桜塚ひさ

詩を書いています。読んだ本の感想、好きな詩、折々の思いを書いていきます。

桜塚ひさ

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記事一覧

石原吉郎について考えたこと

石原吉郎の詩と人生を読み直している。長い間避けてきたのは、読めば必ず胸が苦しくなるのが分かっているから。だが、現在世界で起こっていることを思うと、この詩人の作品…

桜塚ひさ
10日前
1

巨匠の作品に感じること

最近とつおいつ、詩の世界の巨星である谷川俊太郎氏の全詩集を読み返している。私の編著書『親と子の詞華集-知恵の花かご』というアンソロジーに最も多く採らせていただい…

桜塚ひさ
1か月前
4

難解詩に挑む

現代詩は読まれない。難解だからだ。現代人には気晴らしは多くあり、なんでもタイパで、映画さえ早送りで見る時代に、苦労して訳の分からないものを読む人は詩人以外ではよ…

桜塚ひさ
1か月前
10

読まれる詩を

詩とは対話である、とパウル・チェランが言ったという。詩に限らず書き物は誰かに読まれることを本質的に望むものだ。エミリー・ディキンソンは作品を一切発表せず、ひとり…

桜塚ひさ
2か月前
12

現代詩は読まれない 1

わが市の図書館は週に一度購入した新刊書を書架とは別の棚に陳列する。その棚は大変人気で、ときのベストセラーなども出るそうでその日は開館前に行列ができるほどです。開…

桜塚ひさ
2か月前
29

大岡信のモダニズム批判

大岡信氏が若き日に書いた 現代詩試論。  ぼくは、詩は詩人の肉声を伝えるべきものだと頑なに信じている。小ブルトン、小エリュアール、小アラゴンはたくさんだ。まして…

桜塚ひさ
2か月前
4

100人の詩人たち

「青い凪」の会による『凪組Anthology2024』というアンソロジーを読んだ。凪の会というのは、ネット、それもXに詩を投稿していた方々が集まって作った同人誌であるようだ。…

桜塚ひさ
2か月前
38

切なくて詩を書いた

未推敲で、ある合評会に出した詩です。 「完」                   何も持っていきません 全部残していきます 悔いはあります 残してあげられなかっ…

桜塚ひさ
3か月前
10

若い友人の作品

「帰り道」 あなたと夢の中の 夜の駅前通りを一緒に通ったのは どのくらい前になるのか あなたは変わらずかっこ良くて元気で 何も変わってなかったね どうかこれから…

桜塚ひさ
3か月前
5

現代詩手帖12月号年鑑を読んで

現代詩手帖12月号年鑑の2023年代表詩篇を読んでいる。現代を代表する詩人130人が選ばれその詩人の1年のベスト作品が掲載されているのでしょう。が、そのほとんどに何の感興…

桜塚ひさ
3か月前
12

続荒川洋治『真珠』に挑戦するの記

かなり以前、何かの雑誌で作曲家久石譲氏が養老孟司氏との対談で興味深いことをおっしゃっていた。心に残ったので要点をノートに書き写していたのを思い出した。現代音楽の…

桜塚ひさ
4か月前
12

荒川洋治 『真珠』と格闘する

荒川洋治氏の最新詩集を読む,いえ,読もうとしている。あまりに読めないので現代詩手帖の12月年鑑の佐々木幹郎,藤原安紀子,石松佳三氏の鼎談を参照しながらよんでみた。…

桜塚ひさ
4か月前
16

ヒーロー

大嘘つきの首長が 嘘ばっかりいわれるんです!と強弁する 高名な大学教授が時の首相に お前は人間じゃない! ぶった切ってやる!と叫ぶ 声を持たない者は 唇を噛み うな…

桜塚ひさ
5か月前

精神科医中井久夫の詩魂 

日本精神医学会のウルトラマンである中井久夫は類いまれな語学と文学の才能の持ち主でもあった。1934年生2022年没の88年の人生で実に多方面で鬼才を発揮した、日本が世界に…

桜塚ひさ
5か月前
27

若い友人の投稿詩2

無題  あんたをつかまえてやるの 呪物(まほうのグッズ)使って ひいひい呻くあんたのこと この両腕の中にね 念じて投げたお札は 落とし穴に変わるわ 髪から引き抜い…

桜塚ひさ
6か月前

山に来て

冷たく澄んだ空気 深い湖のような青空 銀杏の金色 銀色に光るすすき 鮮やかな黄色のつや蕗 紅葉の真紅から橙色へのグラデュエーション 鳴きかわす小鳥たちのおしゃべり …

桜塚ひさ
6か月前

石原吉郎について考えたこと

石原吉郎の詩と人生を読み直している。長い間避けてきたのは、読めば必ず胸が苦しくなるのが分かっているから。だが、現在世界で起こっていることを思うと、この詩人の作品と人生の教えることは大きいと感じるのだ。起こったことは、変えることはできず、不可逆で、惨劇は惨劇で終わるしかない、と。随分前に野村喜和夫先生の講座に出ていたころに購入したままだった先生の著書『証言と抒情』を手掛かりに、難解と言われる石原吉郎

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巨匠の作品に感じること

最近とつおいつ、詩の世界の巨星である谷川俊太郎氏の全詩集を読み返している。私の編著書『親と子の詞華集-知恵の花かご』というアンソロジーに最も多く採らせていただいたのは谷川作品だった。もっとも感銘を受けてきた、真言の詩人です。それでも全作品にあたりきれていない。作品数もだが内容も多岐にわたっていて、追いきれないでいた。そこで、難解な作品は後回し、隙間時間でも読める読みやすい作品を読み返しているのだ。

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難解詩に挑む

現代詩は読まれない。難解だからだ。現代人には気晴らしは多くあり、なんでもタイパで、映画さえ早送りで見る時代に、苦労して訳の分からないものを読む人は詩人以外ではよほど酔狂な人だけだろう。私は難解詩には反対、というより書けないのですが、難しいことを易しく書くためには、難解詩を攻略する必要があると思う。分からないから排斥するのでなく分かったうえで敬遠したい、というので、一例を岡井隆著『岡井隆の忘れ物』の

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読まれる詩を

詩とは対話である、とパウル・チェランが言ったという。詩に限らず書き物は誰かに読まれることを本質的に望むものだ。エミリー・ディキンソンは作品を一切発表せず、ひとり書き溜めていたというが,死の前に処分した訳ではないから、いつか誰かに、という気持ちがなかったという証はない。
詩は投壜通信ともよく例えられる。いつか誰かに届くことを願って投げられる通信なのだ、と。しかしチェランは、非常に難解な詩を書いていた

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現代詩は読まれない 1

わが市の図書館は週に一度購入した新刊書を書架とは別の棚に陳列する。その棚は大変人気で、ときのベストセラーなども出るそうでその日は開館前に行列ができるほどです。開館時間を遥かすぎて行くと棚はすっからかんか、または大変不人気の書物しか残っていない。私はベストセラー読みではないのでその行列に参加したことはないけれど、どんな本が残っているかに興味があり,たまに覗いていました。先回は棚に数冊残っていた中に、

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大岡信のモダニズム批判

大岡信氏が若き日に書いた 現代詩試論。
 ぼくは、詩は詩人の肉声を伝えるべきものだと頑なに信じている。小ブルトン、小エリュアール、小アラゴンはたくさんだ。まして、小西脇、小北園、さらに,クレジットさえわからぬ模倣のごった煮に至っては,まさに,反吐だ。

大岡さんが22.3歳の頃のデビュー作とも言えるこの試論はおおいに話題になったという。この一節を,当時新人作家だった開口健が賛意を表明、大岡さんに手

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100人の詩人たち

「青い凪」の会による『凪組Anthology2024』というアンソロジーを読んだ。凪の会というのは、ネット、それもXに詩を投稿していた方々が集まって作った同人誌であるようだ。その会の主宰者の石川敬大さんという詩人が一念発起して創られた100人のネット詩人によるアンソロジーである。私はネットに投稿はしていないし、その会の存在も知らなかったものですが、欠員が出たことを偶々知って参加させていただき、10

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切なくて詩を書いた

未推敲で、ある合評会に出した詩です。

「完」                  

何も持っていきません
全部残していきます
悔いはあります

残してあげられなかった
私が子どものころの海
松林に続く白い浜
素潜りして手づかみで魚を取った海を

残してあげられなかった
私が子どものころの秋の雁行の空 
北極星北斗七星天の川 
屋根の上に見た夜空を

残してあげられなかった
私が子どものこ

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若い友人の作品

「帰り道」

あなたと夢の中の

夜の駅前通りを一緒に通ったのは

どのくらい前になるのか

あなたは変わらずかっこ良くて元気で

何も変わってなかったね

どうかこれからも

あなたの信じるものを

好きな人を

好きなものを

大切にしながら

ワタシには辿り着けないそっちで

永遠に生きてて下さい

ワタシはあなたのかっこ良さにしびれながら

期限付きの今日と一生を生きていきます

現代詩手帖12月号年鑑を読んで

現代詩手帖12月号年鑑の2023年代表詩篇を読んでいる。現代を代表する詩人130人が選ばれその詩人の1年のベスト作品が掲載されているのでしょう。が、そのほとんどに何の感興も覚えなかったことに衝撃を受けている。自分の鑑賞能力も疑っているのですが、谷川俊太郎、平田俊子の2氏の作品にはいつも期待を裏切られたことがない。が、その二氏以外では3,4篇の作品しか心に響かなかった。とても長い、長すぎる作品が多く

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続荒川洋治『真珠』に挑戦するの記

かなり以前、何かの雑誌で作曲家久石譲氏が養老孟司氏との対談で興味深いことをおっしゃっていた。心に残ったので要点をノートに書き写していたのを思い出した。現代音楽の傾向について、不協和音の音楽が今や大半で、現代音楽家は感覚より意識で作曲していると。自分のために作っていて自分だけで完結しているから、聴衆は離れていくということだった。これは全く現代詩に通じると思ってメモしていたのだろう。感覚より、意識、そ

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荒川洋治 『真珠』と格闘する

荒川洋治氏の最新詩集を読む,いえ,読もうとしている。あまりに読めないので現代詩手帖の12月年鑑の佐々木幹郎,藤原安紀子,石松佳三氏の鼎談を参照しながらよんでみた。分からない。このわからなさは,私の理解力の乏しさによる。それは確かなこと。この詩集が近年稀な、画期的で詩の愉しさを十分味わえる詩集であるとされる藤原さんの読み,背景を示唆する佐々木氏の解説でようやく掴んだこと。
それはこの詩集が現代詩の最

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ヒーロー

大嘘つきの首長が
嘘ばっかりいわれるんです!と強弁する

高名な大学教授が時の首相に
お前は人間じゃない!
ぶった切ってやる!と叫ぶ

声を持たない者は
唇を噛み うなだれる

しかし 
挫けてはいないのだ
歩み続けているのだ
牛のように
がっしがっしと
明日は 明日は とつぶやきながら

ヒーローとはそういうもののことだ

精神科医中井久夫の詩魂 

日本精神医学会のウルトラマンである中井久夫は類いまれな語学と文学の才能の持ち主でもあった。1934年生2022年没の88年の人生で実に多方面で鬼才を発揮した、日本が世界に誇れる医学者文学者である。阪神淡路大震災を経験し、大学病院の病床を開放して避難民を受け入れたなど、行動力もたいへんなものだったが、何よりそれまで本邦にはなかった,PTSDという概念を用いて災害に遭遇した人々の「心のケアに」当たった

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若い友人の投稿詩2

無題 

あんたをつかまえてやるの

呪物(まほうのグッズ)使って

ひいひい呻くあんたのこと

この両腕の中にね

念じて投げたお札は

落とし穴に変わるわ

髪から引き抜いたばかりのヘアピンは

針のお山に変わります

ワタシが今履いているガラスの靴は

実は10km(キロ)を5分で走るシロモノ…

涙を流すあんたは

今ワタシの腕の中

せいぜい可愛がってあげるわ

ハッピーエンドをご期待�

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山に来て

冷たく澄んだ空気
深い湖のような青空

銀杏の金色
銀色に光るすすき
鮮やかな黄色のつや蕗
紅葉の真紅から橙色へのグラデュエーション
鳴きかわす小鳥たちのおしゃべり

山にいて
ほかに何を望もう

やがて
老い行く哀しみのような山霧が忍び寄ろうとも
今 ここにいる喜び

いずれ消えゆくものとして