アルヴァ・アアルトがつくった世界初のもの

国立新美術館『カリフォルニア・デザイン 1930-1965 -モダン・リヴィングの起源-』展で、初のキドニー型プールはカリフォルニアでトーマス・ドリバー・チャーチが手がけたと述べられていたが、そうではなかった。

世界初のキドニー型プールはアルヴァ・アアルトが1939年フィンランドで手掛けたMairea邸にあった。形はチャーチがデザインしたものと酷似している。

チャーチはカリフォルニアの温暖な気候にマッチする有機的なデザインをテーマとしていたため環境に合わせることを考えていたが、アアルトはそうではない。完成した1939年のフィンランドは冬戦争の始まった年だ。彼がモチーフにしたものは波だった。アアルトの作品の特徴であり、自身の名前(アアルトはフィンランド語で波の意味)にちなんだ波緩やかなウェーブがプールの壁と床に適用されたのだ。

チャーチとアアルトは親交があった。1937年、チャーチが初めてフィンランドを訪れた際アアルトが案内をしている。アアルトのMaireaにあるキドニー型プールをみたチャーチは影響を受け、カリフォルニアのドネル邸に設置するプールに生かした(というより真似した)。ふたりの間の親交や影響関係についてはelementスケートボードからスポンサーを受けていたランドスケープアーキテクトのjanne saario が研究し発表している。

チャーチがデザインしたドネル邸のプールは雑誌『HOUSE BEAUTIFUL』に紹介されたことによりフランスやイギリスで有名になったが、その際フィンランドではどのように受け止められたのだろう。アアルトの作品と酷似していることよりも、温暖な気候を表すにふさわしいデザインであるということの方が重要だったのだろうか。

その後アアルトの頭の中で構成されたコンクリートウェーブを持つキドニー型プールは、スケートボードを持ったサーファーの想像の世界で再び波に還元された。単純なかたちはたくさんの意味が与えられることがあるが、時にはその要素に還元されることもあるようだ。

岡﨑乾二郎の抽象の力には「事物の認識は関係によってこそ行われる」という一節がある。スケートボードの場合、デッキこそが事物の認識を関係づけていく起点になるのだ。


後記
キドニー型プールについて調べたところ、同展覧会で開催されるよりも前に北欧マニアの方のブログでアアルトが手掛けたキドニー型プールが取り上げられていた。学芸員の方はアアルトのプールを知っていたが存在を大っぴらにしたくなかったのだろうか。図録には「初のキドニー型プール」と書かれていて「世界初」とは書かれていない。

スケートボードの海外メディアではアアルトのプールが世界初のキドニー型プールであることが取り上げられている。
TRANSWORLD SKATEboardingSLAP Magazine

日本のメディアでスケートボードの史実を取り扱うときは、トリックや道具の進化などばかりで建築や都市開発等の内容が取り上げられることはまだない。

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