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経済を動かす単純な論理 (櫻川 昌哉)

 このところ手にしている経済学の本は、「行動経済学」関係に偏っていたのですが、今回読んでみたのは、マクロ経済学の立場からの概説本です。

 著者の櫻川昌哉氏は、「リスク」と「バブル」という2つのキーワードで、現在の世界経済の動きの基礎を分りやすく説明しています。

 とはいえ、私自身、完全に理解したわけではないので、以下に気になった記述の部分を書きとめておきます。

 まずは、今回の金融危機の理解する基本事項についての著者の解説です。
 今回の金融危機は、未回収リスクを内在したサブプライムローンを含んだ米国生れの金融商品が広く世界中に拡散され、そのリスクが顕在化したことが要因になったと言われています。

(p101より引用) 今回の金融危機を正確に理解するためには、証券化が引き起こした問題バブルが引き起こした問題と、そして証券化とバブルが折り重なることによって生じた問題を、きちんと切り分けて議論する必要があります。・・・
 証券化が引き起こした問題は、証券化を進めたとき、債権管理の主体があいまいになりやすいという点です。証券化の制度設計が甘かったことは否めません。・・・
 バブルが引き起こした問題とは、リスクは測れるという前提に立つ金融工学の世界に、リスクを測ることができないバブルが混入してしまったことです。

 著者の言うように切り分けて考えると、今回の金融危機を引き起こした金融工学商品は、制度設計も甘く、不純物が混入している粗悪商品だったということになるのでしょうか。私は、経済については素人なのでよく分かりませんが、どうもそう思われて仕方ありません。

 また、「バブルが混入してしまった」という言い方ですが、これはちょっと気になります。住宅価格が未来永劫上昇し続けるはずもなく、この住宅バブルも当然リスクの主要因子だったはずです。
 金融工学を縦横無尽に駆使できる優秀な頭脳をもってしても、それを「測ることができない」と開き直られると「???」です。正確に測ることができなくても、ある程度「予測」はできたと思うのが自然でしょう。

 もうひとつの覚えは、著者がいう「バブルの特徴」です。

(p153より引用) 第1は、利子率が成長率より低くなるとき(つまり「利子率<成長率」のとき)、バブルが存在するということです。・・・
 ・・・GDPとバブルは同じ率で成長するということになります。これがバブル経済の持つ第2の特徴です。・・・
 ・・・バブル経済の第3の特徴はすこしショッキングです。バブル経済では、経済全体のバブルの総和が経済成長と同じ率で成長するということです。

 この第3の特徴から、「バブルの代替」という現象が生じます。
 著者によると、現在の日本はまだバブルが持続した状況だというのです。以前の土地資産をベースにしたバブルが、国債や貨幣に姿を変えているのだとの考えです。
 国債というバブルがはじけたときの財政に与える影響を考えるとぞっとします。

 著者は、うまくバブルを収縮されるための方策のひとつに「内需拡大」を挙げ、その具体策として「地方都市の集住」を提案しています。地方都市を集約して、50万都市をたくさんつくってはどうかとの案です。

 このあたりになるとマクロ経済学ベースの発想の限界でしょうか。少々現実離れした内容だと言わざるを得ませんね。



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