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書評集

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歌人・虫追篤によるnote記事の中から、書評・歌集評をピックアップ。
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記事一覧

書評:美しい絵の中で人はあっけなく死んでゆく/石ノ森章太郎『佐武と市捕物控』第1…

石ノ森章太郎。1938年に宮城県に生まれ、1955年に『二級天使』でデビュー、1968年には『佐武と…

虫追篤
1年前
6

書評:繰り返される生老病死|本間秀子『山茶花の家』砂子屋書房/2010.

書評、と銘打ちつつ、書評らしからぬ導入が続くことを許してほしい。 先日、実家の母と話して…

虫追篤
1年前
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書評:いつもどこかが切ない物語|別役実、阿部隆夫『さばくの町のXたんてい』講談社…

先日、近所の書店の古本コーナーでふいにこの本を見つけた。別役実の童話は見つけたら迷わず買…

虫追篤
2年前
5

書評:予見的SF、あるいは変わらぬ人類|小松左京『見知らぬ明日』ハルキ文庫/1998.

体調が少しだけマシになったので、土曜日は久々に長編小説を読んだ。「読もう!」と意気込んで…

虫追篤
2年前
4

書評:巧みに描かれる「あり得べからざる京都」|綾辻行人『深泥丘奇談』『深泥丘奇談…

「館シリーズ」で名高い「新本格ミステリ」の大御所、綾辻行人による怪談小説集『深泥丘奇談』…

虫追篤
2年前
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書評:異邦人が味わう宙ぶらりんの快楽|綾辻行人『深泥丘奇談』角川文庫/2014.

「館シリーズ」で名高い「新本格ミステリ」の大御所、綾辻行人による怪談小説集。9つの短編が…

虫追篤
2年前
3

書評:「やって来るすべて」を受け入れるかのように|染野太朗『人魚』角川書店/2016.

歌人・染野太朗の第二歌集。染野太朗は、1977年茨城県生まれで、埼玉県に育つ。現在、大阪府在住。2012年、第一歌集『あの日の海』で第18回日本歌人クラブ新人賞を受賞。2018年には、本歌集で第48回福岡市文学賞を受賞。現在、笹井宏之賞の選考委員を務めている。 京都・泥書房のライブラリーにて2時間半ほどかけて読み終える。読んでみて感じたのは次のような感覚だった。 人も物も出来事も「ただやって来るもの」として描かれる遠さと潔さ 口語混じりで、修辞も比較的平易にみえる短歌群

書評:ここから始まったもの、おそらく多数|俵万智『サラダ記念日』河出文庫/1989.

歌人・俵万智の第一歌集。俵万智は、1962年大阪府生まれで、その後福井県で育つ。1985年に連作…

虫追篤
2年前
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書評:どこまでも詩|笹井宏之『ひとさらい』書肆侃侃房/2011.

歌人・笹井宏之の第一歌集。笹井宏之は、1982年佐賀県生まれ。2005年に、連作『数えてゆけば会…

虫追篤
2年前
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書評:昭和十二年のポップ|初山滋『たべるトンちゃん』(復刻版)ほるぷ出版/1976(…

2年ぶりに開催された京都・下鴨納涼古本祭りにて、ふとこんな絵本が目にとまった。 著者の初…

虫追篤
2年前
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書評:かすかな痛みの声をとらえる|星野いのり『疼痛』(『文藝春秋』2021年8月号収…

俳人・星野いのりによる俳句連作『疼痛』が掲載されていると知り、現在発売中の『文藝春秋』20…

虫追篤
2年前
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書評:諧謔、ときどき死|岡野大嗣『サイレンと犀』書肆侃侃房/2014

歌人・岡野大嗣の第一歌集。岡野大嗣は、1980年大阪生まれ。2014年に、連作『選択と削除』で第…

虫追篤
3年前
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書評:近いものを遠くにえがく|九螺ささら『ゆめのほとり鳥』書肆侃侃房/2018

歌人・九螺ささらの第一歌集。九螺ささらは、神奈川県生まれで、2009年より独学で短歌をはじめ…

虫追篤
3年前
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書評:まるでボルヘスのような|中島敦『中島敦全集1』ちくま文庫/1993

教科書で出会う中島敦といえば『山月記』である。私も中島敦の作品はこれしか読んだことがなかった。「真面目な寓話」というイメージ。しかし、以前購入して積みっぱなしになっていた、ちくま文庫の『中島敦全集』第1巻をふと手にとり、そこに収録された、『山月記』も含む4つの短編群『古譚』を読んで、その印象は大きく変わった。 今の私の中島敦への印象は、「怖い」である。 まず、この本の巻末の解題をもとに少しだけ作品の背景を。 中島敦は1909年生まれ、1941年にパラオ南洋庁に国語編修書