粟野光一

趣味の音楽や読書、映画などの話題について、よしなしごとを気まぐれに。

粟野光一

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マガジン

  • Langsamer Satz

    ラングザマー・ザッツ (緩徐楽章)。 音楽にまつわる雑文(雑な文)を、ゆっくり、のんびりと書きます。

  • message in a bottle

    日々の暮らしの中で、 言えなかったこと、言わなかったことが どんどん積もっていく。 その言葉を、伝えたかった相手には届かずとも、 誰か見知らぬ人が受け取り、 何かを感じてくれることがあればと願い、 ボトルメッセージに乗せて流す。 言えなかった、言わなかった言葉の せめてもの供養として。

  • 音盤道楽記

    音盤を聴いた感想、考えたことなどを。

  • 風に乗って

    私の永遠のアイドル、薬師丸ひろ子について書きます。

最近の記事

フライングブラボー(拍手)と私

 私はコンサートでのフライングブラボー、フライング拍手というのが、どうも苦手だ。曲の最後の音が鳴ったあと、響きが消えないうちにブラボーを叫んだり拍手を始めたりする、あれだ。  私は、どんな終わり方をする音楽でも、ホールにまだ音が残っていて、演奏者が立ちずさんでいる間は、音楽の余韻を静けさの中で楽しみたい。いましがた完結した音楽の姿が完全に消えてしまうまで、舞台と客席が一体となり、高い集中力を維持したままその行方を耳と目で追う、それは至高の瞬間だからだ。特に、聴いた音楽に心を

    • 愛しのクラシック・ラジオ・パーソナリティたち

       ラジオを聞くのが好きだ。ラジオで誰かがしゃべっているのが聞こえていると、辛うじて世界とつながっているように思えるからだ。在宅での仕事中、自室に引きこもって一人ぽつねんと作業していても、オンライン会議やチャットがあるとき以外は、何がしかのラジオ番組を流しっぱなしにしている。  だが、リモートワークのお供として、クラシック音楽の番組はほぼ聴かない。聴けないというのが正確かもしれない。つい聴き入ってしまうからだ。オンエアされる音楽のみならず、トークの内容が私の興味を引くものだっ

      • 何かいいこと

         一日の終わり、毎日つけている手帳に「今日の良かったこと」を3つ書き留めるようにしている。どんな些細なことでも、くだらないことでもいい。達成感を得られたこと、嬉しかったこと、良かったと思えることをとにかく箇条書きにするのだ。  さしたる目的も持たず、衝動的にやり始めたのだが、これがなかなか難しい。  1つや2つなら何とかすぐに思いつく。仕事が片付いたとか、食べたものが美味かったとか、散歩で見た景色や、その日に接した音楽や本、映画に心が動いたとか。  しかし、3つ目となる

        • 「学び直し」より「学び重ね」

           とある通信制大学の説明会に参加した。定年後を見据えて、これまでの仕事とは違う分野の「学び直し」をしたいと考えてのことだ。そこで聞いた言葉がやけに胸に響いたので、メモっておく。  大学の方が仰っていたのは、大体こんな感じのこと。 「学び直し」という言葉は、リセットというニュアンスを込めて使われていて、学ぶ人のこれまでのキャリアを否定するみたいで好きじゃない。そうじゃなくて、これまで仕事をして積み重ねてきたものの上に、新たに学ぶんだから、「学び重ね」と呼びたい。  これだ

        フライングブラボー(拍手)と私

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        • Langsamer Satz
          2本
        • message in a bottle
          9本
        • 音盤道楽記
          2本
        • 風に乗って
          2本

        記事

          「一年一組せんせいあのね」鹿島和夫(選)ヨシタケシンスケ(絵) (理論社)

           行きつけの本屋をブラついていたら、画家のヨシタケシンスケ氏が昨年出された絵本「一年一組せんせいあのね」が平積みになっているのに気がつき、慌てて購入した。そんな本が出ていたなんて、まったく知らなかった。知っていたら、真っ先に買っていただろうに。  原著は神戸の元小学校教諭、鹿島和夫先生が書かれた有名な本で、先生が担任をしていた小学一年生との交換日記「あのね帳」の内容をまとめたものだ。「あのね帳」とは、子供たちが「せんせい、あのね」と、日常の出来事や思ったことを語りかけるよう

          「一年一組せんせいあのね」鹿島和夫(選)ヨシタケシンスケ(絵) (理論社)

          「楽しく働く」より「機嫌よく働く」

           楽しく働けたらいいなと思う。仕事が楽しくて仕方がない、仕事の続きがしたくてたまらなくて、早く明日になってほしいと願いながら眠りに就く、そんな日々を過ごせたらどんなにいいだろう。  でも、現実はそうはいかない。嫌な仕事、気が進まない仕事、やりたくない仕事はどうしてもある。あんな奴と一緒には働きたくないと思うことだってある。自分がどんなに頑張っていても、会社の経済状況が芳しくなかったり、自分の成果や努力を評価してもらえないと感じたりすれば、楽しい気持ちも失せてしまう。  好

          「楽しく働く」より「機嫌よく働く」

          オカンブレイク ~ 良い言い換えと悪い言い換え

           永田町界隈では、妙な言い換えが流行しているようだ。  政策集団、還付(還流)金、留保・・・。  政治家がこの類の言葉遊びをするのは昔から変わらない。あの人たちは、自分に都合の悪いことを無難な言葉に希釈して問題点を矮小化し、国民の目を逸らさせようとする。  もしかすると、そういう技術を持つことは、政治家になるための必要条件なのだろうか。政治家の求人広告には必須スキルとして「言い換え」が挙げられるに違いない。  因みに、私はまったく褒めていない。巷では語彙力ブームだが、

          オカンブレイク ~ 良い言い換えと悪い言い換え

          音楽エッセイの居場所

           映画「PERFECT DAYS」に感化され、幸田文のエッセイ集「木」を読んでいる。  幸田の遺著となった「木」は、えぞ松、藤、けやき、杉などさまざまな木を題材とした文を集めたものである。木そのものだけでなく、木に触れた著者の心の動きとそれに突き動かされた行動、そして、木と共に生きる人たちの姿が濃やかに描かれている。  どのエッセイでも、専門用語はほとんど使われていない。徹頭徹尾、私たちの日常的な暮らしから生まれたような平易な言葉で書かれたものばかりだ。  しかし、幸田

          音楽エッセイの居場所

          I'm in a Billy Joel State of Mind - ビリー・ジョエル来日公演(2024.1.24)と新曲"Turn the Lights Back On"

           先日放映されたBS朝日のTV番組「ベストヒットUSA」、ビリー・ジョエル特集を見ていたら、去る1月に東京ドームでおこなわれた16年ぶり、一夜限りのコンサートのダイジェスト映像が流れた。しかも、YouTubeで数多くUpされている客席撮りではなく、正真正銘プロショットの映像!たった数分の抜粋なのが残念だったが、贅沢は言うまい。  私も、あの日、東京ドームのアリーナ席にいた。ライヴを聴いた感想を書こうと何度もトライしてきたのだが、何しろ16年ぶりに接するビリーのライヴだ。想

          I'm in a Billy Joel State of Mind - ビリー・ジョエル来日公演(2024.1.24)と新曲"Turn the Lights Back On"

          【演奏会 感想】アリス・アデール ~ フレンチ・プログラム(2024.2.17 武蔵野市民文化会館)

             武蔵野市民文化会館から最寄り駅(といっても結構歩くのだけれど)の三鷹までを結ぶまっすぐな道は、「かたらいの道」と名づけられている。誰がつけたか知らないが、いい名前だと思う。  素晴らしかった(またはつまらなかった)演奏会の帰り、感想を誰かとあれこれかたらいながら家路に着く。それは音楽好きにとっては、素敵な時間だ。  でも、かたらう相手は他人である必要はない。自分でもいい。演奏会の余韻を一人で反芻し、いましがた聴いた音楽が何なのか、自分の中でどんな変化が起きたのかと

          【演奏会 感想】アリス・アデール ~ フレンチ・プログラム(2024.2.17 武蔵野市民文化会館)

          【演奏会 感想】アリス・アデール ~「フーガの技法」(2024.2.12 武蔵野市民文化会館)

           かねてから実演を聴きたいと切望していた名ピアニスト、アリス・アデールが初めて来日している。その初日、バッハの「フーガの技法」だけを弾くリサイタルを武蔵野市民文化会館で聴いた。  私の耳に狂いはなかった。  いや、私の審美眼のことを言っているのではない。もう10年以上前、アデールが弾く「フーガの技法」のCDを初めて聴いたとき、私の中に生まれた直観が当たった、ということだ。  その直観とは、アリス・アデールという音楽家が、私にとってかけがえのない存在であり、一生聴き続けて

          【演奏会 感想】アリス・アデール ~「フーガの技法」(2024.2.12 武蔵野市民文化会館)

          Alone again, naturally

           金曜日の昼下がり。行きつけの公園は、たくさんの小学生たちに占領されていた。すぐそばの施設に見学で来たのだろう。子どもたちは芝生の上で数人のグループずつに分かれ、おしゃべりしながら楽しそうに弁当を食べていた。  微笑ましい光景を見渡していると、集団の輪から少し離れ、歩行路のすぐ脇にシートを広げて一人で座っている少年がいることに気がついた。他の子とほんのちょっと離れているだけで、完全に孤立している訳ではないのだが、周囲の誰も彼を気にかける様子もないし、彼も特段さみしそうにも見

          Alone again, naturally

          2023年のクリスマスに聴くビリー・ジョエル ~ 「クリスマス・イン・ファルージャ」(2007)

           クリスマス・イブだ。  無宗教の私には何の変わり映えもしない日曜日 (昼間、イリーナ・メジューエワさんの素晴らしいコンサートを聴いたのだけれど)だが、昨日聴いた音楽が頭から離れず、神妙な気分で聖夜を迎えている。  私が聴いたのは、ビリー・ジョエルの「クリスマス・イン・ファルージャ Christmas In Fallujah」という曲。2007年にキャス・ディオンという歌手のために書いたそうだが、翌年のオーストラリア・ツアー時にビリー自身が歌ったライヴ録音が日本で初めてC

          2023年のクリスマスに聴くビリー・ジョエル ~ 「クリスマス・イン・ファルージャ」(2007)

          【ライヴ 感想】薬師丸ひろ子 Concert Tour 2023 ~愛しい人~ 東京公演(2023/10/26,27 東京国際フォーラムA)

             先日、某所で薔薇を見てきた。手入れの行き届いた英国式庭園では、赤、オレンジ、黄色、紫など色とりどりの薔薇たちが競うように咲き誇っていた。  薔薇の中には、名前がつけられたものもあり、ドイツの作家ノヴァーリス(「青い花」に因んで)や、元モナコ王妃グレース・ケリーなどの名を記したプレートが目に入った。  私なら薔薇に誰の名前をつけるだろうかと考えた。  薬師丸ひろ子の名前が即座に浮かんだ。10月末、東京国際フォーラムで彼女のコンサートを聴いたとき、オレンジのドレスを

          【ライヴ 感想】薬師丸ひろ子 Concert Tour 2023 ~愛しい人~ 東京公演(2023/10/26,27 東京国際フォーラムA)

          女神の背中 (薬師丸ひろ子 2022ツアー)

           9月から始まった薬師丸ひろ子の2023年ツアー「愛しい人」、東京公演が今週末に迫ってきた。幸運にも2日ともチケットを入手できたので、「ライヴはこれが最初じゃないのに 夢が震える」などと、年甲斐もなく期待に胸を膨らませているのだが、よく考えたら、昨年のツアーでの感想を全然書いていなかった。どうしても忘れたくない光景があったので、今年のライヴで舞い上がってしまう前に書き留めておきたい。  それは東京公演初日(2022/10/19)のことだったと思う。セットリストを歌い終え、ア

          女神の背中 (薬師丸ひろ子 2022ツアー)

          そうか、君はもういないのか ~ レコ芸のない世界を生きて ~

           レコード芸術が「休刊」して、はや3カ月。毎月20日だった発売日は既に4回を数え、今や「月命日」となった。  私はレコ芸のない世界を生きている。休刊で何か変わったかと言われれば、想定していた通り、さほど大きな変化はない。CDは相変わらず購入し続けている。  しかし、城山三郎の小説じゃないが、「そうか、君はもういないのか」と思うことは、やっぱりある。例えば、ふと手が空いてレコ芸の未読記事を読もうとしたり、気になった批評を読み返そうとしたり、あるいは、購入して聴いたCDが専門

          そうか、君はもういないのか ~ レコ芸のない世界を生きて ~