安西
死のうと思ったのは十八歳の夏だった。どうしても自分の人生というものが立ち行かなくなって、さまざまな義務を放擲した挙句、私は最後の《逃亡》に手を染めようとしてい…
3. こんな話をしたら怨みを買うかもしれません。でもきわめて重要なことなのです。そう、あなたに言ったことはなかったけれど、横浜に引っこしてくる前のことです。そ…
彼女は、ただ、自らの刹那的な快楽のために俺と交遊していたに過ぎなかった。だからそこには、俺と違って、少年少女なりの激情みたいなものは何もなかったはずだ。 彼…
2. 校舎の裏手にその部室はあった。数年前までどこだかの部が使っていたらしいその部屋は、忘れられた病室のように今も残っている。周囲にはほとんど人気がない。時折…
1. あなたのことが好きなのかどうか、それは今になってもよくわからないままです。そしてそれは、おそらくどれだけの時が経っても、永遠に解けない謎として、わた…
2019年7月19日 00:28
死のうと思ったのは十八歳の夏だった。どうしても自分の人生というものが立ち行かなくなって、さまざまな義務を放擲した挙句、私は最後の《逃亡》に手を染めようとしていた。これで楽になるのだ。これで自分の肉体はきれいさっぱり焼き払われ、自分の骨は海に撒かれて、後にはなにも残らない。驟雨が去った真夏の路上のように、むせ返るような匂いを少しばかり放射して、それで何もかもが終わり。
2019年7月19日 00:21
3. こんな話をしたら怨みを買うかもしれません。でもきわめて重要なことなのです。そう、あなたに言ったことはなかったけれど、横浜に引っこしてくる前のことです。その頃住んでいた町で、わたしはひとりの同級生を愛していました。そしてその同級生もまた、わたしのことを愛していると言いました。両想いだった。もちろん中学生の恋愛なんてものは、もう、ただのおままごとみたいなものですから、大抵は、夕暮れの木陰でぎ
2019年7月18日 00:53
彼女は、ただ、自らの刹那的な快楽のために俺と交遊していたに過ぎなかった。だからそこには、俺と違って、少年少女なりの激情みたいなものは何もなかったはずだ。 彼女にはなにかを積み上げていくというような発想はなかった、というよりもむしろそれを忌避しているような節があった。彼女が自分にとって価値があると認めていたものは、建設されつつあるものを破壊しようとしたり、その瓦礫を徹底的に粉砕してしまおうという
2019年7月17日 00:20
2. 校舎の裏手にその部室はあった。数年前までどこだかの部が使っていたらしいその部屋は、忘れられた病室のように今も残っている。周囲にはほとんど人気がない。時折、ランニングをする生徒が走り抜けるくらいのもので、まず教師が通りかかるような心配はなかった。つまり隠れてなにかをするには格好の場所だった。 梅雨が終わった。しばしの間忘れられていた暑さがまた戻っていた。「今日も首を絞めてほしいの?」と
2019年7月16日 12:13
1. あなたのことが好きなのかどうか、それは今になってもよくわからないままです。そしてそれは、おそらくどれだけの時が経っても、永遠に解けない謎として、わたしのなかにわだかまっていくのだろうと思います。あなたはこれを見てびっくりするかもしれません。まさかこんな時代にこんな手紙が来るだなんて、夢にも思わないでしょうから。もしもあなたから急に手紙をもらったとしたら、わたしだってびっくりするでし