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創作あれこれ

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創作(オリジナル)あれこれを載せていきます。
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(創作)短編小説

タイトル 「ゆっくりはやく」 「竹之允(たけのすけ)ー!!」 何度呼びかけても起きれない僕を、母さんは怒鳴るように1階から読んでいる。 本当は、何時間も前から起きている。 学校に行きたくないって、どう言ったら伝わるんだろう? 上手く言えない。 いじめられいないけど、なんだか窮屈で呼吸がし辛い場所。 しびれを切らした母さんが、階段を駆け上って来る足音が聞こえる。 ごめん、上手く言えなくて。 僕は、うるう年に生まれた。 2月29日は、4年に1度しかこない。 僕の誕生日は

水中の言葉みたい

子供の頃 プールの底に座って水面を見るのが好きだった プールの底で 仰向けになって水面を見ることも 揺れる水面の光は絶えなくて 希望に満ちた小さい頃 それは沈むことのない太陽のようだった 誰かが水の中に入ってきた たくさんの泡が 水面付近に壁を作る 音は聞こえるけど はっきり聞こえない 何を言っているのか 分からない それが時々怖くて 時々楽しい 水中で会話をしようとしても 言葉は泡と化す 全てが水に揺れて はっきり見えなくて それでも 見えるものは見えていた もしキ

黒白

あの時から、本来の自分の色でなくなっている。 いつか反旗を翻す。 その時をただ静かに待つ。 そう、静かに待つつもりだった。 それでも偽る自分はつらいものである。 本当は、この色でいたくない。 何に負けてしまったんだろう。 規則に従っただけだ。 周りだって、それが”普通”だと見ていたじゃないか。 パタパタと反旗を翻す仲間が周りに目立つようになる。 まだ自分の番はこないのか。 勝ったら、元の色に戻れたら、どう思うんだろう。 開始早々、色を変えられてしまった。 あれから随

記録と記憶①(創作)

完全オリジナルの創作、短編小説です。 字数指定(2万字以上〜14万字)があるので、いつもの記事より長いです。 目次 プロローグ もし特別な人と出会えたなら、それを逃しちゃいけないよ。 特別なことは、何度も何度も与えてもらえないから。 いつもしっかり見て、しっかり聞くんだよ。 普段から忘れなければ、必ずその時が分かるから。 大事なことは、特別なことを何度も与えてもらえると思っちゃいけないってことだよ。 1.真っ白な高校生活の始まり 朝比奈江之介は、今年から高校生。

モラトリアム

そこに踏み入る勇気がなかった ぐずぐずしていたら 違う路を歩くことになってしまった もう君の顔は思い出せない 1番後ろ 1番窓側の席 人気のある席だけど 逃げ場のないところ 夏というには、まだ早く 春というには、もう遅い チャイムが鳴る中 まだまだ眠い目をこする  しばらくしてから 君は颯爽と現れた クーラーをつけるには、まだ早いかなって言いながら 窓に向かう ゆっくりでもなく早くもない 背が高いから 歩幅が大きい方だったのかもしれない わずかな間 その独り言のよう

『月はキレイかもしれないね』⑤(創作小説)

5.アオ たまに、アオという名前がカタカナであることを不思議がる人がいる。 俺の名前はアオだけど、色じゃないんだ。 両親がハワイに旅行しに行った時、ハワイの歴史にハマったそうだ。 それから、旅行を通して現地で知り合った新しい友達。 彼らが好きだと言ったハワイ語の単語の1つがアオ。 これは光とか夜明け、世界を意味するそうだ。 俺自身はハワイに行ったことがない。 なんとなくいつもクラスの中心にいるタイプだった。 目立とうとしなくても、目立った。 高校生になってから、バスケ部に

『月はキレイかもしれないね』④(創作小説)

↑の続き。 4.ルイ 僕の名前は、おじいちゃんの友達が名付けたと言っていた。 色んな理由から、ルイが残ったらしい。 フランスの王様のようになるか、漢字一字で表すものにするか迷ったらしい。 栄えるものは必ず滅びに向かうから、そういう理由でおじいちゃんは 漢字一字で表す方を選んだらしい。 また聞きのような話になってしまっているのは、 小学生になってからすぐ、おじいちゃんは死んでしまったからだ。 ショックで言葉も出なかったあの夜を覚えている。 今も明確な理由はわからない。 あの

『月はキレイかもしれないね』②(創作小説)

↑の続き。 2.カイル カイル。 この名前は、祖父がつけたんだ。 物心着く頃には、いつも島酒ばかり飲んで酔っ払っていたイメージ。 寡黙というか、置物なんじゃないかと小さい頃は思っていた。 食べるものといったら刺身ばかり。 しかも多分、同じ種類の魚ばかり食べていた。 「カイル。」 たまに、俺を呼ぶその声はかすれていた。 近づくと嬉しそうにしていたんだ。 「カイルはな、海峡って意味があるんだ。小さな島と島をくっつける。 お前は人だから、人と人をくっつける。帰る場所にも困

『月はキレイかもしれないね』③(創作小説)

↑続き 3.ユーゴ 自分は周りと違うかもしれない。 そういうことに気付くのは、自分を意識出来るようになってからだ。 僕の親はとにかく忙しかった。 両親とも働いていて、母さんは僕を生む時のためだけに実家に帰った。 この実家というのが、フランスにある。 おばあちゃんがフランス人だから。 お母さんは、大学生の途中までフランスにいたそうだ。 どういう経緯で知り合ったのかきくと、いつも途中で誤魔化されてしまうけど、父さんと大学の途中で知り合ってからは日本で暮らしているらしい。

『月はキレイかもしれないね』①(創作小説)

前回予告(?)した通り、今回から創作短編小説を書いていきます。 タイトルはテキトーに付けました。 今後、変えるかもしれない。 元々は前回の記事に書いた通り「月がキレイですね。」を使いたかったので。 1.はじまり 「カイル、もっと音を大きくしてよ。」 車内にはblink-182のFirst Dateがかかってる。 助手席に座るカイルに頼んだのは、ルイ。 後ろの席で曲に合わせて一緒に歌いながら、外を見ているのはユーゴ。 運転しているのは、アオ。 夏休みが始まってから1週間。