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矢寺圭太 『ぽんこつポン子』 第5巻 : 異星人とロボットと記憶

書評:矢寺圭太『ぽんこつポン子』第5巻(ビッグコミックス)

本巻では、ポン子の「いかにもロボット」という言動が目立った。
「恋とは、脳内物質の異常分泌状態」であるという脳科学的な解説(P29)や、「夫婦の営み」(P115)云々といった身も蓋もない解説、あるいは「(そのご意見は)科学的じゃありませんね」(P53)、「(そのご意見は)とても非科学的です」(P115)といったセリフである。

しかし、こうした言葉には既視感があった。
そうだ。『スター・トレック(宇宙大作戦)』に登場する、エンタープライズ号の副館長、耳が尖ったバルカン(星)人のスポックである。

バルカン人は、とても知的なヒューマノイドであり『感情的な反応を強力な自制心で押さえ込むことを、強い思想的信条(宗教的戒律?)としており、論理的であることを尊ぶ』(Wikipedia)という性格を持っている。
一方、エンタープライズ号の館長カークは、しばしば直観的な行動家であり、情の濃い世馴れた人間なので、スポックとはその考え方の違いにおいて対立することがある。そんな場合にスポックの口にするセリフが「その意見は、非論理的ですね」なのだ。

つまり、スポックは極めて誠実な人なのだが、ややもすると人情味に欠けるところがあった。しかしそれは、彼がじつは、バルカン人の父と地球人の母のハーフという出自のゆえに、ことさらバルカン人性に強くこだわって育ったからで、そうした彼の弱点は、カークらとの交流とその感化によって、だんだんと矯められ、良い意味で融通のきく性格に練れていったのである。

したがって、彼もまた、決して四角四面で冷たい「ロボット」野郎ではなかった。「宇宙人(異星人)」だから「人間味」が無いというのは偏見であり、彼の中にどのような「心」が内蔵されていたのか、当初、人々はそれに気づくことができなかっただけなのである。

一一そして、われらがポン子だ。

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本巻では、とても興味深い描写があった。ポン子の頭の中のねじが1本はずれてしまい、そのことによって「封印されていた記憶」が部分的に甦り、その記憶によってポン子が涙を流す、というシークエンスだ。

このことからわかるのは、「感情」あるいは「心」というものが、「記憶」から生まれるということであり、ポン子について言えば、ポン子にはもともと「心の素」があったのだが、それが封印されていたという事実だ。
しかしまた、「過去の記憶」を封印したとしても、「記憶=想い出」は日々新たに積み重ねられてゆき、そのことによって「心」も日々新たに生み出されてゆく。

言い変えれば、「心(の豊かさ)」とは、単なる「記憶」ではなく、美しい記憶を愛おしみ、そのような「美しい生」を、自らもまた生きようとすること、なのではないだろうか。
本巻には、そうしたことが語られていたように思う。

初出:2020年6月18日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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