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アート全般に興味があり、深読みを楽しんでいます。すこし無理があっても、こんな見方ができ…

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アート全般に興味があり、深読みを楽しんでいます。すこし無理があっても、こんな見方ができないかという提案です。目にとめてもらえるとありがたいです。

最近の記事

アートの深読み15・「ローマの休日」1953

 ウィリアム・ワイラー監督作品、アメリカ映画、原題はRoman Holiday、グレゴリー・ペック、オードリー・ヘプバーン主演、アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞。これまで何度となくくりかえしみてきた映画だが、オードリー・ヘプバーンの魅力が全開している(上図)。映画の筋立てとは逆に、ハリウッドの大スターが、デビュー間もない新人女優を、優しくエスコートしている。  アメリカの通信社の記者(ジョー・ブラッドレー)が、王女(アン)との偶然の出会いを通じて、ローマでの一夜限りの恋を成

    • アートの深読み14・フェデリコ・フェリーニ監督の「8 1/2」1963

       フェデリコ・フェリーニ監督作品、イタリア映画、原題はOtto e mezzo。8.5本目の監督作品だということでつけられたタイトルであることから、自伝的色彩を強く感じさせるものだ。映画監督(グイド)が制作を続けられない苦悩をかかえながら、プライベートとの板ばさみで、ギリギリの状態で命を終える話。イタリア人だとすぐにわかる無駄なおしゃべりが延々と続き、ストーリーを追いかけていれば、破綻をきたすが、論理を超えた即物的な見方をしていくと、見えてくるものがある。  映画制作にとっ

      • アートの深読み13・イングマール・ベルイマン監督の「冬の光」1962

         イングマール・ベルイマン監督によるスウェーデン映画。「鏡の中にある如く」、「沈黙」とともに「神の不在」3部作の1点である。原題はNattvardsgästerna。「聖体拝領者」を意味するキリスト教用語で、英語名はWinter Light。日本語名もそれにしたがっている。いなかの小さな教会の話である。牧師(上図)のもとに集まる信者との人間関係をめぐり、愛と神の存在を問う。神の問題については、キリスト教徒でもなければ関心はないが、愛についてはわかりやすい。牧師(トーマス)を愛

        • アートの深読み12・フランソワ・トリュフォー監督の「大人は判ってくれない」1959

           フランソワ・トリュフォー監督作品、フランス映画、原題はLes Quatre Cents Coups。カンヌ映画祭監督賞受賞。3人家族でのひとり息子が、少年院に送られ、脱走するまでの話。小学校高学年あたりのとしごろである。タバコを吸ったりもしているので、もう少し年長かもしれない。教室での態度が悪くて、立たされるところからはじまる(上図)。次にズル休みをして、仲間と遊びに出かける(下図)。  仲間は印刷工場を営む裕福な家の子どもで、欠席届の書き方を教えてやっている。書き損じて

        アートの深読み15・「ローマの休日」1953

        • アートの深読み14・フェデリコ・フェリーニ監督の「8 1/2」1963

        • アートの深読み13・イングマール・ベルイマン監督の「冬の光」1962

        • アートの深読み12・フランソワ・トリュフォー監督の「大人は判ってくれない」1959

          アートの深読み11・稲垣浩監督の「無法松の一生」1958

           稲垣浩監督作品、三船敏郎、高峰秀子主演。第19回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞。もうすでに誰かが解釈しているかもしれないが、無法松の一生を聖ヨゼフ伝としてみようというのが、ここでの私の提案である。一人息子を育てる未亡人(下図)をかげながら支えるあらくれの車引き(上図)の生涯をたどる。小倉生まれの玄海育ちである。気性は激しいが、心根はやさしい。淡い恋心をひとことも伝えることなく死んでしまった。こんなことをいうと元も子もないが、女のほうはたよりになるたのもしいお人よしと割り

          アートの深読み11・稲垣浩監督の「無法松の一生」1958

          アートの深読み10・是枝裕和監督の「誰も知らない」

           神戸市西区で6歳の子どもが埋められて遺体で見つかった。母親を含む同居する兄妹たちの犯行だった。現在真相が追求されている。現代という時代の歪みきった人間関係の犠牲になった6年の命に思いを馳せてみる。20年前に制作された是枝裕和監督作品「誰も知らない」(2003)をみたときにも感じた感慨だった。  柳楽優弥主演、カンヌ映画祭主演男優賞。英語タイトルはNobody Knows 。最初にことわりが入り、これは実話にもとづくが、フィクションであるとの但し書きが読み取れる。何が起こる

          アートの深読み10・是枝裕和監督の「誰も知らない」

          アートの深読み9・桑原甲子雄の「ワンマンバス」

          「写真家がとらえた昭和のこども」と題した展覧会が全国を巡回し、写真集も出版されている。こどもを被写体にして成功した写真家は少なくないが、ここでは写真家にスポットをあてるのではなく、こどもを戦前から高度成長期までの生活風景のなかから選び出している。何気なく写したスナップショットが、時代の変遷を語っている。この展覧会に出された写真で一番古いのは昭和11年、新しいのは昭和51年だが、戦前から戦中、終戦を経て高度成長する日本経済に支えられた40年にわたる昭和史のこどもたちが登場する。

          アートの深読み9・桑原甲子雄の「ワンマンバス」

          アートの深読み8・リヒターのステンドグラス

           ケルン大聖堂に行くと、ゲルハルト・リヒター(1932-)の制作したステンドグラス(2007)がある[上図]。中世ではステンドグラスに描かれたのはキリストやマリアや聖人だったが、ここでは色面によって構成された抽象画面が埋め込まれている。写真としか思えない写実のテクニック[下図]を持った画家が、同時に抽象絵画を成功させるのは奇跡に近い。しかし写実絵画もピントをぼかし、色彩の粒に分解してしまうと色の斑点からなる抽象絵画に他ならない。その点では両者は同一なのかもしれない。ケルン側の

          アートの深読み8・リヒターのステンドグラス

          アートの深読み7・小磯良平の「薬用植物画譜」

           小磯良平(1903-88)はだれもが好む柔和な日常の一コマを、詩情豊かに描き出した洋画家として知られている。光の処理はフェルメールを思わせるみごとな観察眼に由来したものだ[上図]。神戸市の小磯記念美術館で「秘蔵の小磯良平—武田薬品コレクションから」(2022年06月11日~09月25日)と題した展覧会が開催されている。小磯良平と武田薬品を比べた場合、どちらのほうが有名だろうか。美術を中心に考えれば主役は小磯だが、一般的には武田薬品の方が優位をしめるだろう。旧来からのパトロン

          アートの深読み7・小磯良平の「薬用植物画譜」

          アートの深読み6・ルドンの「眼=気球」

           サンボリスム(象徴主義)自体は、文学とも歩みを共にして、フランス語での名称が一般化されており、フランスが中心での展開だった。重厚な壁に塗り込められた退廃の美は日当たりの悪い都市の裏通りに巣くう甘美な幻想に結晶する。オディロン・ルドン(1840-1916)の「眼=気球」(1878)[上図]では目玉が気球に乗って浮遊する。目のシンボリズムは頻繁に登場する。目玉は絵画のことであり、眼の人クロード・モネ(1840-1926)のことでもあった。目は写真家ナダール(1820-191

          アートの深読み6・ルドンの「眼=気球」

          アートの深読み5・ハマスホイの「室内、床に落ちる陽光」

           デンマークの画家ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916)の再評価が進んでいる。フェルメールに反応した日本人の目がハマスホイに動じないはずはない。同じ静謐な室内画である。違いがあるとすれば近代の苦悩という点かもしれない。  テートギャラリーが収蔵する「室内、床に落ちる陽光」(1906)[上図]では、人のいない窓のある部屋が描かれている。同じ部屋は頻繁に描かれ、後ろ姿の女性を配したものもある。オランダに定番の、向かって左の窓から差し込む光ではない。正面に窓があって、手前

          アートの深読み5・ハマスホイの「室内、床に落ちる陽光」

          アートの深読み4・モネの「サンラザール駅」

          工場の煙  物語のないあいまいな色彩のうつろいでしかない絵なのに、ぼんやりと見ていては見落としてしまう現代社会へのメッセージが含まれている。声高には語られないので見落としてさえ構わないが、それに気づくとモネの世界観が見えてきて、真意が読み取れてくる。モネの美観を形作っている靄(もや)に霞む神秘的な光景は、光の魔術師のせいではなくて、現代社会への告発を含んでいると見ることもできる。  蒸気機関車が白い煙をはいて進む場面が描かれている[下図]。遠景に白い煙を吐き出す工場の煙

          アートの深読み4・モネの「サンラザール駅」

          アートの深読み3・クールベの「画家のアトリエ」

          天使は描かない 19世紀後半は「写実主義」がキーワードとなる。ギュスターヴ・クールベ(1819-77)のモットーは「私は天使は描かない」ということだった。背中に羽根の生えた人間は見たことがないからというのが理由だ。目にみえるものしか描かないという宣言である。今までも背中に羽根のある人間など信じないが描いてきた。天使を描かせたかったら背中に羽根の生えた人間を連れてこいというやり取りには、クールベの戦闘的な気性の激しさがうかがえる。  クールベの自画像「絶望」(1843-5

          アートの深読み3・クールベの「画家のアトリエ」

          アートの深読み2・モンドリアンのコンポジション

          縁取られた地図  ヨーロッパではいつも国境線が気になり、その不安と安定への希求が絵画に結晶する。輪郭線をなくすのは平和主義のことだが、印象派のユートピア思想が崩れ、黒い輪郭線が復活して、色面をふちどりだす。ポスト印象派の色面分割からはじまってピエト・モンドリアン(1872-1944)の抽象絵画に向かう絵画史の歩みでは、境界線を引き立たせる色ちがいの並列が、安定のかたちを見つけ出そうとしている。  混ぜると濁るので、並べて置くことで、網膜上で混合する。これは共存をめざす政治

          アートの深読み2・モンドリアンのコンポジション

          アートの深読み 1・荻原守衛の「女」

          荻原守衛(1879-1910)のデスペア  ロダンを象徴主義に位置づけるとすると、その影響下にあった彫刻家の立ち位置が定まってくる。日本から旅立った荻原守衛もまたそのひとりである。その存在は、みごとに日本彫刻史に輝いている。31歳で没した無念が、明治期のまだ初々しい日々の日本の将来を切望する。フランスに渡り、7・8年の滞在ののち帰国して、二年ほどの制作期間で終えてしまう短命の話である。若い才能の評価は作品数が5点もあれば十分だ。 「デスペア(絶望)」(1909)を見ると、

          アートの深読み 1・荻原守衛の「女」