「権力」とは「情報」である?

▼そろそろ多くのネットユーザーが気づいているのではないだろうか。ネットで目にする広告が、自分好みに「カスタマイズされすぎている」ことに。映画の「マイノリティ・リポート」も真っ青の時代に、すでに突入していることに。

とくに個人情報をビジネスに使いまくっている代表格がフェイスブックだ。2018年の3月には8700万人の、9月には5000万人の個人情報がフェイスブックから流出していたことが報道された。そのフェイスブックについて、2018年12月23日付の日経新聞の記事から。中西豊紀記者。

フェイスブック 暴かれた「密約」/利用者データ、150社と共有/業界の常識、喝采から批判に

米フェイスブック(FB)が、アップルなど約150社とユーザーデータを共有していたことが判明した。ユーザーの知らない間に個人情報が第三者に悪用されていれば問題だ。FBはデータ融通で他社と協調しながら支えあう経済圏を築いてきた。20億人のユーザーを抱える巨大な情報交差点になった今、そこに規律が求められている。

 アップル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト――。18日の米ニューヨーク・タイムズの記事には、FBから「特別に」データ共有を許されていた有名企業の名前が躍った。連絡先へのアクセスや個人メッセージの中身を見ることが可能だったという。/情報共有は14年には原則取りやめとなった。

▼フェイスブックのユーザー数は20億人を超えている。20億人、である。情報漏洩(ろうえい)の影響が大きすぎる。筆者はこの記事でニューヨーク・タイムズのスクープを知った。上記の記事は、あるメディアが他のメディアのスクープを紹介する意味は大きい、と感じさせる好例だ。NYTのスクープは、他の新聞ももっと大きく取り上げる価値があると思う。

▼2012年に、アップルがフェイスブックとのサービス統合を発表した時、会場には喝采が起こったという。当時、情報を「共有」することは業界の「常識」だった。

それがわずか6年で、会社間のデータ共有は、会社間の「協調」ではなく、「共犯」とみなされるようになりつつあるのだが、〈空気が変わったのは18年3月に発覚した英コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカへの情報流出だ。〉ケンブリッジ・アナリティカは、2016年のアメリカ大統領選挙に影響を与えようとしたと疑われた会社だ。

▼そもそも、どれほどの個人情報が、特定の企業にどれほど集中しているのかをわかりやすく示した記事が、2018年7月16日付の、これも日経新聞に載っていた。連載「データの世紀 「私」が奪われる 1」から。この連載は面白かった。

〈豊かさの向こう側/超情報社会 危うい進歩/知の独占 気づかぬ間に〉

〈己の全てが記録/15世紀以降の印刷、放送、通信といった技術の進歩は大衆に知識を広げ、イノベーションや豊かな社会を育む原動力になってきた。データの世紀は私たちにさらなる利便をもたらしていくが、これまでの「知の民主化」の流れを変えかねない危うさもはらむ。

 1日何歩歩いたか、昔の始末書の下書き、自宅の設計図まで、取材班のメンバー(42)の全てが記録されていた。欧州が5月に施行した一般データ保護規則(GDPR)で定める「データ持ち出し権」。企業から自分のデータを取り戻して管理できる権利をグーグルで試すと、目を疑った。

 容量10・8ギガ(ギガは10億)バイト、映画9本分だ。検索履歴や位置情報のほか、予定表、Gメール、消したはずの写真まで含んでいた。「グーグルのサーバーからデータが削除されることはありません」。完全削除を指示しない限り、残り続ける。

 巨大データセンターは世界15カ所。便利な無料サービスが10億人を超すユーザーをひき付け、映画数兆本分に及ぶとされるデータを集めてきた。(中略)17年12月期のグループ売上高は12兆円で、ほぼ個人データをもとにした広告収入だ。独調査会社スタティスタによると、利用者1人当たりの売上高は年9千円。利便と引き換えにユーザーが差し出したプライバシーが生む「対価」だ。〉

フェイスブックとグーグルを合せると、世界のネット広告のシェアの、なんと6割を超えるそうだ。いっぽう、この日経記事ではヨーロッパでの面白い取組みも紹介されている。

〈4月、独ベルリン。「Verimi(ベリミ)」というデータ連携サービスが始まった。運営企業に出資するのはドイツ銀行やダイムラー、ルフトハンザといったドイツを代表する大手10社。互いのデータを持ち寄り、消費者の行動を広範囲に分析して効果的な顧客取り込みにつなげる。

 個人データを独占してきたグーグルなどへの対抗勢力として生まれた。異色なのは参加企業が集めたデータをどう使うか、ユーザーに選択権を委ねている点だ。

 航空券予約もカーシェアも決済も、同じIDで済む。ユーザーが同意しない限り、データは広告や外部企業に勝手に使われることはない。サービス名は「Verify Me」(私を認証して)から付けられた。

 「米中のIT大手は人権を無視して個人情報を集めている」。ベリミの主張だ。先行した米中とは違う形のデータ連携が進む。〉

▼なにしろ、スマホを持ち歩くだけで、場合によっては、その日、その人がどこからどこまで移動したのか、その人の歩く速さは時速何キロだったかまでわかるそうだ。こうした「ビッグ・データ」が、『1984年』でジョージ・オーウェルが描いたような「ビッグ・ブラザー」を生み出すことはない、とはいえない。「経済」に転用される情報が、「政治」に転用されない保証はない。実際にそういう動きが「見える化」したのがアメリカの大統領選だったわけで。

日本では?

(2019年1月1日)

この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?