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【再投稿・短編】「album」
もし、人生が二つあったら、貴方はどうしますか?
夢のようだと浮かれるのでしょうか。あるいは、そうなのだけれど。
暗黒が無限に続く。
どこを見ても闇、闇、闇。平衡感覚も狂う程の単色。位置を測るだけの基準すらどこにも無い。
そんな黒が支配する空間に、一つだけ目を引くものがあった。それは白だ。人のように見える。人型にくり抜かれた隙間のような空白のような。淡い縁取りは、輪郭というには心許ない。
ターコイズフリンジ⑤完
インターホンが雨音の中を潜り抜ける。彩月は一人、窓を叩きつけるその音に耳を澄ませていた為、聞き漏らしはしなかった。
突然の豪雨。高い湿度に見舞われ快適とは程遠い中で、一体誰がここの門を叩くのか。彩月は幾人かの予想を立てながら玄関へ向かう。
裸足が床に接地するたびに皮膚との間で音を立てる。小気味よく等間隔で発生するそれが室内に響く。外の喧騒に負けじとよく耳に届いた。
「彩月ちゃん。こんにちわ」
ターコイズフリンジ④
土曜日。今日も彩月は外出している。
正水はというと、特にやるべき仕事も無かったので暇を持て余すこととなっていた。こんな暑い中よく外へ出る気が起きるものだと思いつつ、日頃の運動不足が祟ったのか、立ったまま視線を下に向けるとつま先が見えないくらいには腹部が窮屈そうにしていたので、重い腰を上げる時が来たかと観念していたところだった。
道ゆく若者がこぞって使用しているブランドのスポーツウェアに身を包