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祖父と過ごした<最後の3日間>

むうです。
前回の続き


病院から自宅療養に切り替えた祖父に会う。
そこにはガリガリに痩せ、小さくなった姿があった。

思わず
「おじいちゃん!」と声をかける。

祖父は私と分かり、顔をしかめた。
やっと私達は会えたのだ。

「持って数日」と聞く。
そんな状態だと知り、母をちょっと憎んだ。

いつだって母は、連絡が遅い。
「心配させないため」というのは分かってはいるが、こんなに変わり果てた祖父と対面することになるとは思いもしなかったから。

戸惑ったが、目の前にいる祖父との時間を大切にしようと我に返る。


「痛い、痛い」と祖父は訴える。
これ以上治療が出来ないため、痛み止めを体に入れるしかないのだ。

スポンジに水を染み込ませた棒で口に中を潤わせてあげること、そしてただただ、傍にいることしか私には出来ない。

出来ない、けど。

98年という長い人生の最後であろう瞬間に立ち会うという、なんとも言葉に表せない感覚というか。とにかく傍にいようと思った。

その後
数日の命とは思えない、
祖父の「命の力」
間近で見ることになる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その日の夜は
祖父の娘、いとこ達が駆けつけた。
家族と最後になるであろう対面だった。

祖父は顔をしかめた表情を見せる。

「俺はもう、長くないんだよ。
 ありがとう。よく来てくれたね。」

そんな声が聞こえてきそうだった。

別れを惜しむ空気感
「お父さん、ありがとう。ありがとう。」の声。

悲しい。
けれど、こんな暖かい別れってあるんだろうか。
祖父は幸せだなと思った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌日、祖父はほとんど話さなくなり、動きも少なくなる。
それでもトイレは自分でしていた。
体を母と起こし、運び、座ってもらう。
自分で用をたす。

私だったらどうだろうか。出来るだろうか。
いろんなことを想う。

自分でやれることはやる。それが祖父だ。
祖父の生きる力に圧倒される。

祖父の手を握る。
「傍にいるからね」そう声を掛ける。

痛みと
残りわずかの命
精一杯生きる祖父と共に
同じ時間を過ごす。


その日の夜、祖父はいつも以上に
痛みと闘っていた。

「痛い、痛い」と体を揺らす。
数時間に何回か、夜中にかけて訴える。

「痛み止めする?」

祖父の合図を確認し、薬を体に入れる。

ー これが最後の夜になるかもしれない ー

くたくたの母に代わり、出来るだけ祖父を見守る。

そして。
祖父はトランス状態だったのか、
突然私に向かって両手を広げる。

「;@:」@;〜」

なにかを言っていた。
<誰か呼んでいるのか?>

私は戸惑いながらも、その胸に飛び込み
祖父とハグをした。

「ありがとう」はまだ早いと思った。
だってお別れじゃないから。

だから
「おじいちゃん、大好きだよ」と言った。


暖かい時間だった。
えんえんと泣いた。
祖父と私の間で、
なにかエネルギーが流れていた。


生と死の狭間に起きた、神秘的な出来事。
あれは祖父からのギフトだったと思う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私が実家に戻った3日後、
祖父の呼吸は細くなってく。

もう祖父の口から言葉は出ない。
動きもない。

なにか出来ること、最後は音楽だと思った。
祖父の好きだった曲を思い出し流した。
好きなものを、持っていって欲しいと思った。
届いているといいな。

祖父の呼吸が落ち着いて、
母と私は軽く食事を取るため席を外した。


ー 15分位たっただろうか ー
部屋に戻ると、呼吸が止まっている。

「おじいちゃん、死んじゃった」 

祖父の肉体は終わり、魂は天に帰った。


祖父を見て、
私は不思議と悲しいと思わなかった。
きっとそれは、昨晩祖父とのハグで、
祖父の一部は私の中にもあり、傍にいること
感覚的に分かったから。

お葬式でも
懐かしい面々に会い、祖父のために会場に来てくれたのが嬉しくて。
ニヤニヤする私を変に思った人もいたかも知れない。

祖父を送る行事が全てが終わり、想う。
思い出が蘇る。

祖父と出会えてよかった。

一緒に居てくれて、嬉しかった。

祖父の孫でよかった。


ありがとう。


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