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連載小説「359°」

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記事一覧

連載小説「359°」 第4回

  『ユナ』 ④

 「あー。今日は、丸つけしてすぐに返すから。終わったやつから持ってこーい。」
イトウ先生は、テストを回収して後日返却することもあれば、その場で採点をしてそのまま持ち帰らせることもあった。一度回収されたテストが返ってくるのは、早くても数週間後—大抵、学期末にまとめて返却ーであったことも、この人のテキトーさをよく表していた。
この時の私は特に、早く結果が知りたかったので、すぐに返っ

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連載小説「359°」 第3回

連載小説「359°」 第3回

   『ユナ』 ③

 担任のイトウ先生は「抜き打ちテスト」が大好きだった。「抜き打ちでも点数を取れるのが、本当の学力だからな!」といつも偉そうに言っていたが、なんてことはない。毎週の時間割を何も考えずにテキトーに作っているだけのことだ。現に、体育館が空いていないから今日の体育は無し、なんてことは日常茶飯事だった。定年間近のおじいちゃん先生で、授業を早めに切り上げてどうでもいい雑談をしたり、突然の

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連載小説「359°」 第2回

連載小説「359°」 第2回

   『ユナ』 ②

 仲濱市立。仲濱南小学校。新興住宅地のそばに位置しており、市内でもトップクラスの児童数を誇るいわゆるマンモス校だ。一年四組。ヒナも私も、同じクラスになった。この仲濱南小では進級の度に毎年クラス替えがあるのだが、私たち姉妹は小学校生活の六年間、ずっと同じクラスで過ごすことになる。双子の絆が生んだ奇跡、では、決してない。母親が学校にそれを希望したからだ。
「参観日も同じ教室から移

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連載小説「359°」 第1回

連載小説「359°」 第1回

   第一章 『ユナ』 ①

 私は、姉が大好きで、世界中の誰より嫌いだった。
 双子なんてものには、生まれない方がいい。私はそう思う。特に、見た目もそっくり、いわゆる一卵性なんてやつは本当に厄介だ。もちろん異論は認めるし、むしろ多くの人に異論してほしい。でも、ほら、兄弟のいない一人っ子が兄弟を求めるように、結婚した者が独身生活に焦がれるように。人間というのは常に反対側に思いを寄せてしまう罪な生き

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