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一人暮らしの部屋



『なんか外よりぬるいね、空気。ねえねえ、窓開けようよ。』


思えば何か月も部屋の窓を開けていなかった。そうか、空気が淀んでいれば窓を開ける。そんな当たり前のこともわからなかったんだ。


・・・


部屋にいるだけでなんでこんなにしんどいんだろう。

昨日は友達と買い物に出かけた。時間があっという間に過ぎた。今日は家に籠っていた。身体の重さと雨模様で外に出られなかった。いつまでも一日が終わらなかった。

いいかげん、一日が早くなったり遅くなったりするのはやめてくれ。疲れる。そう思っていた。


かれこれ5年間、今の部屋に住んでいる。初めて一人暮らしを始めた部屋。家事は全て一人でしている。友達がたくさん遊びに来た。初めて女の子と部屋で二人きりになった。本をたくさん読んだ。いっぱい笑った。いっぱい泣いた。早く感じる日も遅く感じる日も僕はここで過ごした。


この部屋には、たくさんのものがあった。あったはずなんだ。


部屋は僕の世界そのものだ。どれだけ外の世界がつらくても、大好きなものと思い出が詰まったこの部屋に帰ってくれば、僕は安心して休むことができた。

毎日が同じように流れていく今の部屋にいて感じるのは、安らぎなんかじゃない。

孤独感。疎外感。無力感。虚無感。挙げだすとキリがない。相変わらずとっ散らかった僕の部屋には、僕の大好きなものはもう何もない。あるのは淀んだ生ぬるい空気と、溜まった洗い物と、殻に閉じこもった僕だけだ。大好きだったものも思い出も、もはや僕の支えにはならない。微妙に汗ばむこの部屋にいると、なにやら深い暗い渦に吸い込まれていくような感覚になり、信じられないくらい身体が重くなるのだ。


・・・


気が付けば寝てしまっていたようだ。お昼ご飯を食べて、洗面所へ行こうとしたところまでは覚えている。しかし、ブツンと電源が切れたようにその後の記憶がない。携帯を確認すると、夕方の5時。色々な通知で画面が埋まっていた。手が震えた。とりあえずベッドに腰かけた。いつものようにまた貴重な時間を無駄にした。落ち込みつつ、それでも動く気になれない自分が恨めしかった。

思い立って、昨日友達がしてくれたように、部屋の窓を再び開けてみる。風と雨のにおいが一番に飛び込んできた。二番は雨の中車が走る音。外を見る。傘をさして歩く人、風に揺れる木、細かい雨。同じように見えて昨日とはすこし違う日常が広がっていた。

部屋を閉め切り籠っていると、毎日が全く変わらないものに感じて、ゆっくりと心が腐っていく感覚がある。でも全く同じ1日なんてなくて、細かいところが少しずつ違っている。微妙な変化があるから、人は退屈な毎日を生きていられる。昨日友達とご飯を食べるために綺麗に片づけたテーブルが、少し喜んでいるように見えた。

さっきまで鉛のように重かった身体が嘘のように、近所の薬局まで歩きだしていた。霧雨が冷たくて気持ちいい。雨のにおいが鼻をくすぐる。きっと家に帰ってきたら疲れで寝転ぶのだろう。でも、毎日の少しずつの変化を感じて疲れるのは、家で何もしないでずっと一人で考え事をして疲れるより、ずっといい。



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