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人口で語る世界史(著:ポール・モーランド)【読書紹介は爆発的に増加して本棚も増加する。だがしかしついには減少「いや、本棚はいっぱいです」】

人口に関する知識本。
意識高い系に向けて、こういう知識本がいつからか、
流行っています。

こんなのとか。

こんなのとか。

こんなのとか。


これもその系譜の本ですね。

***

元来、マルサスの人口論という本がありまして、

食料生産の増加のスピードよりも、
人口が増える速度の方が速いので、
人口は飢餓線まで増え切ったあげく、
最低限度の生活を送る貧民のレベルで、
人口は固定される。

それ以上に増えるなら、
飢餓と疫病と戦争によって人口が減少し、
経るとまた食料が増え、人口が増える、

それを繰り返すだけだ。
という主張がありました。
一見すると正当な論理ですが、

皮肉にもこのマルサスの時代に、
人類はこの「マルサスの罠」から脱出して、
まったく新しい人口動態を示すようになりました。

***

まずアングロサクソンから始まり、
それをドイツとアメリカとロシアが猛追し、
やがて世界中に広まった徴候。

少子高齢化の話題がつとに出てくる今日の日本においては、
知らざる者とてない常識ではありますが、

産業革命によって子どもが死ななくなり、
年寄りが死ななくなり、
多産多死の世界から多産少子の世界へ。

そこから少産少死の世界になるものの、
老人たちが死ななくなるので平均寿命は伸びて、
ついには少子化の波が訪れるも、
また少子化と言っても前世代に生まれた基礎人口が多いため、
まだ爆発的な勢いで人口増大して、

しかしついに高齢者ばかりになって、
人口が減り始めてえらいことになるという、
一連の人口動態の話です。

そんなん知ってるよ。
と言われる皆さんが大半だと思いますが、
それをもうちょっと詳しく本にしたもの。

****

マルサスの人口論が出版されたまさにその時、
大英帝国は皮肉にもマルサスの罠から抜け出て、
人口増大のスタートを切っていました。
その後に増えすぎた人口をアメリカやカナダ、オーストラリアとニュージーランドに吐き出しつつも、本国の人口だけで4倍に増えた大英帝国は、
「アングロサクソンは世界の支配者になる運命をもって生まれた」
と感じていましたが、それはひとえに人口増大のせいだったんですね。

やがてイギリスが少子化になっていき首が回らなくなってくると、
(これを人口転換と言います)
対照的にドイツやアメリカが伸びていきました。
フランスはあまりうまくいかず、
ドイツとの人口差は2対1にまで広がり、
「ドイツ人は本質的に増えやすい特徴を持っている」
とまで言われました。
しかしそのドイツもロシアの人口爆発について同じことを言っています。

イギリスは第1次大戦の頃に、
ドイツは第2次大戦のころに少子化のせいで青い顔をするようになりましたが、
ヒトラーがやっきになって赤ん坊を増やそうとしても、
そういった対策はあまりうまくいかず、
一方で人口爆発期のロシアでは、独裁と戦争で何千万人が殺されても、その満ち潮を止めることはできないのでした。
しかしソ連にもついに少子化の時代が訪れ、
労働力の不足に耐えられなくなって帝国が崩壊。

一方その頃アジアでは、言うまでもないですね。

この傾向は結局のところ、全世界で繰り返され、
ただし後に来るものほど、波の高さや激しさが大きいという特徴を持っています。
後になって勃興すればするほど、爆発的な人口増大とその反動としての極端な少子化が起こります。

また人口増大中の場所では、
また経済規模が大きくなるので大国が出現する、のみならず、
戦争やら何やらが起こりやすいという傾向があるようです。

二度の世界大戦はヨーロッパ人の人口増大のピークに発生しましたし、
現在、中東で起きている長い戦争も人口増大でピークに達したからのようです。
しかし中東ですら折り返し点を越え、
現在、人口爆発が起こりつつあるのはサハラ以南アフリカとなっております。
そしてここが最後でして、以降は地球全体でこの波が一巡したという状態になってくるようです。

ただ、アノマリーとして、
第二次大戦後の欧米でなぜかベビーブームが来たという。
これだけが例外。
アメリカでもイギリスでも少子化の時代に入っていたのですが、
なぜか第二次大戦後はベビーブームが来ました。
若者が多くなると、また良くも悪くも社会が騒々しくなります。

それもまた落ち着いてしまい、先進国は軒並み長い停滞の時代に入ったのですが、

ちょっと大戦後のベビーブームだけが謎です。
(日本の戦後ベビーブームはまあ人口転換前だったので、まだ説明しやすいのですが)
ウクライナ戦争の後、ウクライナでベビーブームが来るかどうか。
ちょっと注目しております。

もし来るんなら大戦争の後にベビーブームが来るという法則のようなものが、あるのかもしれません。

そんな感じの専門書。
スキマ時間で教養でも身につけるか。
と思って文庫本のやつをちょっと読んでみました報告。


間違って「入り口で読む世界史」を買ってはいけません。

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