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「明日この世を去るとしても、今日の花に水をあげなさい」 樋野興夫

「よい言葉は、あなたの心の隙間に光を差す。」



「明日この世を去るとしても、今日の花に水をあげなさい」 樋野興夫


樋野興夫ひのおきおさんは、病理学者です。


研究室でがん細胞を観察したり、亡くなられた方の解剖をして、がんで死に至った原因を解明する仕事をしています。


樋野さんはがんになった原因を解明するという仕事も重要だけど、患者さんの心のケアも同様に重要だと考えました。


そこで


樋野さんは勤めている病院で、特別外来を開設したのです。


「医師と患者が対等の立場でがんについて語り合う場」がん哲学外来です。


がん哲学外来は、薬を処方したり、医学的な治療は一切しないそうです。


かわりに「言葉の処方箋」を出します。


僕は本屋で本を選んでいたときに、この本が目に留まりました。


帯には「がん哲学外来」創始者による
言葉の処方箋48と書かれています。


僕は、今から約7年前に「がん」と診断されました。


頭が真っ白になりました。


「死」も考えました。


がんと診断されたら、「死」のことをどうしても考えてしまいます。


頭の中から、ひと時も離れることがなくなりました。


樋野さんは、「はじめに」でこのように語っています。


がんになると、多くの人が自らの「死」を意識し始めます。

そしてそのうちの約3割の方がうつ的な症状を呈します。

がんになったことで生きる希望を失ったり、生きる意味が見出せなくなったりし、うつ的な状態に陥ってしまうのです。


僕には幸い本がありました。


今まで読んできた本の言葉に救われました。


頭の中で、今まで読んだ本の言葉を反芻しました。


完全に恐怖がなくなったわけではありませんでしたが、かなり不安を軽くできたと思います。


樋野さんも、患者の思考そのものを前向きに変えることで、うつ的症状を解消することになり、そのきっかけになるのが、「言葉」であると語っています。


僕は最初の入院のとき(化学療法はしないで手術だけでした)、テレビは一切見ずに本ばかり読みました。


それも良い言葉や感動するような本を読みました。


できるだけ、日常の情報は入れずに静かに本を読み続けました。


これが良かったと思っています。


言葉は、すごい力を持っていると感じました。
落ち込んだ心に光が差し込んできました。


反面


樋野さんは、言葉の難しさも語っています。


言葉は人を癒すけれども、傷つけることもあるというのです。


樋野さんは「言葉の処方箋」と書いているように、患者さんによって言葉を選んでいます。


私が言葉の処方箋を出すときに気をつけているのは相手に対する配慮です。

言葉は薬にも毒にもなります。

同じ言葉をかけても、それによって
慰められる人と傷ついてしまう人がいます。

多くの場合、偉人たちの言葉を贈ることにしています。

偉大な人物の言葉は、配慮はあるが遠慮がありません。

相手を傷つけることなくエンカレッジ(元気に)してくれます。


「がんばって!」や「あきらめないで!」と声をかけるよりも、「目下の急務はただ忍耐あるのみ」という偉人の言葉を患者に贈るそうです。


言葉に込められた覚悟とでもいうのでしょうか、言葉の持つ重みが違います。そして何より、心の中で何度も繰り返し唱えることができます。


きれいごと、当たり障りのない言葉は口にしないそうです。


配慮はあるが、このような遠慮しない言葉の方が患者さんには確実にヒットするようなんですね。


遠慮しない言葉を患者さんが求めていることは、樋野さんが300人以上の患者さんやご家族にお会いして学んだということでした。


その言葉は、読書で培われたものだとも語っておられます。偉大な先人たちの言葉を読み、暗記して患者さんに「言葉の処方箋」を渡しました。


言葉の力でみなさん笑顔になって帰っていきます。


僕は病気になり、がんと診断され、不安と恐怖が襲いました。


そんな時、本の言葉があったから落ち着きを取り戻せました。


樋野さんは、「明日この世を去るとしても今日の花に水をあげなさい」と患者さんに言葉を贈るそうです。


自分以外のものに目を向ける。
そのようなメッセージです。


生きるということは、自分のことばかり考えても見えてこないんですよね。


この言葉を見つけたときに、生きることはこれなんだ!と感得しました。



【出典】

「明日この世を去るとしても、今日の花に水をあげなさい」 樋野興夫 幻冬舎



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