最近の記事

国際政治学における政策提言のあるべき姿について

国際政治学の在り方をめぐって、(無用に)過熱した議論がツイッター上で見られた。 発端となったのは、多湖淳『戦争とは何かー国際政治学の挑戦』(多湖2020)を話題とした、田所昌幸教授、細谷雄一教授、小泉悠准教授の鼎談である。 例えばこの鼎談において、細谷教授は、 とまで書き、洗練された方法論に基づく国際政治学には政治的な危険があると仄めかしている。読者としては、Wikipediaで確認できるだけで12冊の単著を出版している細谷教授もまた、一種の事業欲に突き動かされているの

    • 国際政治における道義と力-『中央公論』2024年4月号の鼎談を読んでの雑感

      細谷雄一・東野篤子・小泉悠「鼎談 SNSという戦場からーウクライナ戦争が変えた日本の言論地図」『中央公論』第138巻第4号(2024年4月号)を読んだ。色々と思うところはあるが、さしあたって小泉悠氏の以下の発言にコメントをしておきたい。 小泉氏は、次のように言う。 「東野先生は先ほどから、原理原則を確認することの重要性をおっしゃっていますが、教科書に書いてあるような原理原則を否定したいという偽悪的な喜び、中二病的な欲望って、誰の中にもあるんですよね。あるいは原理原則は欺瞞で

      • 真かつ美だが、善ではない:続・日本のとるべき安全保障政策について

        はじめに:プランBの必要性 ドナルド・トランプ氏が共和党の予備選挙に勝利した。これで、バイデン氏とトランプ氏の間で、大統領選挙が戦われることが確定した。伝えられるところによれば、トランプ氏は世論調査でバイデンをわずかにリードしているという。二期目のトランプ政権の可能性は、現実のものとなった。 二期目のトランプ政権の政策がどのようなものになるか、予断は許さない。しかし、高い確率で、日本に対して更なる安全保障のコストの負担を求めてくると予想できる。また、たとえバイデン氏が大統領

        • 政治における密教と顕教:覚書き

          政治においては、議論が全く通じない分からず屋の敵が、既存の政治経済社会秩序に与える深刻な脅威があってはじめて、既存の秩序がかえって安定するという側面がある。 例えば、五百旗頭真『評伝 福田赳夫-戦後日本の繁栄と安定を求めて』で述べられていたように、日本の健康保険制度は、共産主義者という分からずやが、深刻な危険を体制に与えていたが故に整備されたという側面がある。 また、共産主義の脅威こそが第二次世界体制後の西側諸国での所得格差の拡大を抑制したという議論として、Sant’An

        国際政治学における政策提言のあるべき姿について

          我慢の時間帯:日本がとるべき安全保障政策

          はじめにNATOと日本(韓国・オーストラリア・ニュージーランド)という「インド・太平洋諸国」との関係強化に関する「米国平和研究所(United States Institute of Peace)」のレポートが出たので、ざっと読んだ。レポートのサマリーによれば、ウクライナに侵攻したロシアと、NATOによる中国に対する安全保障上の意識の高まり、そして米中の戦略的競合による国際政治システムの構造変化というコンテクストを背景にして、NATO諸国とインド・太平洋諸国の関係強化局面にあ

          我慢の時間帯:日本がとるべき安全保障政策

          『ハーバー・ビジネス・オンライン』に掲載予定だった安倍政権期の警察・内閣情報調査室をめぐる論考(3・終)

          ハーバー・ビジネス・オンライン第四回目のために書かれた原稿である。一読して分かるように、推敲が完全ではなく、メモ書きとなっている部分もある。だが、明らかにおかしいところを除いて、基本的に筆者のPCの原稿そのままを転載することにした。2019年から情報はアップデートされておらず、誤りがある可能性もあるので、あくまで参考として欲しい。なお、周知のように、岸田文雄氏が日本の「民主主義は危機にある」と述べて総裁選挙に立候補、勝利して岸田政権が成立したことから、筆者が以下の論考で述べる

          『ハーバー・ビジネス・オンライン』に掲載予定だった安倍政権期の警察・内閣情報調査室をめぐる論考(3・終)

          『ハーバー・ビジネス・オンライン』に掲載予定だった安倍政権期の警察・内閣情報調査室をめぐる論考(2)

          前回からの続き。 内閣情報調査室の権限が大きすぎる<日本の情報機関の政治化3> (中見出し) 内閣情報調査室の権限拡大が「制度化」される危険  この短期連載では、内閣情報調査室や公安委員会が政治に接近していることを指摘してきた。 【第一回】 【第二回】 筆者の論考に対して、こう反論する人がおられるかもしれない。最近の内閣情報調査室のプレゼンス上昇は、首相秘書官を務めた北村滋氏という個人が、安倍晋三と個人的に密接な関係を築いたがために起きているにすぎない。従って、北村

          『ハーバー・ビジネス・オンライン』に掲載予定だった安倍政権期の警察・内閣情報調査室をめぐる論考(2)

          『ハーバー・ビジネス・オンライン』に掲載予定だった安倍政権期の警察・内閣情報調査室をめぐる論考(1)

          安倍政権期の公安警察による冤罪事件  2024年2月18日放映の以下のNHKスペシャル『続・”冤罪”の深層~警視庁公安部・深まる闇~』を観た。 視聴しての感想は、「衝撃的な内容であるが、同時に予想通り」というものだった。というのも、私は2019年ごろに集中的に警察・内閣情報調査室について調べたことがあり、当時から何か異常なことが警察内部で起きていると思っていたからだ。実際、いまはなき『ハーバー・ビジネス・オンライン』というウェブ・メディアに警察関連の記事を寄稿したこともある

          『ハーバー・ビジネス・オンライン』に掲載予定だった安倍政権期の警察・内閣情報調査室をめぐる論考(1)

          共産党さんと公安警察さんは和解して下さい!

          日本共産党に対しては、その組織が閉鎖的(民主集中制)だと批判されることがあるけど、公安警察に共産党が徹底的にマークされていることを考えると、共産党が閉鎖的な組織形態を取らざるを得ないのも仕方ないかな、と思う派である。 というのも、公安警察は絶対、共産党内部にスパイ(プロバカートルAgent provocateur)を潜入させて、党内を混乱させようとしていると考えられて(https://weblio.jp/content/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%90

          共産党さんと公安警察さんは和解して下さい!

          実験の時代へ?宇野重規・若林恵『実験の民主主義』を読んで

          宇野重規・若林恵『実験の民主主義:トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ』(中公新書2023年)を読んだ。書名が示すように、実験精神あふれる本で、読んでいて楽しかった。何より、新しい制度・新しい政治の在り方を模索しようとする姿勢が、とても新しかった。新しい政治学の胎動を感じた!そこで、思いついたことをいくつかコメントして、私の現在、考えている官僚制改革・公務員制度改革のための方策を少しだけ紹介してみたい。 コメント ①公務員・官僚が市民の中に入っていって、ファシリテータ

          実験の時代へ?宇野重規・若林恵『実験の民主主義』を読んで

          戦後処理の失敗は致命的な結果を生む

          クレマンソーが第二次世界大戦を準備したのと同じ意味で、クリントンはウクライナ戦争(そして新冷戦)を準備したと思っている。いずれのケースでも、戦争に勝利した側が敗者を追い詰めすぎたが故の反動が生じてしまった。 アイケンベリーは『アフター・ヴィクトリー 戦後構築の論理と行動』(アイケンベリー 2004)で、戦後処理こそが平和維持にとって重要だと論じた。「勝って兜の緒を締めよ」が平和維持のために重要なのに、それが政治家の無能故にできなかった。 ヴェルサイユ講和会議でもNATO東

          戦後処理の失敗は致命的な結果を生む

          人の政治信条を笑うな:2024年アメリカ大統領選挙について

          ツイッター上で、以下のようなつぶやきを見た。 国際政治上の立場は違うが、鈴木一人先生は尊敬すべき学者であると認識している。しかし、「トランプが正気ではない」といった意見には強く反対したい。以下、その理由を述べる。 なぜトランプとトランプ支持者の悪口を言ってはいけないか 第一に、「資本主義 対 共産主義」という経済システム上設計上の対立が存在しない現代において、アメリカ合衆国が世界の平和維持のためにアメリカ合衆国国民の血税をつぎ込むべき理由は全く明らかではない。 例えば

          人の政治信条を笑うな:2024年アメリカ大統領選挙について

          政治と道徳の分離の必要性について:官僚制を題材として

           政治制度は、保守的に、かつ道徳的な議論からは距離をとって考察されねばならない。昨今、キャリア官僚の退職者が増加している理由は、「天下り禁止」「内閣人事局の設置」であろう。天下り禁止によって激務であるにもかかわらず、職業上、成功した職業人生を歩んだ場合にもその生涯年収が大きく低下した。  またキャリア官僚の職業上の魅力は、若手のうちから一国の政策立案に大きく関わることができる点にあったが、内閣人事局の設置といわゆる「政治主導」によって、その魅力は失われたようである。  確か

          政治と道徳の分離の必要性について:官僚制を題材として

          令和臨調記者会見を拝聴しての雑感

          今般の政治スキャンダルについて、令和臨調による記者会見を面白く拝聴した。以下から視聴できる(https://www.youtube.com/watch?v=gWnx341YSJg) ①まず政治資金の公開性上昇と厳罰化を直ちに実行に移すのは「基本的に」反対である。規制する前に、議員たちが政治資金を何に使っているかを解明するのがより合理的な政治資金規正立法のためには望ましい。そのためには、独立調査委員会を設置し、匿名での聞き取り調査を行い、その結果については、数年後(少なくとも

          令和臨調記者会見を拝聴しての雑感

          「推定無罪」「ハラスメント」概念の適用範囲について:対話篇(2)

          (会議机を挟んで向かい合って二人が座っている) (片方が、一枚のペーパーを差し出す) 「暫定的なものですが、昨今のフェミニズム運動の在り方を見ていて考えたことをたたき台的にまとめました。内容は、『推定無罪』と『ハラスメント』概念の適用範囲の在り方について、です。まずご一読いただき、その後ディスカッションしましょう」 「読ませてもらいましょう」 (もう片方がペーパーを受け取り、読み始める) (ペーパーには以下のように書かれている) 1.概念適用の制限的使用と拡張的使用 私

          「推定無罪」「ハラスメント」概念の適用範囲について:対話篇(2)

          「組織」なき政治運動の隘路:LGBT理解増進法をめぐるインターネット上の政治闘争から

          ここでは、①現代フェミニズムは組織化すべきであること、②組織化するにあたっての六つの論点を明示する。 LGBT理解増進法をめぐる政治 2023年に、成立したLGBT理解増進法をめぐって、インターネット(ツイッター)上で激しい応酬があったことは記憶に新しい。その際、法律を攻撃する側が武器としたのは、トランス・ジェンダーの人々は、単に自らを女性と称するだけで、トイレや更衣室、公共浴場を利用できるようになるという主張であった。 このような主張が法的に見て根も葉もない流言である

          「組織」なき政治運動の隘路:LGBT理解増進法をめぐるインターネット上の政治闘争から