Book &things

読んだ本や鑑賞した映画、聴いた音楽の所感を綴っていきます。 I will write…

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読んだ本や鑑賞した映画、聴いた音楽の所感を綴っていきます。 I will write the impressions of books, movie and music I have ever seen.

最近の記事

人生の不条理について

人は現在への嫌悪と、未来への憧憬を糧に生きることができる。 しかし、この社会を生きる数多くの人々は、「今は苦しいが、未来はきっと楽になるだろう」と自分自身に対して暗示を掛け、現在の苦しみを耐え忍んでいる。 人間の苦悩や苦痛は耐え難く、未来に対して希望を見い出す先送りにより、人は現在の辛い状況を乗り越えることができる。 我々の生きる世界は古今東西に渡って残酷かつ不条理であり、道理に合わない冷酷な現実がその手を緩めることはない。罪のない善良な人が、道を歩いているだけで暴漢に

    • Severeness for Austic people

      I'll write about severeness for Austic people in English. Autism is common developmental disabilities for academic subject and there are approximately 800 million diagnosis people in the world. Autism is the brain function tendency that

      • 谷崎潤一郎の「陰影礼賛」

        陰翳が生み出す美しさ 日本の美には外国にはない侘び寂びがある。日本の美はぼんやりとした場所にぼんやりと光が灯っているように影と光が陰影と溶け合って程よく調和している。それに対して、西洋の美はすべてを光で照らしてしまい、陰影の付け入る隙を与えない。わたしは築二百年の日本家屋に住んでいるが、時折西洋住宅にはない魅力を感じる瞬間がある。上手く言葉にできないが、それを掬い上げるかのように言語化した本が谷崎潤一郎の「陰影礼賛」である。谷崎はこの本の中で表題の通り陰影を礼賛している。文

        • 宇多田ヒカルの「桜流し」に潜む別れと喪失。

          歌詞に込められた意味 宇多田ヒカルは六年の休止期間を経て、2016年に「fantome」をリリースした。 彼女は「Automatic」で鮮烈なデビューを飾り、「First love」「traveling」など弱冠10代にしてミリオンヒットを打ち出す大人気シンガーソングライターとなった。わたしは当時生まれていなかったが、十五歳の少女がデビューした直後のファーストアルバムで700万枚ものヒットを記録したことを思えば、その熱狂ぶりが伝わってくる。そんな彼女も27歳までは音楽界の

        人生の不条理について

          マルクス・アウレリウスの「自省録」

          「自省録」の主観について マルクス・アウレリウスはプラトンが理想とした哲人君主が唯一実現した例である。彼の著書である「自省録」には自身の内省や思索の数々が散りばめられている。わたし自身も彼の言葉に助けられたし、二千年前のローマ皇帝という時代も立場も何もかもが違う人間の言葉がここまで響くのは何故だろう。「自省録」は彼の断片的な言葉で占められており、他人に公開されることを想定して書かれた文章ではないため読みずらい箇所も少なくない。しかし、この著作は古今東西の偉人から二千年にわた

          マルクス・アウレリウスの「自省録」

          芥川龍之介の「蜜柑」

          この記事では芥川龍之介の「蜜柑」について語る。この記事が読者にとって、芥川龍之介を手にとる機会となれば幸いである。 芥川龍之介の文章について 初めて芥川を読んだのは中学一年の教科書に掲載されている「トロッコ」だった。主人公がトロッコをどんどん押して行き、街の果てまでうっかりと進んでしまった後、泣きながら家に帰る中編小説だったと記憶している。当時はまだ芥川の魅力に気づいていなかったため、国語教師が好きそうな説教臭い物語だなぁと感じていた。しかし、高校に進学して「羅生門」を授

          芥川龍之介の「蜜柑」

          カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」と「Let it be」

          大学への入学が決まった今、約2年ぶりにnoteに記事を綴ろうと思う。京都のApple stoteでMacbook Airを購入し、大学生になる準備を始めると共にわたしの内面にも変化の兆しが見られてきた。十代にとっての二年は成人を迎えてからの二年と遙かに異なる意味を持つことは想像に固くない。二年という月日は短くもあり、長くもある。この一年は受験勉強に費やされたが、つらい勉強の日々で時間の捉え方が大きく変わった。永遠に続く思われた受験勉強の時間が、今となってはあっという間に過ぎ去

          カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」と「Let it be」

          時間と永遠

          年を重ねるにつれ、時間の感覚は短説に覚えると大人たちは口々に呟く。確かに、子供のころは日々が一つの一生のように充実していた。朝に起きるは生命の誕生を思わせる希望だった。日が沈むまで興味が働くと共に野山を駆け回ったのが、つい昨日の出来事のように回顧させられる。いつかはやって来るであろう成人の時などは、永遠に到来しない、つまり一生子供のままで過ごす気分だった。 過去への憧憬や郷愁についての思索を巡らす度に、いつも考えさせられることは、時間と永遠の問題である。時間というものは、無

          時間と永遠

          言葉にならない美しさ

          渡辺歩監督のアニメ映画「海獣の子供」のキャッチフレーズは「大切なことは言葉にならない」である。そのフレーズを象徴するかのように、映画の脚本や演出は言語の直接的な表現が明確でなく、殆どが抽象的なメタファーで占められている。 映画の大衆性と芸術性という二つのバランスの均衡において、この映画は偏っているかもしれない。しかし、キャラクターの口から淡々と語られる形而上学的な台詞は、観客を深い哲学的思考の深淵へと落とし込む。その省かれた言語的な表現を埋め合わせるかのように、久石譲の音楽

          言葉にならない美しさ

          東洋思想の非二元性

          西洋文化といえば、キリスト教やユダヤ教の伝統文化の継承である。そのキリスト教やユダヤ教の「二元性」に由来する、数々の思想的な闘争は西洋の歴史を鑑みた上で顕著に観察できる。キリスト教には、二分性から来る短所が著しく見え、それが今後の人間社会にとって何らかの影響を少なからず与える懸念を私は感じる。キリスト教はこの「二元性」が与える影響や懸念を自覚して、包容性を養わなければならない。 二元性から生じる排他性・自己中心性などは、人間社会にとって好まれざる性格である。この二元性を超越

          東洋思想の非二元性

          石と自然

          昔は「自然」と「人間」の区別が曖昧だった。芭蕉は「閑かさや、岩にしみ入る、蝉の声」と俳句に説いた。「閑かさ」という人間の概念である言葉を「蝉」と調和させて表現した俳句からも、「人間」と「それ以外」の区別が曖昧だった上記の題目が理解できる。古来の人々は草花を一つの生命として見立てたり、説法して頷かせた。 しかし、現代の人々にとって人間と自然の区別は生きているものと、死んでいるものでしか無くなってしまった。自然を差し置いて、人間の物質的精神が上位に固定されてしまったのだ。「石」

          石と自然

          経験と創作

          宮崎駿監督の「もののけ姫」には日本的な民俗学や、歴史学をモチーフとした解題が様々な場面に暗喩として散りばめられている。主人公のアシタカは、村を襲来したタタリ神を打倒するが故に、戦闘の最中に腕に呪いの傷を負ってしまう。村を守ったアシタカは、「その傷はそなたを蝕み、やがて骨まで達して死に至らしめるだろう」と村長のヒイ様をして「最期の時」を告げられる。その呪いを解かんとするべく、アシタカは「西の国」へと旅立つ。 それが、「もののけ姫」の大まかなあらすじである。本作を鑑賞すると散見

          経験と創作

          書と美

          私は少年時代の6年余りを滋賀で過ごした。滋賀は湖岸の古蹟に富んだ美しい街である。大津の隣には京都が属すが、京都とは古都というには余りに都会らしく、日本的な「間」の精神的な空想の働く余地を与えない。大津にはなお廃墟らしい所が多い。大津の坂本を西に見上げると、千年の太古からの霊峰である比叡山を拝むことが出来る。比叡山は、最澄が1300年前に建立し、小堂に籠り修行を行ったのが由来とされている。その威厳は現在に至るまで、脈々と受け継がれつつ、日本屈指の霊峰として日々参拝者が絶えない。

          和の精神と「やわらぎ」

          「和の精神」に代表される、日本の精神文化を表す漢字一文字といえば、「和」である。「和」という字は、平和とか和親とか調和とか「ものごとの区別が曖昧」な意義で解される。それが元となり、日本人の精神性・建築様式・自分と他人との関係・は「調和」に重点がおかれるのだろう。 ところがふと、この「和」という語は「やわらぎ」と読んでもよいのではないかと時折考えるのである。その「やわらぎ」は一つの日本人の心持ちの土台となる精神性であるのは勿論のこと、日本の建築様式や道具など、物質的方面にも代

          和の精神と「やわらぎ」

          刹那と永遠

          毎年、冬が来ると正月の支度を始める。毎年十二ヶ月を切りにして、年を重ねるのは日本に置いて太古の時代からの習わしであった。年を重ねるほど、「時間の感覚」は短説になっていくと大人たちは口々に呟くが、「お正月」は一年に一度しかないことで、氏神のお祭りのように期待のひと時である。十にも満たない年の頃、冬が到来すると「あと何回寝れば、お正月が来るの」と祖母にたずねて、カレンダーに印を付けて一晩二晩と勘定したものである。そして、いよいよ新年を迎えると、「あけましておめでとうございます」と

          刹那と永遠

          宇多田ヒカルの「Deep river」に潜む不条理と輪廻転生

          私は「宇多田ヒカルのDeep riverに潜む無常観」という題で前回の記事を記した。今回は、上記の通り「不条理」と「輪廻転生」のテーマを、遠藤周作氏「深い河」の解題を基に考察する。「輪廻転生」については前回で少し触れた。この解題についてのモデルは、「深い河」の主人公の一人である「磯部」のストーリーから引用されている。そこで、考察する前提として、彼の境遇を照らし合わせ、その上で歌詞と照合させることを試みよう。 「磯部」は妻を癌で亡くし、老年期に差し掛かった男である。それまで彼

          宇多田ヒカルの「Deep river」に潜む不条理と輪廻転生