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老後、生きることが限りなく愛おしく感じられる本

老後、生きることが限りなく愛おしく感じられる本

世の中の雑然とした苦海に咲いた希望の花のように、
読み手の心を鷲掴みにして、
日々の生活を豊かにしてくれる贈り物(本)。
濁りきった高齢男子の目に涙。
たまには目を洗って出直したい。
泣く子は育つ。
泣く年寄りは、長生きをする。
それでは、涙なしには読むことが出来ない本、
ベストテンを勝手に発表。
周囲に言わせると、あんたはつまらないことにすぐ感動するらしい。
「安ぽい涙」を流しているじいさんとも。
何とでも言いなさい。
うるうるして感動したほうが勝ち。
感動と涙は人生を豊かにする。

1.庄野潤三「夕べの雲」


じゃじゃーあん、どうどうの第1位、庄野潤三「夕べの雲」です。
「主人公は決して自己主張せず、むしろ状況を照らしだす。」この庄野潤三の作品書評では至言である。自己主張しないことが、かえって読者の共感を得ていることが興味深い。
自己主張をすればするほど、自分が苦しむ世界が現代。「夕べの雲」の家族は、生きていることをまるごと享受している。家族一人ひとりが、ささやかな小さな幸福を持ち寄って泣いたり笑ったり、当たり前の幸せの光景が、心に響く。懐かしい気持ちが心の中に湧き出て、温かい気持ちにさせてくれる。何度読んでも、感動が褪せることがない。稀有な家族小説。図書館で読もう。

2.モンゴメリー「赤毛のアンシリーズ」

泣きたくなったら、読みたくなる本だ。シリーズ全部素晴らしい。しかし、やっぱり一番は、最初の「赤毛のアン」だろう。結婚期を逃した、中年姉弟と孤児院から引き取られたアンとの日々が、1日1日の生活を宝石に変えていく。清貧の生活だが、自尊心を失うことなく、清く正しく生きている老姉弟の、アンを見つめる温かい目が心に沁みる。。身寄りのない孤児のアンの成長物語。子供の読み物と思っている人がいたら、なんと愚しく残念なことか。これを読まない人生なんか、考えられない。アンを無条件で受け入れるマシューが好きだ。あなたも、きっとマシューの心に触れて、涙を流すこと請け合いだ。
図書館の児童コーナーにある。

3.大草原の家シリーズ

実話と言うことらしい。
アメリカ西部開拓物語。
一家5人の家族の物語。
生きるとは何か、読後考えさせられる物語。
毎日毎日不幸ばかり続く生活でも、笑顔を失わないお母さん、バイオリンを引いたり歌ったり、いつも明るくしてくれるお父さん。
仲良し二人の姉妹、そして主人公のローラ。
家族とは、友情とは、信仰とは、生活とは、人生の疑問の答えが全部この物語の中にある。
タオルと洗面器は、必携の物語。
紹介文を書いているだけで、泣けてきた。
パブロフの条件反射である。
なお僭越だが、翻訳に母親をローラの母親を「母さん」と「母ちゃん」呼ぶ二種類があるが、わたくしは「母さん」派である。
図書館の児童書コーナーで借りよう。

4.長谷川四郎「シベリア物語」

第二次世界大戦後、満州で拘束された青年男性は、シベリアで抑留され強制労働をに従事した。このシベリアでの生活記録文学。
シベリアでの強制労働に関連して戦後数多くの記録が残されたが、この物語には唯一ロシア人への悪口や憎悪が見られない。
長谷川四郎という作家の人間愛がどこまでも美しい。
自分の過酷な状況に対しても、まるで他人事のように振る舞う。
また人間を見る観察力に贔屓が少しもない。日本人も人間なら、
ロシア人も人間、同じ人間なら違いより共通点が多いだろうと楽観的に物事を見る目がなんとも素晴らしい。
収容所生活を通して、自分の出来るうる限りの勉強を続けた長谷川四郎の教養の高さに敬意を感じないわけには行かない。
ちくま文庫。

5.壺井栄「母のない子と子のない母」

自分の流した涙が、清流のように感じたいなら、壺井栄の著作を読むべし。
「二十四の瞳」が有名だが、その他の短編集が実に良い。
長編小説が苦手な人必見。
児童書として有名だが、児童にだけ読ませるのはもったいない。
題名通りの話である。
題名だけで、なんとなく泣けてくる。
文章は、飾りがなくあっさりとしていて平明である、
その無駄のない文章が、実に心にしみる。
青空文庫にてネットでただで読める。つまり、ただで涙を流すことが出来るのである。

6.木山捷平「軽石」


数ある散歩小説の白眉。
起承転結は4コマ漫画。
軽妙洒脱な捷平さんの足取りは風に吹かれてふーらふら。
読後、あなたはすぐ散歩に出かけるはず、ちょっと心わくわくさせて。
これは、笑った時目尻から出る涙小説。
公立図書館にあるはず。講談社文芸文庫にもあったような。でも高かった!一度木山捷平の作品に触れると、虜になってしまう、捷平さん中毒間違いなし。

7.千葉省三「とらちゃん日記」

千葉省三という作家を知っている人は稀だろう。
埼玉の田舎の少年時代を描いた作品。
ずっとずっと昔の少年の生活日記だ。
ノスタルジー満載。
本当に小学生が書いたように素朴で平明な文章。
飾りのない文章の中に、ほのぼのとした昔の日本人の姿が見える。
子供の姿が、鮮やかに書き残されている。
懐かしい、いつか自分自身も体験したような錯覚に陥る。
懐かしさで目頭が熱くなる。
公立図書館で読める。
千葉省三の童話全集が欲しかったら、メルカリで安く購入できる。

8.チャールズ・ラム「随想録」

思い出とはなにか、この本を読むと、思い出をいかに大切にして人は生きているのかと思う。
不出世の大随筆家チャールズ・ラムの随筆に出てくる人々は、善人ばかりだ。
滋味深い逸話が心を揺する。
男子はいかに生きるべきか教えられる。
ワーズワースとの友情も良い。
寝る前に読むことをお勧めする。
ぐっすり眠れて、夜中に何度もトイレに行かなくて良いかも。
ロンドンの街の佇まいが、雰囲気を盛り上げてくれる。
これも古典だから、図書館で読むしかない。

9.ジョージ・オーエル「評論集」

今の評論家の話を聞いていると、いい加減なことばかり言って、責任を感じることがないのだろうかと訝しい。
オーエルの評論は、勇気を感じる評論だ。
しかも、右とか左とか、一定の思想にとらわれないのが素晴らしい。
オーエルは、人も事件も、人間とはこうだと絶対断言しなかった。
第二次世界大戦後の「オーエル日記」を読むと。
オーエルが普通の生活を大切にしていることがよく分かる。
畑を耕し、樹木を育て、鶏を飼って卵を収穫する、そんな生活の合間に、「1984年」やら「動物農場」の傑作を書いたのだった。
彼は亡くなるまで庶民の中で暮らした。
生活に根ざした評論は現在でも異彩を放っている。
泣くのを我慢した後に読むと、泣けば良かったと後悔するはず。
青空文庫で読める。
ジョージ・オーエルの個人訳を公開している人がいる。
すごい人だ。
多彩な能力を発揮している。
http://blog.livedoor.jp/blackcode/archives/Orwell-essays.html
「評論集」すぐ読める。
ただし横書き。

10. 須賀敦子「トリエステの坂道」

イタリア人の夫を亡くして失意の中、夫と一緒に行くはずだった、トリエステのサバ書店を一人で訪ねる旅行記。
妻や家族と喧嘩をして、切なくなった時、ちょっと読んでみて欲しい。
人は最愛の人を亡くしても、生きていくしかない。
トリエステの街で、須賀敦子はその決断をする。
狭い曲がりくねった路地をひた歩きながら、彼女の決断は浄化されていくようだ。
須賀敦子のエッセーは、人を励ますオーラに満ちている。
嫌なことがあったら、泣きながら、是非読んで欲しい。
これは古本ですぐ購入できる。
読んでいる人が多いようだ。

番外編

小山清「落穂拾い」

「仄聞(そくぶん)するところによると」で始まる話は、質素な暮らしを愛しむ者同士の人情の機微に触れる日記である。
健気に働く古本屋の若き女性店主と無名の作家との会話が温かい。
何度も何度も読みたくなる不思議な味わいのある作品。
青空文庫ですぐ読める。

山本周五郎「青べか物語」

今の浦安市が舞台、東京ディズニーランドが出来るはるか昔の浦安風景が蘇る。
新潮文庫の本の紹介には、
「根戸川の下流にある浦粕という漁師町を訪れた私は、沖の百万坪と呼ばれる風景が気に入り、このうらぶれた町に住み着く。言葉巧みにボロ舟「青べか」を買わされ、やがて“蒸気河岸の先生”と呼ばれ、親しまれる。貧しく素朴だが、常識外れの狡猾さと愉快さを併せ持つ人々。その豊かな日々を、巧妙な筆致で描く自伝的小説の傑作」とある。
人間とはなにか、そんな疑問に向き合いたくなる庶民のたくましい生活が生き生きと感じられて、読後胸を張ってあるきたくなるような小説。
山本周五郎に駄作はない!
青空文庫にあったような気がする。

感動を深めるには、やっぱり紙の本だ。
理由はない、ただ実際紙の本で読むと違いが分かる。
料理のサンプルはきれいで見た感じは良いけれど、やっぱり本物を食べたほうがいい。
あれと同じ感覚。
でも本は結局ゴミになる、残念で悩ましい限り。

旗じいの愛読書は、ちょっと偏っているかもしれない。
だから自信はない。
ただ、埋もれた傑作は、やっぱり可愛そうでならない。

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