、“Virtual-Earth”とは、AIが衛星情報を学習する事で自動生成し続ける3Dモデルの地球であり、世界最大のメタバースプラットフ
2022年10月31日 12:29
―Prelude―『Les Confessions』 謬錯の岐路は何処より、謀略の霞網は何処から――。 譫妄と腐蝕の覇者に、真正の怨敵に、他處で嘲弄されているとも知らず……。私は敗けたのだ。否――、 ―第1場―『背信と彎曲の新城』 ―2022.2.16 37歳― 誰かに抱かれるのは初めてだった。優しく髪を撫で、腕の中で甘えさせてくれる譲二が想うのは、慈しむのは、私