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ハンセン病の安倍総理謝罪を「同情の論理」で終わらせるな(1)

▼日本経済新聞は、ビジネスのネタ、金儲けのニュースを大きく報道するから、「そのニュースに社会性があるかないか」の価値判断の役には立たない。ただし、現在の1面コラム「春秋」は、たとえば朝日の「天声人語」よりもレベルが高いと思う。

▼あの新聞1面下の「コラム」は日本の新聞の特徴である。もともと「コラム」は「柱」の意味。英文だと、横書きで、紙面のレイアウトとしては縦長の柱のようなレイアウトになるから、「コラム」と呼ばれるようになったそうだ。日本の新聞の場合は、横向きの柱なわけだ。

▼ハンセン病の強制隔離政策で、患者本人のみならず、患者の家族が受けてきた言語に絶する差別と偏見について、2019年6月28日、熊本地裁(遠藤浩太郎裁判長)は国の賠償責任を認める画期的な判決を出した。

その判決に対して、安倍晋三総理大臣は、謝罪し、政府声明を出したのだが、この二つが真正面から矛盾している件について、2019年7月13日付の日本経済新聞「春秋」欄が、その意味をコンパクトにまとめていた。

〈「深く反省し、心からおわび申し上げる」――。ハンセン病の元患者らの家族が受けてきた深刻な差別。その苦難に対する国の賠償責任を認めた熊本地裁判決への控訴を政府は見送り、きのう、謝罪の言葉を盛った安倍首相談話を出した。なかなかできる決断ではない。

▼などと褒めちぎりたいところだが、わび状にはややこしい証文が付いている。判決の問題点をいろいろと指摘した政府声明だ。いわく「偏見差別除去のための行政庁の裁量を極端に狭くとらえている」「国会議員の立法不作為の判断が判例に反する」「消滅時効の起算点を誤っている」。首相談話とともに閣議決定された。

▼はて面妖(めんよう)な。控訴を断念し、深々と頭を下げながら、判決自体はこてんぱんにやっつけているわけである。反省やおわびの「情」を色濃くただよわせつつ、「理」は別にありというダブルスタンダードではないか。判決確定で患者や家族が救われるのはたしかだ。法整備も進むだろう。しかし、引っかかるものは拭(ぬぐ)えない。

▼もともと政府内には、こんどの声明のような理屈をたてに、控訴すべしの声も強かったとされる。政治決断がそういう法律論を制したに違いない。それでもなお、こんな長々とした証文付きになったのを見ると、複雑な経緯がうかがわれるのだ。もし選挙中でなかったら……という臆測がまた、世間に飛びかうことになる。〉

▼筆者は、このコラムをいい記事だと思う。

いっぽうには、「手ぬるい」と批判する人もいるだろうし、もういっぽうには、政府を批判するだけで「ふざけるな」と激高して、「反射」的に過激な攻撃を加える奇妙な人も増えている。

筆者はハンセン病をめぐる猛烈な差別について、それは優生思想の最たるものであり、その歴史は十分に知られていないと考える。

いくつかメモしていくつもりだが、とりあえず、アマゾンプライムを登録している人には、映画の「砂の器」を見ることをオススメする。(つづく)

(2019年7月18日)

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