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詩『チタニウムホワイト』

きょうの大地が揺らいで、足元から死んでいった。供えられた花束は枯れてゆく。そこからまた明日のつむじが生まれる。かぜは頬を叩いて、時間の水紋を皮膚と皮膚の歪みのなかに確認する。はるに埋めてきた産毛が芽を出して、なつの背中をくすぐる。まだおとなじゃない、でもこどもでもない、誰でもはじめからおとなだったわけじゃない。青いペンキの剥げたブランコが行ったり来たり。入道雲みたいにふくらんできた胸。甘酸っぱほろ苦いマーマレードジャムみたいな味がする。ママの下着は何度も、何度も、洗いすぎて、草臥れた幸福論みたい。漂白剤が嗤っている。思想のチタニウムホワイト買いなよって、パパが言ってたよ。琥珀色した笑顔をちょっと抽出してちょうだい。グレーズ法、何層も油絵の具を重ねていって、ときどき削りとって、素敵なマチエールを発見したい。

ある日、冷えた寝床の中で、愛犬が硬くなっていた。きのうまで温かかったのに、もう温度は響いてこない。大好きな花を添えて、火葬する。燃えた、燃えて、燃えたなら。動植物のいのちは、短距離走だ。花は炭になって、崩れて、愛犬は美しい骨の星座になった。つなぐ、骨と骨を線で繋いでゆく。ひかる、つないだ骨と骨が発光する。想ひ出の爪痕をのこすために、真昼の海を泳ぐ碇になれ。死んでゆくもの、遺されるもの、いのちは巡ってゆく。いつか死ぬのに、いつか涸れるのに、いつか失うのに、みずをやる、時間をかけて育む、目を閉じて瞼の裏で祈る、小指と小指をつないで誓う。死んだ、死んで、死んだなら。それでも生きてゆく。手足の力がどんどんよわくなっていって、汗がじわり、じわり、皺に食いこんでゆく。ある夏の昼下がりのおはなし。

いずれママが死んで
いずれパパも死んで
それでも地球は廻る

いつかわたし、も骨になる
いつかだれでも、骨になる
うつくしいホワイトに還る

*チタニウムホワイト: 油絵の具の白の中で「もっとも強い白」のこと。 酸化チタンを原料としており、化学的に安定していて、亀裂や剥落の心配がほとんどありません。 下の層を見えなくしてしまうほどの隠蔽力があり、色はやや黄味を帯びています。 混色で使用する際には、少量を混ぜながら少しずつ練り合わせていく必要があります。




photo1:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、いくみんさん)
photo2、3:Unsplash
design:未来の味蕾
word:未来の味蕾

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