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サウナという合法ドラッグに出会った

昔からサウナというものに、良いイメージがなかった。

温泉へ行けば 必ず浴室の隅にサウナがあるし、とりあえずいちおう入ってはおくけど「うーん、暑いねえ」となるか、隣にいる友人と どこまでガマンできるか競い合うための突発イベントに使った記憶しかない。

この熱気に満たされた小部屋が、いったい社会の何に貢献しているというのだろうか。


それなのに繰り返しサウナと水風呂を行き来する、熱狂的なオッサンがいるというのもわかっていた。この恵まれた現代社会に、そのような拷問を自ら受け入れているのはなぜなのか。頭の片隅の「不思議10選」にいつもエントリーされ続け、棚卸ししないまま放置してきた。


サウナの気持ちよさを知ったのは、ここ数年の話である。

なんとなくネットサーフィンをしていたときに見つけた「サ道」というマンガの中に、サウナと水風呂のセッションが、サウナの本質であるということ、サウナでキマるとどうのような体験が得られるのか、という作者の体験談が記されていた。


サウナには入り方がある。

1. サウナに入る(10分くらい)
2. 水風呂につかる(1分くらい)
3. 休憩する(5分くらい)

というセットを3周する。

その後ボーッと休んでいると、スーパーリラックスモード(通称、「ととのう」)にいけるというものだ。


このカラクリを知って、「ああ、なるほど、こういうことね」「どうしてこんな良いものを秘密にしてるのよ」と騙された気分になり、さっそくスマホで都内のサウナを調べ回った。


サウナで「ととのう」には環境にも影響するらしい。週末を待って、ネットで評判がよかった赤坂のサウナへ向かう。

そのサウナはホテルの中に併設されていた。初めてサウナの入り口へ足を踏み入れる、という感じでなぜか緊張とワクワクが混在している。

1階のホテルの受付を素通りし、エレベーターで2階へ。


ふつうのビジネスホテルっぽい内装なので、ここにサウナがあるの? という感じだったけれど、エレベーターを降りた瞬間に受付があって安心した。

とにかく中はせまくて、受付の時点から もう奥に温泉の入り口と思われる場所が見える。

脱衣所が受付の左、右に温泉の入り口。つまり服を脱いで必ず受付の前を通らないと浴室へ行けないというミステリアスなつくりになっているけど、男性専用だから気にしなくていいのだろう。東京はスペースが限られているせいで、こういったよくわからない設計のビルにたまに出会っておもしろい。


脱衣所にある積み上げられたタオルを持って浴室へ。このフリーダムな感じが好きだ。サウナ好きが集まるというだけあって、手前の温泉には誰もいないのに、奥のサウナだけが混んでいる。


「郷に入っては郷に従え」というようにまずは湯船に浸かってサウナのほうへ目を向け、ようすを伺う。みんなサウナの前で順番を待ちつつ、一人出てきたら一人 入っていくという暗黙の了解でまわっているようだ。

山手線の電車のように、人が箱の中に出ては入っていくセッションを繰り返している。次々と身体中から汗が吹き出したオッサンが量産されていくのを見るのは、なんとも言えない不思議な気分だ。

自分もその中に飛び込んでいくのか。思い切って「えいや」で飛び込んでみるのが良さそうだ。


サウナ内では木の階段のような形で腰かけられるスペースが広がっており、ちょうど空いていた中段に座った。

ほどよいヒノキの香り。前には友人同士と思われる2人組がテレビに集中している。そして後ろの一番高い場所に、ベテランと思われる面々がどっしり腰掛けて微動だにしない。

10分ほどガマンするつもりで入ったけれど、2, 3分ですでに暑い。8分くらいが限界だった。


今度は水風呂へ。この蒸された状態ならすぐ入れそうだと思ったけれど、足をつけた瞬間に、ほんとにこれ全身いくの? という感じになる。しかし水風呂があまり広くなかったので、ウカウカしてたら次の人がやって来そうだ。ゆっくり、それでも自分の可能な限り限界のスピードで身体を沈めていく。ここは水風呂の中でも とくに温度が低いことで有名らしい。肩までは到底無理だ。

週末の、のんびりとした昼下がり。いったい自分はここで何をやっているのだろう。どうしてわざわざこのような苦行を持ち込んでしまったのだろうと後悔の念で頭がいっぱいだった。早く帰りたい。そういえば小学生の頃、夏休みのプール教室が嫌いで早く終わってほしいと願っていたな。


結局ガマンできたのは15秒くらいだったと思う。ハードな修行から解放され、やっと一仕事を終えた気持ちで放心したように風呂のスミにあるプラスチックの椅子にこしかけた。


そのときだ。

ジワーンと手足がしびれて、なんともいえない心地よい感覚が広がってきた。

体の内側にある熱波が外側の冷えた肌にぶつかってジンジンする。なんだろうこの感覚。熱いと冷たいが混在して体がとろけそうだ。どこかで味わったような、そうでないような。眠りにつけそうで つけない、あの意識が遠のいていく感覚に近いのかもしれない。

しばらくするとすぐに落ち着いたけど、なんだかこの続きがありそうな気がする。


それからサウナと水風呂の行き来を、2周目、3周目とこなした。たしかに体にリラックスの粒子が広がる感じがしたけれど、体が慣れてしまったのか、1発目のトランス状態が やってくることはなかった。

(その後もいくつかサウナに行ってみたけど、日によって ととのったり、ととのわなかったりする。このへんは個人差や体調があるかもしれない。)


初めてのサウナは新たな発見がありつつも、少々尻すぼみで終わってしまった。もう少し満喫したかったような気もする。

ところが、外に出てからも身体の変化があることに気づいた。

チャリで家路に急ぐ帰り際、青山通りは いつもより視界が広く、道を照らす電灯やビルの明かり、車のライト、人々が覗くスマホの光が いつもより明るく鮮明に見えたし、自宅に着いて玄関のドアを開けた瞬間、初めて他人の家に来たときのような、その家 独特の慣れない においが鼻を抜けていく。

脳の血流がよくなったせいだろうか。五感が研ぎ澄まされて、潜在的な身体の機能がマックスになっているようだ。

そのうえ いつもより眠気が早く来たし、翌朝はスッキリ起きることができた。


サウナに対する態度がすっかり変わってしまった。サウナはこんなにいいものだったのか。大人になってからも知らないことはまだまだあるな。この日を境にサウナに対する追求心が深まっていくのだった。

次はどこのサウナへ行こう。

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