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こころあれこれ

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記事一覧

岩宮恵子「生きにくい子どもたち カウンセリング日誌から」

岩宮恵子さんは河合隼雄の弟子筋で、長年スクールカウンセラーとして、子どもたちの心の問題に向き合ってきた方です。

岩宮さんはその経験から、子どもは大人たちの日常とは異なる“異界”に生きていて、その世界とうまくつきあうことができないと、生活に支障をきたしてしまう、との考えに至ったのですが、そのことを2つの事例によって分かりやすく説明しています。

1つ目の事例は、「スーパー長男」だったアキラ

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東畑開人「居るのはつらいよ:ケアとセラピーについての覚書」

臨床心理学を学び、博士号を取得して大学院を卒業した著者の東畑さんは、院にとどまることを良しとせず、臨床心理士として就職することを望みます。
ところが待っていたのは、就職難という現実。セラピストとして働くことができ、かつ妻と子どもを養うに足る収入のある就職先がなかなか見つかりません。ようやく、見つかったのは沖縄のデイケアセンターでした。この本は、若き日の東畑さんがそのデイケアセンターに飛び込んで過ご

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安田登「身体感覚で『論語』を読みなおす」

「論語」は不思議な書物です。ぱっと見ただけでは、孔子の言葉の断片が脈絡なくならんでいて、聖書や仏典のような壮大な物語性は感じられません。書かれていることも礼儀は大切だとか親を敬えといった、なんとなく古めかしい道徳めいたことばかり・・・しかし、古来より幾多の人びとに読み継がれ、生き続けているのです。中島敦の「弟子」のような、論語に題材をとった優れた小説もあります。最近では高橋源一郎さんの新訳「一億三

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河合隼雄『カウンセリングの実際』

河合隼雄『カウンセリングの実際』

河合隼雄は1965年に日本人として初めてユング派分析家の資格を取得し、帰国後心理療法の活動を始めました。本作「カウンセリングの実際」は活動初期の著作になり、1969年に行った講演を基として1970年に刊行されています。既に50年以上が経過していますが、今なお心理療法を志す学生や、実際にカウンセリングに携わっている人たちに読み継がれている名著として名高い一冊です。

カウンセリングのねらいに始まり、

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オリヴァー・サックス『色のない島へ 脳神経外科医のミクロネシア探訪記』

オリヴァー・サックス『色のない島へ 脳神経外科医のミクロネシア探訪記』

『妻を帽子と間違えた男』や『火星の人類学者』などの著作で、自身が担当した様々な患者の生態を生き生きと描き出した脳神経外科医、オリヴァー・サックスの紀行エッセイです。

全体は2部構成となっており、第1部「色のない島で」はピンゲラップ島とポーンペイ島、第2部「ソテツの島へ」ではグアム島とロタ島へ赴いたときの様子が書かれています。
もちろん、どちらもただの観光旅行ではありません。大がかりな学術調査では

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河合隼雄『源氏物語と日本人 紫マンダラ』

河合隼雄『源氏物語と日本人 紫マンダラ』

青年時代に源氏物語を読もうとした河合隼雄は、次から次へと女性と関係を持つ「うそつきて女たらし」な光源氏に腹立ちを覚え、馬鹿くさいと思い途中で放棄してしまったそうです。ところが後年、心理療法家として活動している中で日本人の生き方を考える必要に迫られた河合は、その思索の過程で王朝物語に興味を覚え、再び源氏を読むことにしました。

読み始めた当初こそ、個性がほとんど感じられない光源氏に戸惑いを覚えた河合

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諸富祥彦『カール・ロジャーズ カウンセリングの原点』

諸富祥彦『カール・ロジャーズ カウンセリングの原点』

職場で、学校で、家庭で・・・「傾聴」という言葉はカウンセリングの枠を超えて幅広い局面で使われるようになりました。現在では多くの人が大なり小なり、「傾聴」することの大切さを意識しているでしょう。しかし、「傾聴」に必須の条件や、それを提唱したカール・ロジャーズについてはどのくらい理解されているでしょうか。本書はロジャーズの思想と方法のもつラディカルな本質を一般読者にもわかりやすく説いたものです。

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東畑開人『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』

東畑開人『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』

大切なものは何だと聞かれて考えた
よくよく考えたけど やっぱりこれだろう
幸せだハッピーだ これがすべてだろう
金があっても不幸せじゃどうにもなりゃしねえ
幸せハッピー 誰も文句はいえねえ
幸せハッピー それこそが人生の全てさ
(忌野清志郎「幸せハッピー」)

他者との「絆」を結ぶことの素晴らしさが語られ、「自己肯定感」を持つことの大切さがあちこちで説かれる。確かにそうだとは思うけれど、あまり

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片岡一竹『疾風怒濤精神分析入門』

片岡一竹『疾風怒濤精神分析入門』

千葉雅也さんの『現代思想入門』で推薦されていた、ジャック・ラカンの入門書。

ジャック・ラカンはフランスの精神分析家です。精神分析家の枠を超えてフランス現代思想に大きな影響を与えたのですが、その思想は難解として知られています。その名前は“難解”の枕詞なのでは、と思うくらい、とかく彼を語る際には「難解として知られていますが〜」という但し書きがつきまとうのです。

本書はそんなラカンの精神分析理論をた

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河合隼雄『あなたが子どもだったころ〜こころの原風景』

河合隼雄『あなたが子どもだったころ〜こころの原風景』

大人は昔の自分を忘れてしまう生き物さ
(沖田浩之『E気持ち』より)

ロングセラーとなっている『子どもの宇宙』に代表されるように、河合隼雄にとって〈子ども〉は重要なテーマの一つでした。河合が〈子ども〉を語るときは、児童文学やファンタジーの解説を通すことが多いのですが、本書は各界を代表する10人との対談集になっているのが特徴です。

どのような内容なのかは、各対談につけられたタイトルを紹介するのが手

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東畑開人『ふつうの相談』

東畑開人『ふつうの相談』

悩みに苦しんだり、メンタルの不調に陥ったときに、いきなりカウンセラーと面会したり、精神科に行く人はそれほどいないのではないでしょうか。
家族や友人、職場の同僚や上司など、多様な「ふつうの相談」がカウンセリングの専門家への相談の前に広がっています。

経験知や世間知、現場知などの「ふつうの相談」を分析し、掘り下げることで、カウンセラーや心理療法家による専門知の間に架け橋をかけ、心を治療するということ

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R.D.レイン『好き?好き?大好き?』

R.D.レイン『好き?好き?大好き?』

読書の秋ということもあってか、今月の河出文庫のラインアップは攻めてます。本書もその一つ。まさかレインの著書が文庫化されるとはーそれもこんなにポップな表紙で!ー思いもよりませんでした。

R・D・レイン は1927年、イギリス生まれの精神分析家。主な著書には「引き裂かれた自己」や「自己と他者」等があり、反精神医学を提唱した…と紹介していくと、お堅い印象を与えるかもしれません。

しかし本書は学術書で

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