まなみき

体脂肪率は20代の頃より低いと機嫌が良くなります 愛と音と文を与えないと枯れます 優し…

まなみき

体脂肪率は20代の頃より低いと機嫌が良くなります 愛と音と文を与えないと枯れます 優しくしてください

最近の記事

メロスの恋人

太宰治の『走れメロス』でメロスの代わりに人質となり、命を奪われるかもという不安の中で彼を待ち続けた友はセリヌンティウスという人。 セリヌンティウスは、友情と自らの心の強さで、不安や猜疑に打ち勝った。 それほどではなく、可愛らしいものだが、私にもセリヌンティウスのような体験が一度ある。 17歳の頃、待ち合わせしていた喫茶店に友達が来なかった。10分とか30分じゃない。今みたいにケータイがない時代。メールもポケベルもなかった。 「あの子が来ないはずない」「何か理由があるはず

    • 子育て回顧録 その2 父母の受容

      陽(はる)の発達に何かがあると感じたのは、1歳半から2歳頃だっただろうか。 私は保健師だったし、療育の担当もしていたから、自分に子どもができたとき、障害のある子が生まれることも想定はしていたつもりだった。 障害のある子が生まれたら、きっとエネルギーが湧いてきて、可愛がって必死に子育てするだろうと。 陽は、首の座りもハイハイも歩行も定型通りに発達をとげた。よく笑い、目が合い、絵本を好んだ。ニッサン、SONY、ロイズ、2語文を話す前にたくさんのロゴや看板が読めるようになった。

      • 組織の良心

        春は人事異動の季節だ。 今まで気持ちよく助け合ってきた同僚や慕っていた上司、優しくしてくれた先輩がいなくなるのは、想定していたこととはいえ寂しい。 組織の良心を欠くことが、寂しくて少し不安だ。 若い頃は、仕事ができる人ばかりで組織が成り立つといいのに、なんて不遜なことを考えていた。しかし、組織は仕事ができる人ばかりでは、うまく回らない。思いやりのある人、優しい人がいるから、立場の弱い人が守られ、職場が居心地の良い、支え合える場所になったりする。 仕事ができる人や上に立

        • 子育て回顧録1 生まれる前のこと

          息子の陽(はる:仮名)は、もうすぐ高校を卒業する。 最近は、私よりいいやつだったり、努力家だったりして、勝手にすくすくと育っている。 修学旅行から帰って来たら「楽しかった。一緒に過ごしてくれた友達にも感謝する。お金出してくれてありがとう。」なんて言う。 こんな親なのに、こちらこそありがとう。 陽を育てるのは、大変でとても楽しかった。 もう少し手がかかるけど、彼を育てた記憶が古くならないうちに、文章にしておこうと考えた。 陽が30歳になったら、もしくは私が不治の病に罹った

        メロスの恋人

          往復書簡

          美希へ こちらは菜の花の時期が終わり、もうすぐ桜がほころびそうです。 菜の花なんて、花屋かスーパーでしかみたことないよね。 北海道は福寿草やムスカリが咲いて、その後、コブシ、水仙、蝦夷ヤマザクラの順だったかな。 寒さで空気が澄んでいて、朝日を浴びた日高山脈が通勤する美希の背中を押しているだろうと思っています。 こちらに来ると、山を見ることがあんまりなくて、さみしいです。 山頂に雪があって、峰を際立てているような山が見たい。日高山脈が恋しい。白樺と青空、真っ直ぐに続く道路も

          ナーバスな横顔に関する考察

          大事な何かに臨む人の佇まいが好きだ。 張り詰めているけど、それを外には出さないようにしている。 ここにはいるけど、頭や心はここと違うところにある。 ナーバスなその様子が好きだ。 家庭訪問に向かうベテラン理学療法士 試合に臨む野球部員 フルコンタクトの試合前の選手 入学試験前の子ども ライブステージに行くアーティスト ペナルティボックスの中のアイスホッケープレイヤー 私と初めてデートする人 プレッシャーの大きいミッションへ波長合わせをしている姿に魅かれる。 針の穴ほどの

          ナーバスな横顔に関する考察

          目標の呪縛

          以前住んでいたまちで教育委員をしていたことがある。 教育委員は、教育委員会の構成員。首長から独立した教育行政を指揮監督する。レイマンコントロール(住民による意思決定)の役割を担う。任用は、地方議会の場で決まる。 と、文科省の文書を引用すると、どうも難しくなる。要は、まちの学校運営と教育行政をよく確認し、住民として意見を述べる係である。 委員の属性は様々だが、私は、まちの南部の小学校(特別支援学級)に通う児童の母親で、保健福祉に従事しているという立場で選ばれたようだった。

          目標の呪縛

          琥珀

          琥珀のネックレスが君の胸元で光る。細いゴールドのチェーンは長くて、胸骨中央辺りに細長い琥珀が揺れている。 アイボリーのブラウスとベージュのカーディガン、琥珀のネックレスは、君によく似合う。 前に僕のカーディガンを褒めてくれたことがあった。 「白いカーディガンが似合う人はなかなかいないのよ。ノーブルな雰囲気がないと似合わないから。」って。けど、ノーブルなのは君だよ。こんな時でも綺麗だなって思ってる。 琥珀は樹脂の化石だ。数千万年前とか数億年前の葉や虫が混入したものもあるそう

          日曜日のふたり

           俊は悠の近くを通りながらパソコンをのぞきこみ「俺ならもっと性の素晴らしさを伝えたいね」と言った。  明日は、悠が養護教諭になってから初めての性教育の授業だ。高校ではクラミジア感染症が少しずつ蔓延しているようだった。だから、性感染症の症状や予防法に多くの時間を割いてプレゼン資料を作った。  教頭や生活指導の山形先生は、若い悠が高校生に初めて性教育することで、生徒を逆に刺激する、授業が成立せず悠が傷つくと心配しているようだが、校長がやってみなさいと背中を押してくれた。  授業

          日曜日のふたり

          月を見る人

          桜庭一樹さんは著書で 「私の身の回りでも空を見る人、旅をする人は、人の死というものに一度深く触れた経験をしていることが多いようだ」と言った。 老人ホームに10年ほど勤務していたため、家族の別れを見ることが多かった。 Aさんは、入居の際に妻子と別れた。 そして、入居後長年介護してくれていた妻を病気で亡くした。 夫婦を対面させてやりたいと息子と弟が相談してくれた。 車椅子でなければ自宅に戻れないAさんを介助させてもらった。 Aさんは自宅をすっかり忘れていたが、妻の顔を見ると嗚

          月を見る人

          ガソリンスタンドにて

           いつも行くガソリンスタンドは、通っているヨガスタジオから近く、洗車機もあるから便利だ。そこの裏には、ラブホテルがある。ラブホテルの駐車場は、ガソリンスタンド側にあって、屋根も囲いもない。だから、勝手にハラハラする。もうちょっと見えない配置に設計できなかったのだろうか。ラブホテルより後にガソリンスタンドができて、こんなことになったのかもしれない。  今日、ガソリンスタンドに行くと、その駐車場で20代後半から30代くらいの感じのいい男女が立ち話をしていた。2人ともスマホを手に

          ガソリンスタンドにて