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【フツーの人々(7人目) / ルービックキューブの少年】
少年は小学生だった。おそらく4年か5年か。胸に校章が入った白い半袖シャツとグレーのショートパンツの制服を着ていた。パッと見ただけではあまり特徴のない子だった。色白で短い髪にほっそりとした腕。いかにも都会で育った男の子といった感じだった。もう一度見かけたとしても、ほかの小学生と見分けがつかないだろう。少年は渋谷から乗ってくると、おもむろに立方体の物体を取り出した。
それは、ルービックキューブだ
【フツーの人々(5人目) / カセットテープの男】
夕方の混んでいる電車に、その男は乗って来た。
肌や髪の質から見ておそらく年は50代。ぼろぼろのトートバッグを肩にかけ、気づかう気配は微塵もなくほかの乗客たちですでにいっぱいの車両にグイグイ乗り込んでくる。もちろん、周囲は迷惑そうに男を見るが一向に気にする様子はない。むしろ、「そっちが何で動かないんだよ」とでもいうような視線を投げかけてくる。けれど男とほかの乗客の視線が交わされることはない。
【フツーの人々(4人目) / キックスケーターおじいちゃん】
キックスケーターおじいちゃんは颯爽と現れた。人混みをスイスイと、いやよろよろとかき分けながら。
おじいちゃんは決してきれいとは言えないような身なりだった。大きな樹の下にある、駅前の隅の方のベンチなどで寝転がっていても不思議ではなかった。ベージュのよれたカーゴショートパンツ。薄汚れた(おそらく元々は)白のスポーツソックス。これまたよれた(おそらく)ベレー帽。白のアロハシャツ。カーキ色のタンクト