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男の子、女の子。

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恋とか愛とかしたかった。
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この一言が終わりになるかもしれないことは気づいていた。

この一言が終わりになるかもしれないことは気づいていた。

「煙草、吸うんだ。」

背中に張り付いた時に、香水に混じって独特の匂いがした。嗅いだことのある、誰かが吸ってた煙草の匂い。
私が尋ねると、あなたはもごもごしながら、「やめられなくなっただけだよ、若気の至り。」と、遠くを見つめて答えた。
その瞳に私は映っていなかった。もしかしたら、いつもその瞳に私は映っていなかったのかもしれない。

初めて煙草を吸っているところを見たのは、朝焼けが綺麗な時間。ベラン

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「親指、すごく曲がるんだね」

「親指、すごく曲がるんだね」

ちょっとした癖まで知ってるのに、
あなたと私は付き合ってない。

足と手の親指がひどく反り返る。
私だけが知っている秘密にしておきたい。

横になって、見える足先。指。
親指だけ力がぐっと入ってるみたいに、
他の指より反っている。
手の親指もそう。
ふと広げた時に、ぐっと反っている。
親指だけ。

それに気づいているのが私だけならいいのに。

そう思うから、言えないでいる。
何気ない会話の時に、

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お前の幸せだけは祈らない

「早く野垂れ死んだらいいのに」
そう呟いてスマホを置いた。大嫌いな男はまだしぶとく生きているようだ。

その男は、半年前にこう言った。
「飽きたから別れてほしい」
平日、昼間のサイゼリヤでの出来事だった。周りの卓はランチタイムで賑わっている。この卓だけ葬式のような静けさだった。いや、葬式の方がまだ音がある。ここだけ無音だった。
あまりの衝撃で言葉を忘れてしまった。突いて出たのは「ぁ…あぅ、あ?」

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恋ではなく興味だと思っていた

恋ではなく興味だと思っていた

「それ美味しい?」
別にその飲み物に興味はなかった。大量の生クリームにチョコチップの混ざった甘そうな代物。そんなものはどうでもいい。僕は君に興味がある。

毎週水曜日、3時限目。

君は窓際、前から4列目に座って気だるそうにそれを飲んでいる。いつも同じで飽きないのだろうか。席も、飲み物も。
確かに、席に飽きるも飽きないもない。僕だっていつも同じ席だ。生憎、ゲームのやりすぎで目が悪くなってしまったか

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目が合ったら考えてあげる

目が合ったら考えてあげる

この人は、いつもいつだって顔色が悪い。
箸を持っただけで指が折れそうだし、一度寝たらもう一生目を覚まさない気さえする。

…まあ、そんなことはないんだけど。
なんなら、今朝目が覚めてからずっとスマホとゲームコントローラーの往復を繰り返している。その横で目が覚めてから掃除洗濯、今はお昼ご飯の準備をしている私。掃除と言ったがするところがほぼない。大体いつもスッキリしている。この人の部屋が綺麗なのは、休

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忘れた名前

忘れた名前

「けー、おー…わ、い?違うな。」

リップに刻印された読めない名前。
ピンクの文字は擦れている。
頭二文字。その先がわからない。

かろうじてわかる、ハートマーク。

蓋をあける。
もう少しで使い切れそうなボルドー。
それを見ながら呟く。

「もうこんな色塗らないって〜。どうしよ。」

困った末に、鏡の前。
『たまには、いいか。こんな色も。』
厚くもなく、薄くない平凡な唇にサッとひく。

思い出し

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身代わり

身代わり

あの恋を忘れるために好きになった。
ただそれだけ。

ぬちゃぬちゃした音とザラザラした感触が嫌いだ。気持ち悪い。
こっちを見た時のジトりとした瞳に寒気がする。
影ができるほど長いまつ毛に嫉妬した。
頼りなく丸い背中に傷跡をつけた。
『お前は身代わりだぞ』という小さな反抗だった。

それでも、あなたの何もかも失ったままの格好で、永遠について語る様だけが酷く美しかった。
薄い身体に寄り添うと、どうでも

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天の邪鬼なふたり

天の邪鬼なふたり

朝か昼かわからぬ時間。

ばたばたとお風呂場へ向かう君。

朝シャンには遅いし、今日は特段汗をかくほど暑くはない。

窓からは心地よい風がふき、陽気もぽかぽかとしてる。

まるで青空の下にいるようだった。

僕は、また眠気に襲われぼーっとしていた。

すると、

「ねえ、このシャンプー金持ちのオバサンみたいな匂いじゃない!?」

君は、「嗅げ!」と言わんばかりにシャンプーを僕の鼻に近づけていた。

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ダメなんかじゃない。

「こんばんは!チョコ、貰いに来ました!」
夜遅くにやって来て、第一声がこの図々しい一言。
しかも、制服姿。

「君の分のチョコなんて用意してません。
もう遅いんだからお子様は帰りなさい」
そう言ったらほっぺたを膨らませて、
明らかには不満がある顔をする。
図体でかいのにこういう
可愛い仕草が似合うから腹が立つ。
腹が立つけど可愛く見えるのは
惚れた弱みなのかもしれない。

彼は膨らませていたほっぺ

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コーヒーなんて飲めないけど、

女の子はスタバが好きだって聞いた。
だから、スタバって単語を出せば、
興味を持ってくれると思ったんだ。

「あの、さっ、スタバ行かない…?」
ほら、これならきっと
君もオッケーしてくれるよね。
だって、スタバだよ!

「えっ、私コーヒー飲めないよ?」

あれ…?
予想外の反応で僕は
どうしたらいいか困ってしまった。
スタバってコーヒー以外のものなかったっけ。
フラペなんちゃらとか。

「フラペなん

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最初で最後に。

卒業式が終わり、
みんなに一通りのお別れをして、
私は急いで校門に向かった。
少し年上の彼を待たせていたからだ。
「ごめんね、お待たせ」
そう声をかければ、
「思いのほか早かったね。
もっとゆっくりでも良かったのに」
って優しく笑う。
「大丈夫だよ。
またすぐにみんなで遊ぶ約束してるもん」
「そっかそっか」と言いながら
そっと私の左手を彼の右手が包んだ。

「そう言えば、制服姿、初めて見た」
彼が

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まだ征服されていたい。

制服を卒業したら何を着たらいいんだろう?
私が着たい服を着ると色んな人に三度観されたり、変わってるって言われる。
私にとっての制服はそんな着たい服を着られないときに着る自分の弱いところを守る鎧みたいな鉄兜みたいなみんなに紛れるための擬態するためのものだった。
それがあと数ヶ月しないで着られなくなる。
じゃあ、私は何に守ってもらえばいいのだろう?
何を着たらいいんだろう?
弱いところを隠すには?

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