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『赤と青とエスキース』 - アートは人生の一里塚

この記事では、青山美智子さんの『赤と青とエスキース』を読んで(聴いて)、「アート」は人生の一里塚ということを書いています。

青山美智子さんという作家


青山美智子さん(1970〜)は、大学卒業後、オーストラリアにワーキングホリデーに行き、その後、ビジネスビザを取得、シドニーの日系新聞社に勤務した経験があります。今回の『赤と青とエスキース』でも、オーストラリアが舞台として取り上げられています。

2017年に、『木曜日にはココアを』(宝島社)で小説家としてデビューします。『赤と青とエスキース』は、2022年本屋大賞の第2位を獲得しています。



一枚の絵をめぐる物語


「エスキース」とは、下絵を意味するフランス語。この本では、一枚の「エスキース」をめぐる独立した物語が展開します。

メルボルンに留学中の女子大生・レイは、現地に住む日系人・ブーと恋に落ちます。オーストラリアにいる間だけの「期間限定の恋人」。帰国間近になって、レイは、ジャック・ジャクソンという画家のモデルになります。時間が限られているので、下絵として制作された絵。レイがオーストラリアで過ごしたこと、ブーと恋人であったことの記憶。この「エスキース」がその後の物語に登場するのです。

  • 日本の額縁工房の職人が、この「エスキース」に出会う話。

  • かつてのアシスタントが売れっ子漫画家になっていて、対談企画に呼ばれて訪れた喫茶店に「エスキース」がかかっている。

  • パニック障害が発症し休暇をとることになった51歳の茜が、元恋人の蒼の留守に、猫の世話をすることになり、「エスキース」が掲載されている記事を見つける。


映像的な作品の創り方


青山さんは、小説の着想について次のように語っています。

私が考えるというより、物語のほうが引っ張ってくれることが多いです。ストーリーや展開は小説が決めてくれます。頭の中に映像が見えて、それを写している感じです。

作家インタビュー 2022年本屋大賞2位 青山美智子

頭の中に映像が見えるなんて羨ましい!

映像を文章にしている創り方、そして、オーディオブックで聴いたこともあり、それぞれのストーリーの情景が鮮やかに浮かんできます。登場人物も少なく、話がストレートなのも映像的です。

そして、独立した物語のように思いきや、エピローグでミステリーかのような展開になったのはびっくり。このときは、前の話を読み返したくなり、音声ではなく、文字で読んでいた方がよかったなと思いました。

アートは人生の一里塚


このような物語ができるのも、「エスキース」を軸にしたからでしょう。

私は、ギャラリーでアートを観て、非常に印象に残った作品を購入することがあります。後で作品を観たときに、購入したときの状況は、その時期にどんなことがあったかということも思い出すことができます

アートは記憶に結びつきやすい、人生の一里塚ということができます。

是非、皆さんも『赤と青とエスキース』を読んで、お気に入りの絵を探してみてはいかがでしょうか。


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