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映画『花腐し』をみる。

『栗の森のものがたり』以来となる、シネ・リーブル梅田であります。

綾野剛が舞台挨拶に来るらしいとの一報を受けたのが、たしか10月上旬頃。最前列を確保できれば卒倒必至、もう信じられないの距離感になりますけどまあチケットなんて取れるはずもなく。11月の祝前日にふらっと立ち寄る。『火口のふたり』の荒井晴彦監督最新作は芥川賞作家・松浦寿輝の同名小説を大胆にデフォルメ、ピンク映画業界の切ない恋模様を描いている。R-18。

桐岡祥子(さとうほなみ)がある日業界仲間の桑山(吉岡睦雄)と心中を図った。長く祥子と交際関係にあった栩谷(綾野剛)は、慌てて彼女の元へ駆け付けたものの遺族から顔合わせを拒否されてしまう。後刻、アパートから立ち退きを迫られている男・伊関(柄本佑)と偶然出会ったことをきっかけに、徐々に祥子の足取りが、そして隠された素顔が明らかとなっていく。

もう5年も新作が撮れない映画監督と、脚本家志望で業界に飛び込んだ男が同じ女性を愛していたのだと気付くまで。取り壊しの決まっているアパートの一室で、場末の韓国スナックのカウンターで、土砂降りの雨の中で、二人は随分と長い間話し込んでいたように映りました。笑っちゃうほど勘が鈍い、感性のまま本能のままに生きる「同じ穴の狢」とはまさにこのことか。

つい性描写ばかり目が向きがちですが、食事シーンや枕元のシーンも効果的に映った。つまり「人間の三大欲求」を生(せい)のメタファーとして描く、祥子との悲しい別れを対比させるための仕掛けです。『火口のふたり』でも瀧内公美演じる直子とアクアパッツァに舌鼓を打つ場面がとっても印象的。柄本佑、『春画先生』以来の邂逅ですが本当に圧巻の芝居。妖艶なクズ男。

長回しのシンプルな会話劇、ポルノ映画の世界観も相まって惹き込まれた。晴れと雨の境目、いわゆる「馬の背」が過去と現在を繋ぐワープトンネルの役割を果たしていたこと。思い出語りをカラーで、輝きを失った現実世界をモノクロで描き出す演出も素晴らしい。楽曲許諾が取れずに辿り着いたとは到底思えないほど心温まるエンドロールは、綾野剛好きなら必見。

ラストシーンを巡る解釈の多様性について。白装束に身を包んだ祥子の姿はさながら「花嫁姿」に感じられました。伊関や栩谷が夢を見た日の枕元に、ああやっていつまでも現れるのだと思います。ありがとうの表情ともごめんねの表情とも映りました、故に栩谷はカメラ目線で涙を流したのだと思う。恋の思い出すらピンク映画の世界に取り込まれてしまうという入れ子構造。

荒井監督が「業界への鎮魂歌」と語った今作を象徴する名シーンでした。

震災後の2012年を舞台に選んだ理由が、宮城県遠田郡出身の映画監督・若松孝二オマージュであったろうこともひしひしと伝わって。主宰初ピンク映画現場としても、深く記憶に刻まれました。最前列の圧がやたらめったら凄いこと、ご夫婦が近くに座ると若干気まずいこと、多くの綾野ファンの女性が単騎で挑まれてましたが何を思ってみてたろうと若干不安に感じたこと…

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